変わり始める日々
ほぼ初めての投稿となるので何卒ご容赦いただければと思います。あと基本的には書き溜めはしていませんので不定期となります。
「・・・お・・・おに・・・・・ちゃん・・・・・・お兄ちゃん!」
「・・・真莉!」
何かにうなされるように寝ていた朝、勢いよくベットから起きる。目覚めは最悪に近いものだった。脳が覚醒してくると自分の行動を思い返し、頭が痛くなってくる。
「また、か・・・もういい加減にしなきゃな」
朝から気持ちの悪い目覚めは、学園に行く気力を失わせる。僕、羽島海斗は誠英学園の二年生だ。しかし、そんな事で休むわけにもいかず、ベットから降り学園に行く準備を始める。顔を洗い、昨日作り置きしておいた朝ご飯を食べ、制服に着替える。一通り準備し終え、時計を見ると八時を回ったところだった。僕は学園の寮から通っているので、徒歩10分あれば着く。学園には九時までに着けばいいのだが、僕はなるべく早く出ていくようにしている。
理由は一度楽をすると、次遅刻してしまいそうになるからだ。
「じゃあ行ってくる」
そう誰かに言うように静かに部屋から出ていった。
☆ ☆ ☆
僕の通っている誠英学園はその広大な敷地から小中高大までの教育施設が揃っている。僕は去年の二学期からこの学園に編入してきたがあまり編入や転校という例は無いらしいく、そのことで僕が編入して来た直後は学園中に話題にもなったほどだ。
それには理由があるのだが・・・
僕は学園に着くと教室に行き、荷物を置くと一つの大きめの紙袋を手に取る。教室にはクラスメイトが何人かいて喋っていたりしていたが、そこまで仲の良い人達ではないので声は掛けず教室を出た。
目的地までは結構な距離がある。何故ならばこの学園の敷地面積はすごくデカイからだ。しかし、まだ朝なので目的地に着くまで誰にも会わなかった。目的地に着くと、ドアをノックをする。
そこは理事長室だった。
「羽島です」
「・・・・・・・・・・」
変だな、いつもこの時間ならいるんだけどな・・・とりあえず入ってみるか。
「入りますね」
ゆっくりとドアを開き、部屋を覗くとドアの近くに人が倒れていた。背丈は女性にしては高い約170cmで、(地味に僕より高くて羨ましい)疲れているのか腰まである黒髪は少々やつれていおり、本来の艶やかさが失われている。
見るからに理事長、だよな。なんでこんなところで倒れてるんだ?
(と、とりあえず起こさないと・・・)
「理事長、理事長、起きてください!」
勝手に入るのはいけないかと思いながら、入口で周りに誰もいないかを確認してから、若干遠慮しながら入る。理事長に近づくと強めに肩を揺すり大声で起こす。
これぐらいしないと起きないからなぁ。心の中で嘆息をつきながら苦笑いする。
「う、ううん・・・・・・あれ海斗くん?どうしてここに?」
「寝ぼけてるんですか、もう朝ですよ」
僕が指摘すると、理事長は慌てたように声を上げた。
この人は誠英学園の理事長の夕霧楓さんだ。見た目二十代かと思うほど若いように見える。
まあ、本当の年齢は知らないのだか。
「・・・えっ!嘘!私寝ちゃったの!?」
「記憶が無くなるほど忙しかったんですか? それにどうしてこんな所で寝てたんですか?」
「ええと、まぁ仕事の方はそれなりにね。それと多分シャワーを浴びに行こうとしてたんだと思うわ。そこから記憶がないもの」
あ〜やちゃったわ、とこめかみに手を当て、嘆きながら理事長は起き上がり、両腕を頭上に伸ばす。
「うっ、はぁ〜〜〜、まあ寝ちゃったのはキツイけれど海斗くんに起こしてもらったって思えば辛くないわね」
「はいはい、ありがとうございます。それより持ってきましたよ朝ご飯」
理事長の言葉を適当にながし、手に持っていた紙袋を渡す。
「いつもごめんなさいね、朝ご飯用意してくれて」
「いえ、当然の事をしているだけです。理事長には恩がありますから」
本当にこの人には返しきれない程の恩がある・・・まあ、その話はまた次の機会にしよう。
「いいのよ別にそれぐらい、それより、理事長って呼び方どうにかして頂戴。人前ならまだしれず、今は二人なのだから名前で呼んで」
それと敬語もね、と笑顔言われたがそんな事出来ないだろう。
「いや、でも一応ここ学園ですし・・・公私は守るべきかと思いまして・・・」
「いいのよ別に、私と海斗君の仲だもの。他の教師達が何か言ってきたら私が何とかするわ」
(なんとなく嫌な感じがする・・・・・・)
「何とかって・・・ちなみに何するつもりが聞いてもいいですか?」
「ふふん、もちろん仕事を辞めてもらうわ」
「あなたは鬼ですか!?」
(どこに生徒が理事長を名前で呼んで、他の教師が注意したからってその教師が仕事を止めなければならないんだ!)
「・・・あっ、流石に冗談よ。三割ぐらい」
「案外本気だったんですね!」
「もちろんよ!私と海斗君の仲を引き裂こうだなんて万死に値するわ!」
「・・・・・・」
(もう何も言えないよ・・・てか絶対この人精神年齢低いよ、やる時はやる人なのに・・・)
内心でそんな事を思っていたら、急に悲しそうな声色で言ってくる。
「・・・それにね、いつも色々な大人達に理事長理事長って呼ばれてるからたまには名前で呼ばれたくなるものなのよ」
(いつも僕の前では楽しそうに笑ったりしてるけど本当は色々苦労してるんだな、やっぱり)
「・・・・・・はあ、分かりましたそこまで言うんなら二人の時は名前で呼びます。それと敬語の方は考えておきます」
「うん、ありがとね。だから海斗君は大好き」
甘いな、どうしてもこの人の前だと甘くなってしまう。恩人、ということもあるがこの人にはお世話になっているから、やはり辛い思いはして欲しくはない。僕が何かをして癒されてくれるのなら、自分ができる範囲でやろう。
「そうだ、楓さん早く食べないとまずくないですか?」
僕の言葉に楓さんの頭の上には?マークが浮かんでいた。
「えっと・・・どういう事かしら?」
「えっ、今日月曜だから朝礼ありますよね? その格好で出るのはちょっと・・・」
今楓さんが着ているのは黒のスーツだが、若干汚れている。多分昨日から着ている服なのだろう。それで全校生徒の前に立つのはいささか問題があると思う。
「・・・忘れてたわ、ダメね私。なら急いで食べないとね」
楓さんが紙袋から弁当と水筒を取り出した時─
「あの、すみません。今日はあまり作る元気がなかったので軽い物になってしまったんですけど・・・」
「大丈夫よそれぐらい・・・あっ、でも海斗君の手作りじゃなきゃイヤよ」
慈愛のある声で言ったあと、子どものように頬を膨らませて言う楓さんに僕は笑ってしまった。
「もう〜、笑うことないんじゃないの?」
「す、すみません。大丈夫ですよ、ちゃんと手作りです」
寮とはいえ一人暮らしには変わらないので基本的には自炊している。寮には食堂があるのだがあまり使用はしていない。
まだ料理を始めて二年ぐらいなのだが、当初すごく下手だった頃から僕の料理を楓さんは食べてくれている。そして、僕が失敗した料理も食べてアドバイスを貰ったりした。今では一人暮らしするには充分なレベルになっていたりする。
楓さんは弁当の蓋を開けると、中には海苔の付いた三角おにぎりが二つほど入っていた。
「これで足りるか心配なんですけど、どうですか?」
「大丈夫よ、朝はあまり食べない派だから。たまに何も食べないときだってあるわ」
楓さんはそう言っておにぎりを口に運び、笑顔になる。
「うん、おいしい!やっぱり塩加減がいいわね」
そういう顔をされると作ったかいがあるってものだな。しかし、同時に疑問もある。
「た、食べないって、いつも思ってたんですけどそれでお昼まで持つんですか?」
「私基本的に低燃費型だから意外と持つのよ」
「低燃費って、ダメですよきちんと朝は食べないと」
朝の食事は一日の活力のもとになるんだからしっかりと食べて欲しい。
「あはは、わかってはいるんだけどね。胃が受け付けないのよ」
「はぁ〜、分かりました。じゃあ明日からの朝は薄味の物を持ってきます」
そこでチャイムが鳴った。今のは予鈴だ。
「あら、もうこんな時間なの?」
「なら戻りますね、弁当は放課後にでも取りきますから置いといてください」
僕は特に部活をやっていないので別に問題はなかった。
「いえ、今日の夜海斗君の寮に行くわ。ちょっと頼みたいことがあるの」
「頼み?今じゃダメなんですか?」
「うん、長くなりそうだからお話」
「分かりました。なら夕食どうしましょう?」
「お願いしてもいいかしら。多分お腹ペコペコな状態だわ」
「頑張ってください」
「ありがとね、じゃあまずは朝礼を頑張りましょうか!」
そういう楓さんに僕は笑顔見せると部屋から出ようと扉を開き、退散しようとする。そこで少し寂しげと戸惑いが混じった声を掛けてくる。
「この学園は楽しい?」
その問いかけに僕は振り返らず言い、部屋から出た。
「最初はやっぱり困惑したりして楽しくはなかったです・・・・・・でも、友達が、先生が、そして楓さんが僕を支えてくれたおかげで、今はとっても楽しく学園生活をおくっています。だから、ありがとうございます。僕を、この学園に入れてくれて」
その後の朝礼では、楓さんは新しい綺麗なスーツ姿で全校生徒の前に現れた。
しかし、この時の僕は後で何が起きるか、一切分からなかった。
中傷等はやめて頂きたいです。私の心は脆いので。
間違いなどがあれば是非お願いします。素人ですから間違いに気づかないと思うので。