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風が吹きぬけ、光舞う  作者: 甘夏みい
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第一高校 立花宗の物語 第五章

四つの光は舞い上がり、初めての景色へ。

 夏の密度が上がっている。

 緑の色が濃くなって、少しだけ蒸し暑くなっている六月。梅雨に入らないギリギリのラインで始まる市民大会に、並々ならない熱意が込められていた。弘人の祖母が書道教室の先生ということもあり、幟まで作られている。準備は万端、あとは本番を迎えるだけとなっていた。


 一区は鋭い切れ味を磨いてきた怜。あのあと怜は松井に頼み込んで、スタートの瞬間を出来る限り速くする練習に努めていた。そのせいかタイムが劇的に良くなり、十分戦えるようになっている。


 二区は安定した走りが特徴的な賢介。賢介はどっしりと走るタイプなため、そこまで主だった心配はない。けれど唯一の懸念は、一年生の怜にタイムが抜かされそうなことである。怜が急成長したものの賢介のタイムはあまり変化が無かった。そのことに賢介はただ苦笑しただけである。


 三区はパワフルな走りの弘人。弘人もタイムも順調に上げていて、また体力が桁違いについている。坂道が多い三区に最も適した人材だった。また弘人は、タスキ受け渡しが抜群に巧かった。スムーズかつ確実なためミスが少ない。激しやすい性格とは裏腹に、走行は慎重だった。


 そして四区は俺。俺も何とかタイムをどんどん縮め、何とか形にはなるようになっている。また、タイムをもっと良くするためにフォームを徹底的に見直した。神崎から陸上部用のカメラを拝借し、様々な角度から全身を見直す。元々苦手な物理の教科書をひっくり返しながら徹底的に細かい角度まで改善した。


 二年である俺や賢介、弘人は一年と二か月。一年である怜は二か月(中学は陸上部だったそうで、もっと練習経験はあるが)頑張ってきた。カレンダーを捲るたびに、胸が震えてきた。


 ずっとトラックを貸してくれた神崎に「ありがとう」と伝えたら、ただ「勝ってこい」と笑っただけだった。




 ***




 大会、とは熱いものだと実感する。

 とうとう当日になって、会場に到着したら噎せ返るほどの熱気。そして雄叫び。他の高校の駅伝部、もしくは陸上部の駅伝担当が参加しており、濃い空気が充満している。賢介や怜は少し驚いたように目を見開いていた。


 血が滾る。


 隣の弘人が怪訝な目で見てくるのが伝わる。賢介が気持ちを入れ替えようと深呼吸しているのが分かる。怜は胸を抑えていた。


 走りたい。


 自分が何かに憑りつかれたかのように気持ちが高ぶっている。声が聞こえないくらい深い意識の底にあるものが、引っ張り出されていく。


「宗?」


 その意識から掬い上げてくれたのは賢介だった。慌てて顔を上げたら心配そうな三つの顔が並んでいる。


「いや、走りたいと、思って」


 ぼそっと言ったらぶっと吹きだす音が聞こえた。弘人が声を上げてゲラゲラと笑っている。


「それこそアンカー様だぜえ!俺も燃えてきた!やっと走れるんだ!」


 そんな弘人に苦笑した賢介がうるさいと嗜めつつも、目はギラギラと輝いてる。


「ここが、大会。やっと他の人と同じ所まで来たんだな」


 怜はそんな先輩三人を見て何を思ったのだろう。一瞬だけハッとしたように目を丸くして、しかしにこっと人好きのする笑顔を浮かべた。


「お、俺も!頑張りますから!」


 四人で組んだ小さな小さな円陣。他の駅伝部よりも小さな輪の中は、どこよりも熱い。



 空が青い。



 ふと上を向いたら、今にも落ちてきそうなほどの快晴。太陽と雲が重なることなく全力で応援してくれている。


 その時だ。目が合ったような気がした。



 こちらをじっと見ているのは俺とそう背丈の変わらない駅伝部員。恐らく選手なのだろう。ユニフォームに身を包んだ彼は、じっと静かに「俺を」見つめている。


 俺の目が違う所を向いていることに気がついたのだろう。弘人は、ん?と言いながら俺の視線を追っていく。


「あれ、青風の川上颯じゃないか?」

「え!川上ってあのですか!?」


 怜が少し驚いたように川上の姿を探していた。そして賢介も含めた四つ分の視線が集まった川上颯はただ静かに、しかしどこまでも嬉しそうに、にこっと笑ってみせている。


 青風高校、二年 川上颯かわかみはやて

 二年にしてキャプテンを引き継ぎ、県を代表するエース候補として知られている。


書きました甘夏みいです。一旦立花宗の物語は休止し、別の物語が始まります。これから二人の主人公による構成になります。よろしくお願いします。

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