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パラドックス・セリスィ -クロス・W-  作者: 夏樹浩一
第九章 気付く×築く
82/123

82話  注目される生徒たち

 雲一つない晴天の下、小山優理(こやまゆうり)は大きな欠伸をしながら学校の門を通る。耳に届く他の生徒の声がやけに大きく寝不足な頭に響く。


 騒々しいのは生徒だけではない、校門のところで待機しているテレビ局らしい人たちがカメラを向けて登校してくる生徒を捕まえてインタビューをしている。

 捕まりたくない優理はその隙に早足で通り過ぎて校舎へと入る。


「……はぁ、めんどさくさい」


 そう呟いても返してくれる人間は誰もいない。溜息を吐きながらも自分のクラスに足を運ぶ。

 教室に入ると先に来ていたクラスメートたちが何やら盛り上がっていた。軽く挨拶をしながら自分の席に着くと友達の北園晴菜(きたぞのはるな)が近づいてくる。


「優理、おはよー。ねぇ、この前のキメラ襲撃の話聞いた?」

「何の事?」


 眠そうに頬杖を付いて興奮気味の晴菜の言葉に耳を傾ける。

 キメラの襲撃、その単語を聞くだけで気分が下がるが、そんな事を晴菜は気付かずに話を続ける。


「うん。一昨日キメラの襲撃の時にうちの高校の生徒たちが不思議な力を使って人々を守ったって」

「へぇー、そうなんだ」

「あれ? 驚かないの?」

「いや、驚いてるよ。たた、今は眠気が強くて」


 優理の反応に面食らった晴菜は目を丸くしている。しまったと思ってすぐに言い訳をして誤魔化す。


 彼女の言う不思議な力を持った生徒たちの一人が自分だからだ。


 キメラ関係の話題を聞くと地雷原を歩かされるような緊張に襲われる。

 優理とこの場にいないもう二人の少年たちは不慮の事故で異世界から来た技術の神ヴァルカンの能力の一部を宿ってしまったために政府に保護された。彼が創った二体の神創人間クロトとアレクと共に同じ家で生活をしている。


 彼らが人間の姿で生活している事は世間には知られていない。そのため、彼らの事や自分たちの事情を口外しないように言われている。


「どうせ夏鈴ちゃん絡みでしょ」

「まあね。昨日夏鈴ちゃんの誕生日会やってたから」


 冷や汗をかいている優理を他所に晴菜は呆れた表情で溜息を吐く。優理たちとは別にもう一人の一村夏鈴(いちむらかりん)という少女を優理たちが生活している家で保護している。

 その少女に優理は異常なまでに世話を焼いていて同居人たちや晴菜に度々呆れられている。


「あれ? 優理、体調が悪いからって昨日休んでなかったっけ?」

「え? あー、実は朝から夏鈴ちゃんの誕生日会の準備やらなんやらで休んでた」


 口から出た言葉は半分だけ偽りがある。

 昨日の半分はキメラ襲撃の時に優理はヴァルカンの能力である『分析』を使った反動で丸一日眠っていた。


「何やってのよ、あんた」


 でっち上げた話を信じて零した晴菜の言葉に苦笑しながら内心では、ボロが出る前にどうやってこの話題を終わらそうかと思考を巡らせる。


「おい、聞いたか。一昨日の襲撃でうちの生徒が関わっている話。あれ、三年の源田先輩だって噂」

「源田先輩ってあの太ってる厨二病の人?」

「それ、ほんと?」


 隣の席で話していた男子たちの会話に知っている人物の名前が出てきて優理と晴菜もその会話の中に入っていき、男子たちも嫌な顔をせずにそのまま話を続ける。


「ああ。意味の分からない言葉を何回も叫んでたり、光の壁とか創って襲われてる人を守ったりしてたらしいぞ」

「うちの高校でそういう変な言葉を使ってるのってあの人くらいだろ?」

「確かに」


 話を聞きながら話題に挙がっている源田和弘(げんだかずひろ)の姿が頭に浮かぶ。

 縦にも横にもでかく、四角い額縁眼鏡で不敵に笑っている彼の姿を全員が思い浮かべたのだろう。優理以外の三人は乾いた笑いを浮かべる。


 しかし、優理は普段の腹が立つ表情ではなく、キメラ襲撃の時に神気の使い過ぎで血を吐きながらも懸命に人々を守っていた彼の真剣な表情が記憶に残っていてそれが頭から離れない。


「でも、やっぱキメラは怖いよなー。救世主様が何とかしてくんねぇかな。 キメラ倒せるの救世主様だけなんだろ?」

「その救世主様って何者なんだろうね。サイボーグみたいな感じだけど、詳しい事は分かってないんでしょ」

「みたいね」


 晴菜たちの会話に短い相槌を打って視線を僅かに逸らす。

 その救世主様である神創人間の二人がこの学校に通っている事を彼女たちは思わないだろう。そんな中、和弘の存在が噂になっている事が気になっていた。

 身体的特徴で容易に身元が特定されるだろう。そうしたら必然的に同じ家に住むクロトやアレクが神創人間であると知られてしまうだろう。


(知らない人に個人情報を知られるのってあまりいい気分じゃないなぁ)


 優理たちはヴァルカンの能力の一部が能力を宿してからキメラに対抗すべく創られたキメラ特別対策室で定期的に検査をしている。


 検査を担当してくれる人たちは未知の力を宿してしまった優理たちに気を遣ってくれているので気にはならないが、校門でインタビューをしている人のように、一般人が優理たちの秘密を知って無神経に聞いてくるのではないかと考えると気分が下がる。


「みんな席に着けー、もう朝読書の時間だぞー」


 担任が来ると同時に晴菜たちは会話を中断して自分の席に着く。全員が持参してきた本を開くが、真面目に読書をしている者はおらず、みんな静かに時が過ぎるのを待っているだけだ。

 そんな中、優理は窓の外に広がる空を見つめる。


(キメラとの戦いって終わるのかな)


 戦闘を重ねる毎にキメラは強力な個体が現れ、クロトとアレクは苦戦を強いられる。一昨日の戦闘も和弘の『創造』の能力が無ければ多くの犠牲者が出ていただろう。

 キメラもある程度知性があるのか、集団での行動が目立っている。下手をすればクロトたちが負けるという事も考えられる。


(だめだめ。こんな事考えちゃ)


 自分が良くない事を考えていると気付いた優理は手にしている文字に意識を向けてその思考を取り払おうとする。

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