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rainy days  作者: haruki
episode1 - Cmaj7 -
7/18

6.「部屋が散らかっているのではない。物がランダムにあるのだ。」

 ・・・と、ここまでが僕らの今まで。彼女と出会って、僕が音を飾るまであくまでも概要に留まらないのだけれど。

「はらへたー、あついー」

 今日も平常運転な彼女。

「あー・・・」と、彼女が一息ついたあとに言う台詞は意識しなくても僕の声と重なる。

「「つまんない」」

 目を見合わせて三秒。

「なんかないかなぁ。」

「何か始めるのも面倒な癖に。」

「そう、問題はそこなんだよね。」

「あぁ、そゆことか。」

 疲れた、だるい、暇、眠い、寝るのも疲れた全てを解決できる「やる気」というのが今の僕らには欠如している。まぁ、きっかけは単純なものくらいで丁度よくて、小さいくらいが僕らのスケールに合っていて、そういう日常なんだから誰に何を言われても変わらない。

 しかし、そろそろ新曲を送らないと困るんだよな。暇なら、時間があれば仕事なんか関係なくギターを弾きたくなる。ポロローンとやる気なく弾く。

 ものはあるけど空っぽの部屋。音が響くと彼女は歌う。そして、楽しくなる。

「ふんふん♪」

「わらかすなw」

 そんな僕らもご愛嬌。だから僕も歌う。15分、多分それくらい経ったと思う。

「ねぇ、さっきのコード教えて」

「どれだよ。あぁ、これか」

「それ。」

「あのさ、教えてもらってるときにあれなんだけど、」

「?」

「今すごい顔ブス」

「今ブスつった?」

「ひひ」

 まぁ、こんな日常もいっかな。僕に対して一切の気を使わないでいてくれる事が嫌いじゃない。

「鳴ってる」

「あ、」

 彼女に教えて貰うまで自分の携帯が鳴っていることに気付かなかった。

「なんでもない」

「あぁ、そゆこと。」

 彼女は気が遣える人間だ。突っ込んで話を聞いたりしない。

 でも

「また、鳴ってるよ。お母さん何かあったんじゃない?」

 核心は着く。

「いや、ほら、ね?」

 僕も段々と挙動不審。大丈夫、大丈夫、何でもない、普通の会話をするんだ

「大丈夫?悪魔みたいな顔して、冷や汗出てるけど・・・」

 もう彼女の声が耳に入らない。携帯を手に取った瞬間、着信が止み、安心するがその直後、メールの着信。僕は驚きトトロ張りの大声で携帯を投げ捨てる。

「相変わらずだね。」

「これはもう・・・仕方ないんだ…」

 察しのいい方ならもう分かると思うが、僕は家族とか言うものがこの世界で一番苦手だ。理由は追々話すとして・・・。

「それよりさ、これ見て。」

 彼女は自身で飲んでいたお茶の入ったグラスを僕に見せる。あれは僕が以前使っていたグラスが小さくて沢山飲みたいときに不便だからという理由で僕と彼女のお揃いで2つ買ったもの。今日はその中に僕のスマホが入っている。

「携帯ショップ付き合ってあげようか?」

「うん。」


*


 携帯ショップというのは待つ。兎に角待つ。今、日本でのスマートフォンシェア率というのも人口に対して70%以上にもなるというのだから、どこのショップも人間が溢れかえるのも理解できる。

「暇。」

 彼女はスマホゲームをしながら呟く。ぱっと目に入った画面ではFPSでヘッドショットを決めた瞬間だった。

「その割には楽しそうね。」

「FPSは好き。待つのは嫌い。」

「ま、まぁね。」

 そのとき「89番でお待ちの方ー」と、呼ばれたのでささっとカウンターへ行き機種変更を済ませた。プランもオプションサービスも機種ももう決まっていたので実際には30分ほどで新しい機種(以前の機種の新しいシリーズ)を手に入れたのだった。

「ありがとうございましたー。」

 店員さんの気持ちの入っていない言葉に見送られ、僕らはショップを後にした。

「暑い。タクシーで帰ろうよ。ほら、社長に言えば経費で落ちるし。」

「いや、そういうけどあとで諸費関係処理するの僕だからね?結構手間なんだけど。」

「でも、暑いよ。遊びに行くのも面倒だし。それに、」

 彼女は言うのすら面倒になったのかもう言葉を綴るのをやめた。

「はいはい、分かったよ。Wi-fi飛んでないと色々と面倒なんだよな。早く帰りたいのは僕も一緒だから。」

「そゆこと。」

 しかしそれから15分。

「タクシーつかまんねぇ。。。」

 彼女は都会のど真ん中で銃撃戦をしながら暑さに耐えている。しかし、活動限界まであと5分が限界だろう。

「呼ぶか。」

「もう呼んでる。」

「え?」

 そう思った瞬間、タクシーが僕らの目の前に止まった。

「おお、凉!やるじゃん!」

「まぁね。」

 どや顔の彼女。ケータイショップまで着いてきてもらって、タクシーも気付いたら呼んでいる。流石は出来る女だと言われたい顔だ。

「「あ、」」

 運転手は太っていた。汗をかいていた。涼しいはずの車内で。

ドアが開いた瞬間彼は言う。

「すいません、今エアコン壊れてて。」

 僕はこういうとき迷わない男だ。彼女のためにもはっきりと言わなくては。

「チェンジで。」

 僕らはバスで帰った。



 帰宅後、水樹がPCを開くとメールボックス事務所からメールが届いていた。内容は少し前に斉藤さんに送っておいた楽曲のマスタリング後のものが添付されているのと、例の企画のプロット。

 マスタリングは水樹が面倒だからやらないだけなので、添付されたもので良ければパッケージ化されるのだが、今回の最大の問題はそれではない。例の企画の楽曲の依頼である。

 二人はその瞬間に体感していないものは曲にできない。というか、曲にならない。作曲という行為が写真を撮るのと同じように場面を切り取るということでしか出来ないのだ。


 ちなみに企画のテーマは「恋に落ちる瞬間」というもの。とりあえずプロットを見てみる。



 大人になりきれない学生たちの青春群像劇。主人公は18歳。高校を卒業する1週間前から物語は始まる。

 親の転勤と共に離れてしまった街の大学へ入学するために戻ってきた街で、幼馴染みと再会。なんと、同じ大学へ通うことに。

 当時の懐かしいメンバーに再会も果たし、皆で戯れていたら夜になってしまい、もう時間が遅くなったからという理由で幼馴染みを見送っていた。そのとき、真上には綺麗な満月が。その満月は段々と近付いてきて、14日後には地球は月の衝突により大破してしまう。そんな中、月の使者と、名乗る謎の美少女が…



「いやいやいやいや…青春群像劇…なのか?」

とり合えず、先ずは相談。

「あのさ、新しく依頼来たんだけど。」

「題材は?」

「『恋に落ちる瞬間』だってさ。」

「どこに行けば見れるかな。」

だよね。

「街中歩いててもきっと見れないと思うよ?ほら、ナンパしてる人はうざいくらいいるけど。」

「私、あれ嫌いなんだよね。コンビニ行くだけで話しかけられてちゃ、もうたまんない。あ、そうだ。催涙スプレーネットで注文しよっと。」

「スプレーの注文に関しては何も言わないけどさ、なんかないかなぁ、丁度いいの。」

「人生そんな丁度もの中々ないって。あ、このスプレー凄い効きそう。」

 彼女がタブレットで注文を確定したらしく、注文完了メールがすぐにタブレットに届いた音がした。

 しかし、難しい。体験せずに「見る」。今回は、あくまでも視聴者目線で曲を書く。恋に落ちる二人を包むように描く。そんなイメージで凉は考えていた。

「あーわかんねぇ。」

 と、僕も現実逃避気味にネットサーフィンをする水樹。

「ヘッドフォンの耳の部分がグズってきたし、新しいもの・・・っと。」

 次へ、次へ、確認する、というお馴染みの項目をクリック連打。

 しかし、手が滑りマウスのポインタがずれて広告をクリックしてしまった。

「あーあ。また入力し直しだよ。」

「声に出てるよ。」

「いや、ミスって求人サイトクリックしちゃって。」

「就職するの?」

「ニートって会社あればいいのにね。」

「作れば?」

「資本金は?」

「んー。108円?」

「税込みそれくらいで出来ればいいのにね。」

 それは2018年現在の税込みの話である。

 元のページへ戻るためのリンクを開き直す。


・・・。


・・・・・・。


・・・・・・・・・。


「ねぇ、見れるかも。」

「ニート?」

「違うよ。分かってるくせに。」

「恋に落ちる瞬間?」

「うん。ちょっと事務所に内緒で冒険しようよ?」

「どこまで?」

「婚活パーティ。」

 凉はにやりと不敵に浮かべ

「おけまる。」

「いい相方だよ。」

PCの画面には「婚活パーティ受付コールスタッフ募集」と書かれていた。



翌日。


 人間、少し悪いことをしているときは色々と手回しが早かったり、悪知恵が働いたりする。

当の二人であつまても、それは例外ではなく。

「来ちゃいましたね。」

 と、凉はにやけている。この不敵な笑みを水樹は忘れないだろう。

 受付事態は別々に受けた。

あくまでも今日僕らは婚活パーティーに参加した一個人達。

 そして、扉を開けると立食パーティーの如く見渡す限りのビュッフェ。

「えっと、こういう場合は…。」

 正面から左側の少し後ろ側。

「あ、いた。」

凉は既に爽やかそうなイケメン(風の髪型をした男)に話しかけられていた。

 あの作られた微笑みこそ凉が今までの人生で培ったスキル。そして、たまに眉間が動くのを水樹は見逃さない。

 そう。彼女は自分の話ばかりして人の話を聞くと検討違いなベクトルで受け止めて、ブーメランを口から投げるような人間が嫌いだ。そして尚且つ、絶対的に自分が一番でなきゃいけない人間がよ

り嫌いだ。

 詰まる所あのイケメン(仮)が嫌いだ。

「さぁ!お集まりの皆さん、では胸に付けているパネルの番号。女性なら赤、男性は青。同じ番号同士の方を見つけて自己紹介タアアアアアアアアアアアイム!!!!!!!!!!!!」

司会の高らかな声が響く。

「えっと、僕は36番だから、36番は・・・。」

「…。」

 凉は胸に36番のパネルをつけて、僕の目の前で笑いを堪えている。

「お前かよ!!!!!!!」

 いかんいかん、大きな声を出してしまった。そしてネクラさから声にならない声を出してしまった。

 周りの人間に二人が身内だとばれてしまえば、今回の目的は一切達成出来なくなる。

「ねぇ、何で胸元の年収そんなに正確に書いてるの?」

「いやぁ、正直なほうがいいかなって。」

「僕なんて逆サバ読み過ぎてサラリーマンの平均収入ググっちゃったよ。」

「だから、人が寄らないのね。」

「うるせぇ!」

と、斜め前にはさっきのイケメンと雰囲気美人な女性。

イケメンの年収は・・・370万。普通だった。そして気になる雰囲気美人は、390万。僅差で負けている。

 ぱっと凉を見るとスマホのメモにもう歌詞書き始めてるし。ローストビーフを食べながら。

「では、次は1~10番同士。11~20番同士・・・。という風にグループになってのコンパ形式でお楽しみください!」

 となった瞬間、一斉に凉の元へ集まるゴミ虫達。年収目当てなのか、顔なのか、オーラなのか。一目散に恋に落ちて行く、人々。人間がこんなにいると…目がこんなにも・・・あると・・・なんか・・・引くな。

 凉はは連絡先カードを色んな人に渡している。

しかし、その実態を水樹は知っている。ネットの掲示板にお金貸しますと書かれたスレッドに書かれていた番号だと。

「えーすごーい。」

 輪の中心である凉の棒読み感が凄い。でも、もう彼女のゾーンに入ったら彼らはもう詰んだな。時間をどぶに捨てるだけだ。

 その後30分程経った頃、コンパタイムと同時に今日の婚活パーティの時間が終わった。

 数分後、予め打ち合わせていた場所で彼女と落ち合う。綺麗に着飾った凉はやはり見た目だけなら普通に綺麗である。

「おつかれさん。で、どうだった。」

「えっと、ゴミばっか。」

「清掃業お疲れさん。」

「本当にね。世の中会話できない人間があんなに多いと思わなかった。」

「まぁ、僕らの日常に比べるとね。」

「いやぁ、もう色々無理。まぁ、サンプルにはなったけど。」

「実験かよ。」

「実証だよ。」

「まぁ、一番思ったのは家でカップ麺食べてる時間が一番楽ってこと。」

その言葉に胸が温まる。

「さ、コンビニ寄って帰ろ。あ、スーパーカップバニラ食べたい。半分あげる。」

「ありがとな。」

 水樹がもしも、凉の好きなところを挙げるとしたら多分見た目以外の全部だと言うだろう。

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