12.「自意識過剰防衛」
レコーディング自体は無事終えた。作業自体もアコギ録りが主だったが、凉が目覚めるまでのジャスト二時間で完結させた。いつもと同じように弾くだけだ。難しいことは、何一つない。意識するのはただ一つ雨水凉の声に寄り添える音を鳴らすだけ。
凉は目覚めて直ぐにリアルゴールドのショート缶を飲み干して、小さく「…うっぷ。」と。
その後、気合いを入れたのか、肩の力を抜いたのか、といった具合で歌録りもほぼ一発だった。一部、ピッチが悪かったので、そこは一部録り直した。
そして今は自宅兼スタジオに戻り、凉は何かを思い立ったようにスケッチブックに絵を描き、直後爆睡。水樹は放心状態でアコギを鳴らしている。
やっと到達したのか、という喜び。
本当に自分がそこにいるのか、という疑問。
憧れと同じという高揚感。
では、これから何を追いかければいいのかという漠然とした不安。
小さい箱の中、Aadd9が響く。その音にも、自分にも、その全てがごちゃごちゃに混ざった感情にも押し潰されそうになっていた。
「お前ならどうすんだろうな。」
凉に聞こえないからこそ投げた疑問。答えはわかっている。凉はこんな感情も音になる。音が見えるし、空気に溶けていくように、ただそれを掴むだけだ。いつも通り、いつも通り。
誰のせいでもなく、誰が解決法するでもなく、誰にも言えない悩みとも言えない何かが、水樹にはただずっと広がっていくように思えた。