2.「部屋とワイシャツを着たくない私」
業界には接待というものがある。縦社会であるが故にだ。接待にも夜のきらびやかなお姉さんのいるお店へ行ったり、麻雀をしたり、ゴルフへ行ったり、はたまた草野球をしたりと。様々であるが、音楽業界には接待ライブというものがある。
どこぞの大物アーティスト所属事務所の娘さんが10歳の誕生日を迎えるので、今をときめくアーティスト達を集めて豪華なカラオケを作るというものだ。
時に笠原水樹はクリエイターであると同時にギタリストでもある。そんな彼も例外ではなく、当然の如く例の中に埋もれるように前例のように、とある大物作詞家の娘の10歳の誕生日ライブの接待に駆り出されようとしていた
が
「嫌です。」
斉藤ペンギンが必死になって交渉すること早1時間。水樹は一向に乗り気でない。
「お願いだよおおおお!!!!」
いつも通り斉藤は懇願するが、基本的に接待であったり、進んで仕事をするという行為に対してRainy days自体が直ぐにYESを出すということは先ずない。ある意味平常運転と言えるだろう。
「いや、だって他にも上手いギタリストいるでしょうに。」
「他のギタリストだと嫌なんだって。先方の指名なんだよおおお。」
「で、僕を指名する理由は?えっと、あれですよ。僕以外のギタリストは目立ちすぎて娘の個性を潰してしまうとかなら断りますよ。」
「えっと…へへ。」と首を縦に振らずに実はそうだよテヘペロと言わんばかりの表情である。
「ざけんな!せめて嘘つけや!!」
一連の流れを見ていた凉はけらけら笑っている。
「あ、ちなみに雨水さんにも別件で依頼来てます。」
「ふぇ?ペンちゃん、それなんかのタイアップ?」
「あ、いや。笠原さんに依頼している娘さんのバースデーソングです。」
「ほぼ同じ案件じゃん!ざけんな!」
「まぁまぁ。お二方落ち着いて下さい。」
「「落ち着いてんだよ!」」
シンクロである。
「ほら、色々いいことも有りますから。」
こういうことには凉が反応する。
「ほう、ペンギンよ。言ってみよ。」
「はは。それは、ギャランティにございます。」
「斉藤さん、具体的過ぎ。」
「でも、実際ミュージカルステーション三回分のギャラは出ますし。」
「斉藤さん…」
Rainy daysはこぞってため息のシンクロで返す。その返答に斉藤はため息を溢す。
「やはり、お金では…」
「ねぇ、ペンちゃん。」と被せ気味の凉。そしてシンクロする。
「やるに決まってんじゃん。」
「現金過ぎません!」
「やっつけでいい?」
「いや、まぁある程度なら許されるでしょうけど。それなりのクオリティで頼みますよ?」
んー、と少し伸ばして二人は同時に頷く。
「よし、曲作るか。」
「あの、凉さんがここまで動く理由が私には見えないんですけど。」
「あぁ、僕から言ってませんでしたね。」
「え、えぇ。伺っても?」
「はい。でも、驚かないで。」
「え、あ、はい。」
「隠居生活に向けて、貯金です。」
斉藤はフリーズした。