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90話  ヴァルカンの提案  直哉視点

『体育祭なるもの、キミたちも参加しようよ!』


 夕食をホームに住む全員で取っている時、唐突に提案してきたヴァルカンに視線が集まる。直哉を含め全員が目を丸くしている中、クロトは露骨に嫌な表情をして頬杖を付く。


「ヤだよ。メンドくさい」

『そんな事言わずにさ。折角の学校行事だし、参加しないと損でしょ?』

「参加する事でボクらに何の得があるんだ?」

『それは、あれだよ、思い出作りキメラとの戦闘ばかりだと気が滅入るだろう? キミたちもたまには息抜きをしたいでしょ?』

「バカバカしい。ボクたちは遊びに来たんじゃない」


 クロトに続き、アレクも箸を置いて溜息を吐きながら、冷めた目でヴァルカンを見る。その目に気圧されてヴァルカンは後退りする。


『それは、そうだけど……』

「でも、参加してもいいんじゃない? ヴァルカンの言う通り、息抜きは必要だと思うわ」

「えー、マジすか、姐さん」

「あくまで提案よ。無理強いはしないわ」


 穏やかな表情をしている岬をクロトは凝視する。裏で何か企んでいるのではと疑っているのだろう。

 直哉にして見れば美人が微笑んでいるようにしか見えないのだが、よく説教されているクロトには違いが分かるのかもしれない。

 見つめ合った二人だか、やがてクロトは彼女から目を逸らす。


「分かったよ。やりゃあいいんだろ、やりゃあ」

『じゃあさ、クロトは応援団とかやってみない?』

「何でお前が決めてんだよ。そもそも、お前は参加できねぇだろ」


 この状況を作り出した元凶な上に一人で勝手に盛り上がっているヴァルカンを睨む。しかも、提案した本人は和弘と一体化しているため、動かす身体がない。


『だって、応援団が体育祭の花形っていうじゃないか。どうせ参加するならそういうのがいいでしょ?』

「だから、お前が決めんなって言ってんだよ」

「クロちゃん、応援団やるの?」


 クロトの隣に座っていた夏鈴が目を輝かせている。その期待に満ちた眼差しを直視できずにクロトは目を逸らす。


「あ、いや、それはこのダメ神が言ってるだけで――」

『そうなんだ。夏鈴もクロトが応援団の格好をして応援してる姿を見たいとは思わないかい?』

「おい、テメェ――」

「うん、見たい! クロちゃんの応援団の格好見たい!!」

(ヴァルカンの奴、上手い事夏鈴を利用したな)


 何故かクロトは夏鈴にだけは甘い。些細なわがままでも彼女の要望はほとんど断らないのだ。今も眉間に皺を寄せて、頭を乱暴に掻く。


「仕方ねぇな。今回だけだぞ」

「ほんと!? やったー! 楽しみにしてるね!」

「期待すんなよ?」


 釘を刺すクロトの声は一人で盛り上がっている夏鈴には届いていないようだ。

 諦めて長い溜息吐くクロトの肩を取る人物がいた。


「案ずるな。今回は我も大衆の催しにこの身を投じてやろう」

「あ?」

「貴様一人では同志と意志疎通を取り、奮い立たせる事など不可能に近いからな。我直々に手を貸してやると言っているのだ」

「いや、お前も人の事言えなくね?」


 上から目線で言っているが、和弘も学校で浮いている存在だ。

 彼が周りと協力して何かパフォーマンスを披露する姿が全く想像できない。


「ツブス」


 穴が開くと錯覚するほどの鋭い目付きにドスの効いた低い声に和弘とヴァルカンは揃って青い顔になる。その表情があまりにも怖かったので直哉は肩を震わせながら、彼を見ないように明後日の方向を見る。


『ヤ、ヤだなぁー、どうしてそんな怖い顔をしてるんだい?』


 クロトを怒りが限界だと悟り、慌てて取り繕うように笑うヴァルカンだが、もう遅い。

 ゆっくりと立ち上がって、和弘の首を掴む。


「ぐぇ!?」

『んぎゃ!?』


 和弘と感覚を共有しているため、ヴァルカンも顔を歪ませながら、和弘同様に首筋を押さえている。

 実際に痛みの元は和弘の首のため、いくら自分の首を押さえても和らぐ事はない。


「チョット、コッチ、来イ」


 二人の返事を待たずにクロトはリビングを後にする。

 扉が閉まるとそれまで三人を見守っていた他の面々は食事を再開する。

 一連のやり取りに岬ですら止めようとはしなかった。これがみんなにとって日常になったからだ。


「アレクはどうする?」

「………応援団とやら以外でお願いします」


 何かと理由を付けて断ると思ったので、溜息を吐きながらもアレクが同意したのは意外だった。

 花火大会からギクシャクしていた二人だったのだが、アレクから恋愛相談を受けた次の日からそれ以前の状態に戻っていた。


「何を見ている?」

「あ、悪い。なんでもないよ」


 アレクに睨まれて視線を逸らす。

 二人の間に何があったのか気になるが、深掘りすると和弘たちの二の舞になりそうなので、胸の内に閉まっておく。


「直哉君、頑張ろうね」

「え、何をすか?」


 話を振られるとは思わなかったうえに、岬の言葉の意味が分からなかったため、条件反射で聞き返す。

 笑顔の彼女に何か嫌な予感がして身構える。


「体育祭のお弁当よ」

「あー、そうっすね」


 普段の弁当も岬と直哉が担当している。

 そのため、体育祭当日も自分たちが用意する事になるだろう。そう考えた瞬間に憂鬱な気分になってきた。

 けれど、食事を楽しみにしているクロトが激怒するので手抜きはできない。


 体育祭はまだ先の話だが、既に直哉はその日を憂いて深い溜息を吐く。

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