3.5「雨音-amane-」
=家=
19:58。
バタンとドアを閉めた瞬間聞こえる雨の音。僕らが家に着いた瞬間に降り始めた。雨が降るタイミングも雨音も、さっきまでの空間から現実へ引き戻されていく感覚も、全部が多分丁度いい。丁度いい言葉がなくて、彼女みたいに表現出来ないけれど、だからこそ『丁度いい』。
「ごめん、」
「いいよ、話しかけないから。こういうの久しぶりでしょ?」
「ありがと。」
僕はPCの電源を入れてアコギを手に取る。
彼女はベッドの上にコロンと寝転がって、ぼーっと雨を眺めてる。
洗濯物干さなくて良かったな、なんて日常を思ったら、それはそれで胸がほっこりしてくる。
僕はあまり曲を作らない。作れない訳じゃない。彼女の曲に合わせて、アレンジの過程でストリングスだったり、ギターソロなんかを入れたりする。雰囲気を掴むのは比較的得意な方だと思う。
僕は曖昧で、最初から最後まで通して聴いた時に、胸に残らないただのいい曲を書いてしまう。もしかしたら、今回もそうなのかもしれない。それでも、そういうことを生業としている僕は止められない。
水槽
雨の音
煙草
珈琲
窓辺
彼女の後ろ姿
黒いカーテン
「「ねぇ、」」
声が重なる。こういう時は彼女に譲ることにしている。さらに、こういう時の彼女の言葉は突き刺さる。
「雨の音、入れたいね、その旋律。」
「そうだね。」
早く音を拾わないと。雨がやむ前に。