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パラドックス・セリスィ -クロス・W-  作者: 夏樹浩一
第九章 気付く×築く
83/123

83話  会議  森崎視点

 同時刻、優理たちの保護やクロトたち神創人間の監視を担当している森崎慎吾(もりさきしんご)は一昨日のキメラ襲撃の報告のために工場などの地域にある使われていない白い建物に設けられたキメラ特別対策室に来ている。

 彼の後ろには眼鏡を掛けた巨体の男と立派な髭を蓄えた半透明の男が付いてくる。


 ある部屋の扉の前の前に立ち、ノックをすると間を空けずに「入れ」と部屋の中から声が掛かる。その声を聞いて森崎はドアノブを引いて部屋に入る。

 部屋の中にはパソコンのキーボードを打ち続けているキメラ特別対策室の責任者である石山邦夫(いしやまくにお)がいるだけだった。


「森崎君、源田君、ヴァルカン。来てもらって感謝する」

「わざわざこの我も招集するとは、事態は芳しくないようだな」

『いや、正確にはキミじゃなくてボクが呼ばれたんだけど』


 森崎の後ろから眼鏡を掛けた巨体の和弘が言葉とは裏腹に不敵な笑みを浮かべ自信に満ちた表情をしている。

 それを立派な髭を蓄えた半透明の男ヴァルカンが呆れた表情で溜息を吐く。


「ヴァルカンに来てもらうためには一体化している源田君にも来てもらわないといけないからな」

「それで此度はどのような要件があるのだ?」

「源田君」

「気にするな。もう慣れた」

『誰に対してもそのキャラで通すその鋼メンタルはある意味尊敬するよ』

「要件は二つある。一つは先日の戦闘で大型キメラの体内でαが使った武器についてだが、実物が残っていなかので、詳しく聞かせてほしい」


 αというのはヴァルカンがクロトに付けた形式上の名称だ。もう一人の神創人間であるアレクはβと呼ばれている。

 この名称を使うのは対策室の中のみで外では二人を人間として扱うために人間だった時の名前を使っている。


 キメラとの戦闘で和弘は新しく武器を創造したという報告を森崎も受けたが、それがどのような物なのか具体的に知らない。 


「世に顕現する前に消失したその姿は六つの砲門による高火力の砲台だ。顕現場所が玄武の体内、夏鈴の救出の主とするため威力に特化した武装だ」


 和弘は説明しながら机にあった紙とペンを取って、武器の絵を描く。紙に関しては報告書の裏側の白紙部部に描き始めたので森崎が止めようとするが、石山がこれを制する。


「クロトの話では一斉砲火しただけで神気の大半を使ったらしいが、その威力は玄武を内側から破壊し、射線上にいた多頭獣にも致命傷を与えるほどのものだ」


 和弘は喋りながら動かした手は目で追うのがやっとという速さで絵を描き、一切止まる事無く説明を終えると同時に完成した。

 満足した表情を浮かべて下がる和弘と入れ替わるように森崎と石山はその絵を見る。

 そこにあるのはクロトが戦闘時に纏う灰色の装甲の鎧姿。映像越しで見慣れたその姿に追加された両手と背中に四つ、計六つの筒状の砲門だった。


「ただその分、使い勝手が悪い。今述べた神気を大量に使う事に加えて、地に足を固定しなければ反動で照準が逸れてしまうのだ」

「つまり、今後戦闘では使い物にならないと?」

「近接戦闘が中心のクロトには向かない武装だ。遠距離のキメラを殲滅する事だけに使うのでならばアレクが適任だろうが、戦闘で使えるのは最初の一発。それも敵との距離がある時のみに限定される」

「しかし、これまでの戦闘でキメラがそんな遠い距離から現れる事は可能性は極めて低い。確かに使える場面が限られてくるな」

『でも、いざという時のためにいつでもアレクに転送できるように備えておくのは悪くないんじゃないかな? 一度創ったから要領は掴んでいるし』

「奥の手という事なら一理ある。キメラたちは戦いを重ねる度に我らを追い詰めるようになってきたのだしな」


 先日の戦闘ではクロト、アレクが持っている武器では玄武を倒す事は不可能だった。それなのにあの場にいた人たちを守れたのは和弘と優理のおかげだ。

 特に和弘は命の危険も顧みずに能力を駆使してキメラの攻撃を防いだと聞いた。


 クロトたちがこの世界に来てすぐは二人だけの力でキメラを撃退していたが、今では苦戦を強いられ、下手をすればこちらが負けていた。

 日を追うごとにキメラたちは強くなっていく。一方、こちらはキメラに対抗できるのはクロトとアレクのみ、彼らの戦闘の手助けができるのはヴァルカンの能力を宿してしまった和弘や優理だけ。


 戦闘に参加する自衛隊の手持ちの武器では小型のキメラならばなんとか倒す事はできる。しかし、大型のキメラが出現し始めた今では足止めすら務まらないだろう。残されているのは市民の避難誘導だけだ。


「ヴァルカン。あなたの創った武器を我々が使う事はできないのですか?」

『ダメだね。ボクが創れるのは神気が扱える者だけが使える道具ばかりだ。無理に使おうとしたらその人間の生命力を糧にしなければいけない。下手をすれば死んじゃうよ』

「源田君たちの治療の時のようにあなたの神気を人間に宿すのは?」

『それも無理。あの時は今と比べ物にならないほどの神気があったんだけど、源田君たちの治療で枯渇してしまったんだ。元の量に戻すには数十年は掛かる』

「そうですか。分かりました、未知の力を理解できないまま使うのは自分たちを滅ぼしてしまう危険もあります。上にはそう報告しておきましょう」


 ヴァルカンの言葉に苦い表情を浮かべる石山。そんな彼を見ながら会話を聞くだけだった森崎は彼の質問の意図を考えていた。


(人間に神気を取り込ませる。司令、というより上は戦力を求めているという事なのか?)


 いくらクロトやアレクが強力な武器を持っていても、たった二人でキメラと戦うのが困難になってきた。

 複数の場所にキメラが出現すればどこかが手薄になってしまい、そこにいる人たちが犠牲になる恐れがある。

 それに、いくら異世界から来た化け物が相手だとはいえ、自分たちの力だけで防衛できないという状況も国の信用問題に関わるので無視はできないのだろう。

 けれど、今持っている武器ではキメラを倒す事ができない以上、クロトたちのように人間が神気を扱う事が可能ならば自分たちで戦えるようになるかもしれないという考えに上は至ったのだろう。


『問題はクロトたちだけでキメラを倒すのが難しくなってきている事だね』

「はい。彼らの武器が通じないキメラが今後も現れるでしょう。その前に少しでも戦力を揃える必要があったのですが、ヴァルカンの創る武器を我々が使えないのであれば別の方法を考えるしかありません」

「人間の武器ではキメラを殺すまでには至らないが、一矢報いる手段はあるかもしれんな」

『本当かい?』

「貴様もその場にいただろう。優理が玄武の体内から攻撃するという行いを思い付いたきっかけとなった爆発寸前の車を吞み込み、それが爆発した事によって体内である程度のダメージを負ったのだ」

「爆弾を吞み込ませ、体内で爆発させるという事か」


 一般人を助けようとしたクロトが玄武に呑み込まれそうになった時、咄嗟に取った行動らしい。

 爆発でキメラがダメージを受けた事よりも、あのクロトが戦闘を中断して、他人を救出しようとしたという事に森崎は驚いた。


「決定打には欠けるが、多少のダメージを与える事は可能だろう」

「我々ができる戦闘の手助けはそれがやっとかもしれないな。参考にさせてもらう。すまないな、源田君。学校があったのに呼び立ててしまって」

「構わん。凡人どもが集う学び舎で得る知識など、既に我が頭脳に納めておる」


 ドヤ顔で腕組みをしている和弘に森崎たちは苦笑する、

 不慮の事故とはいえ、ヴァルカンの能力の一部が宿ってしまった彼らをこちらの都合で振り回している事に申し訳ないと思っているからだ。

 特に、技術の神ヴァルカンと一体化している和弘はその回数が他の二人よりも多い。

 そんな森崎の思考を遮るように「それに」と、彼の静かな声が部屋中に響く。


「しばらく学び舎に我が姿を晒すのは得策ではないだろうからな」

「どういう意味だ?」

「身元を示す衣服を纏って派手に立ち回ったからな。好奇心で近づく凡人どもが群がるのは道理であろう?」

『今朝、日高君からSNSで不思議な力を使う高校生がいたって話を聞いたんだよ』

「本当か?」

「ああ。こちらでもその投稿を目にしたよ。幸い、写真は出回っていないが、源田君の正体が知られるのは時間の問題だろう」


 石山から渡された一枚の紙に目を通す。

 それは『キメラ襲撃で異能の力を持つ高校生が人々を守った』と書かれた記事を印刷されたものだ。


『派手に能力を見せつけちゃったからね。隠し通す方が無理だよ』

「状況が状況だった。人前で能力を使ったのは問題にはしていない。だが、それとは別にあの戦闘で新たな問題が発生した」

「問題、ですか?」

「ああ。二つ目の要件に関係するものだ。かなり衝撃的な内容なのだが、これを見てほしい」


 言葉の意図が分からず、聞き返す森崎に石山はパソコンの画面を森崎たちに向ける。それは数人の男たちが怯えながらがコンビニの中を歩いている映像だった。

 店内には男たち以外に会計をしている帽子も含めて全身黒で統一している少年と彼に対応している店員だけしかいない。


「司令、この映像は?」

「キメラ襲撃直前、多頭獣が現れた近くのコンビニの監視カメラの映像だ」

『どうしてそんな物を?』

「――そういう事か。この先、心を強く持て」


 一人だけ石山の伝えたい事を理解した和弘が森崎とヴァルカンに伝えた言葉は緊張感が宿っていて二人は息を呑んで映像を注視する。

 会計を終えた少年が男たちを一瞥して店から出る。それまでは店内で商品を見ていた男たちは店の中心に集まって密着し始める。

 強く抱き合う男たちの不審な行動に疑問を抱いていると彼らに変化が起こった。


 突然、彼らの肉体が膨張し始めたのだ。衣服が裂けて晒された物体は黒く、脈動している。膨張を続けていくその姿はもやは人間ではなく、不気味な肉塊と脳が認識を改める。

 球体のような肉塊から突起物のようなものがいくつも生えてきて、先端が膨れ上がる。そして、徐々に動物の頭部に形を変える。


 店内に漂うのは先端に現れたライオン、ヤギ、犬、蛇の頭部だ。

 唯一店内にいた店員は突然現れた異形の存在に口を大きく開けて腰を抜かしている。虚ろな目で生気が感じられない獅子の頭部が彼を捉える。

 命の危険を感じた店員は逃げようと這うように入口へ向かう。しかし、そんな彼の行く手をヤギの頭部が遮り、頭上には犬の頭部、横には蛇の頭部が彼を囲んでいる。


 逃げ場を絶たれた店員に対してゆっくりと近づく獣の頭部たちは大きな口を開ける。食べ物を前にお預けをされていた動物のように開かれた口から大量の涎が床に垂れる。

 絶望に染まった表情を浮かべる店員を動物の頭部を持つ存在は捕食し始める。


 頭部の隙間から伸びる店員の手は助けを求めるが、力尽きる瞬間までその手を掴む者は現れなかった。生命が絶たれ、手が落ちた床には店員の血で真っ赤に染まっている。

 食事に満足した頭部たちは球体に戻る。そして、球体が再び膨張し始めて、店内を埋め尽くされる。

 そこで映像は途切れてしまった。

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