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心の寄る辺  作者: 小日向照
2/2

説教

案外早く書けて嬉しい

朝礼が終わり各々が自由に教室に戻る途中、右側から肩に手を置かれ、声を掛けられた。


「なあ海斗、やっぱりいいよな」


今話しかけてきたのは、この学園で初めてできた友人の氷室剣也だ。茶髪に耳にピアス、そして制服を着崩した格好が不良という言葉を想像させるが案外チャラいだけだったりする。そしてイケメン・・・


「何のことだ剣也?」


こいつの相手は面倒臭いので振り向かず返事をする。


「何って、理事長のことだよ。なんかできる大人って感じがして良いよな。それに美人だし。」


「まあ、そうだけどさ。剣也、お前前にやっぱり年下最高だよな〜とか言ってなかったか? 切り替えが早過ぎるだろ」


確か一週間前だったか、こいつは後輩に告白されて調子にのっていた気がする。

結局フったらしいがな、彼女いないくせに。理由は知らない、聞きたくもない。モテる男の自慢としか思わないからな。


「バカだなぁ〜年下は照れてる姿が可愛いんだよ、で、年上はきっちりとした姿がカッコイイんだよ」


「なんかそれ矛盾してないか? 結局お前はどっちが好きなんだ?」


年下も年上も良いと言っていたら見境がないだろ。


「そうか? 人それぞれ好みがあるからな。それにこれはどっちかっていうと恋愛目線じゃないんだよ。まあ俺的に正直なところ同い歳ぐらいだな」


「ホント面倒臭い性格してるよな、お前って」


「ハハハ、よく言われる・・・海斗、お前ははどうなんだよ?」


剣也が乾いた笑いをしているとそんなことを聴いてきた。


「何がだ?」


「もちろん好みだよ、お前の。どういうタイプの女性が好きなんだよ?」


「いきなりそんなこと聴くなよ」


嫌々になりながらも考え始める。

女性のタイプか・・・どうなんだろうな、自分でも分かんないな。


「・・・すぐには思い浮かばないな」


「マジかよ、なんかねーのかよ・・・・・・まさかお前ホ〇なのか!?」


「そんな訳あるか!ちゃんとノーマルだ!」


僕らがふざけながら歩いていると後ろから冷たい声が掛かる。


「羽島、氷室うるさい、ちゃんと周りのことを考えなさい。喋ってもいいけどもうちょっと静かにしてもらえる?」


「・・・はい、すみません」

「・・・はい、すみません」


僕と剣也は後ろを向き、すぐ近くにいる声の主に頭を下げ謝る。一緒に謝ったので声が重なる。

今僕らが謝っている相手は、今年初めて同じクラスになった秋雨雫さんだ。秋雨さんは一言で言えば委員長タイプの人間で、性格の方ははちょっとキツめ。どこが委員長タイプかといえばキリッとした大きな目に、顔に似合う赤フレームのメガネがとても委員長ぽく思えてくる。髪はポニーテールにして体型はスレンダーだ。

でも実際には委員長ではなかったりする。立候補はしたが惜しくもクラス投票で同じく立候補した相手に僅差で負け、副委員長といった所だ。


「謝るならきちんと謝って欲しいわ、二人共変な事考えてるわよね」


「か、考えてないって、何言ってるんだよ秋雨さん」


「そ、そうだぜ秋雨、俺ら誠心誠意謝ってるんだぜ」


ねえ、と剣也に同意を求めると乗っかってくれた。おそらく剣也も変な事を考えていたのだろう。


僕と剣也の苦笑いが重なり合うが、今僕達の心の中は恐怖でいっぱいだ。その理由は、前に秋雨さんにこってりと叱られたことがあるからだ───




自習時間、僕と剣也は教室で騒いでいた。騒いでいたと言っても大声で喋る程度なのだが。(主に剣也が)

この時はまだ委員長を決めていなかったので、秋雨さんのことは知らなかった。多分この出来事で初めて秋雨さんと喋った気がする。


「なあ、海斗これどう思う!」


いきなり剣也に雑誌を渡されて困惑した。


「な、なにが?」


「なにって、このページのここだよ!ここ!」


剣也が雑誌の一部に指を差した所を見てみると、そこはこの街にあるゲーセンの記事だった。


「へぇー、新しくリニューアルしたのか」


「そうなんだよ〜しばらく行ってなかったから知らなかったぜ。てなわけで、今日行こうぜ!」


「マジ?今日?」


「なんだよ、なんか用事でもあんのか?」


「いやないけど、いきなりだからな」


まあいいか、と答えると剣也は喜んだ。そんなに喜ぶ事でもなかろうに。


「よし、じゃあ今日授業終わったらすぐ直行な!」


「はいはい、わかったよ」


それからしばらく僕達は話し込んでいた。そんな時だったな、秋雨さんが近くに来たのは。そしてさっきとほぼ同じ事を言ったんだ。


「あなた達うるさいわよ、少しは周りのことを考えてくれない?集中出来ないのよ」


この時の僕達はまだ秋雨さんを知らなかったから反論したんだよな。(主に剣也が)


「いいじゃねーか、自習時間なんだしよ。なにしても」


今思えばこの言葉に秋雨さんはキレだんだよな。


「そう、別にあなたが自習時間をどう思っていようが自由よ。興味もないしね。でも私たちには迷惑は掛けないで頂戴。しっかり自習している人だっているのよ。あなた達はその妨げになっているのがわからないの?もし分かっていないようであったらただの馬鹿よ」


「うるせえーな、別に勉強なんて家でやりゃいいだろ。学校でするもんじゃねーんだよ」


「じゃあもし家で勉強が出来ない人がいたらどうするの?あなた達はその人の貴重な時間を壊してるのよ」


「・・・家で勉強出来ねー奴なんているのかよ」


「さあ?知らないわ」


秋雨さんはとぼけたような表情をする。それにイラついた剣也は、怒気をはらんだ声で言う。


「喧嘩売ってんのか!」


剣也は秋雨さんに近寄り、右手で胸元を掴もうとする。


「おい、剣也!」


流石にマズイと思い止めようとしたが、その前に秋雨さんが行動した。


「はぁー、先に謝っておくわ、ごめんなさい」


まず、近寄ってきた剣也の右手の手首を先に掴み、剣也の体の内側に捻った。それは見事な早業だった。


「痛、いて、いてててて」


「案外大したことないわね。それと喧嘩は売ってないわよ。だってホントに知らないもの。私が話してるのはもしもの、仮の話よ」


そう言って秋雨さんは剣也の手首を離し、少し距離を置く。


「クソッ、なんなんだよお前・・・」


「人のことを聞く前にまず自分が名乗ってくれないかしら。私あなた達の名前知らないのよ」


「言うかよ」


ここで僕は口を開くことにした。これ以上はマズイと思ったからだ


「僕は羽島、こっちは氷室」


僕は口を開き、秋雨さんの問に答える。


「おい!」


剣也は怒っているが無視する。


「あら、ようやくそっちの彼は口を開いてくれたのね」


「荒っぽいことは苦手なんだ。君は?」


「私?私は秋雨雫よ、ついで言うと私も荒っぽいことは苦手なの」


これが秋雨さんとの最初の出会いだ。この後色々迷惑を掛けすぎて君付けがなくなったりする。剣也の方は最初秋雨さんに対して強気な態度をとっていたが、今では頭が上がらなくなっていたりする。こんなことがいっぱいあって、何故か僕らは三人組と認知されている。



───そして今に至る


「まあいいわ、とにかく教室へ行きましょう。あまり時間がないの」


そう言うと僕らより前へ歩く。


「なあ海斗、なんで俺等秋雨と行動してんだろう?」


「な、何でだろうね」


正直な所僕もわからない。いつの間にか僕らの中に入ってきたんだから。だから僕は聞いてみることにした。


「ねぇ秋雨さん、一つ聞いてもいい?」


秋雨さんは僕の声に反応して足を止め、こちらを向く。


「なにかしら、あまり時間がないから急ぎたいのだけど」


「時間は取らせないよ。ただ、なんで僕らと一緒にいるのかなって思って」


僕の問に秋雨さんは少し考えるような仕草をしてこう言った。


「私の自由じゃない。あなた達は知らなくていいのよ」


秋雨さんは少し視線を逸らしながら言うと一人で教室に戻って行った。何故かその歩みは早足になっていた。

取り残された僕らは・・・


「・・・ど、どういう事だ?」


「さ、さあ?」


立ち止まりながらチャイムがなるまでずっとここで考えていた。

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