08話 会談 森崎視点
全身を鎧で覆っている謎の存在が現れたと聞いて、森崎は住民の避難誘導を終えてから疲労で思うように動かない身体を引きずりながら、その人間が連隊長と対話している現場に足を運んだ。
本来なら立ち入る事ができる立場ではないのだが、人型を目撃した部隊の人間という事で特別に許可が下り、対談をしている場所へ案内される。
森崎の目に留まったのは先の戦闘であの化け物を倒した人型、その隣にライフルを持った同じような姿の存在、そして連隊長が会談をしていた。会談といっても連隊長と数人の隊員が会話をして、ライフルを持った人型が顔の前で手を開いては閉じる動作の繰り返しをしているという会話の成立のしていない状況だった。
「あ、あの。今どういう状況ですか?」
連隊長たちの行動が全く理解できず、近くにいた隊員に尋ねる。
「ああ。あいつらと話し合いになってからずっとあんな感じだよ。あのライフル持った奴はあの動き以外何もしないし、最初は連隊長が一人で喋っていて途中から他の隊員と一緒に仕事は関係ない話をしているんだ」
やや不機嫌そうに答える隊員。その態度でこの話し合いよりもやらなければならない事があると訴えている事が伝わってくる。
ライフルを持った人型が動作を止めた。その場にいる人間が次はどんな行動を取るのかと息を吞む。
『言語解析、完了』
初めて言葉を喋った。周りがざわめき始める。その空気に流されずに人型は喋り続ける。
『解析中ノ無礼、謝罪。協力、感謝』
「やはり、あの動作は喋ってくれというジェスチャーだったのか。さすがに何の反応もないからヒヤヒヤしたぞ。まさか、会話を聞くだけで言語を習得するとはな!」
連隊長が笑いながら言う。
言われてみれば確かに、言葉を発せというジェスチャーをしろと言われれば人型と同じような行動を取るだろう。だが、咄嗟にその発想を思い付く事ができたのは正直に凄いと感じた。
驚くのは連隊長の行動だけではない。おそらく、人型は自分たちの言葉を理解できていなかったのだろう。それを他人の会話を聞くだけで言語を分析し、対話を可能にするという技術を目の前で披露したのだ。
『我々ハ神ガ創リシ人間。我、タイプβ、コチラα』
βと名乗った人型は片言ではあるが日本語を話している。
「では改めて、こちらも自己紹介をさせてもらおう。私は石山邦夫一等陸佐。君たちはあの化け物の事を知っているのか?」
石山は目の前にある未知の存在と会話が可能と判断し、さっそく本題を切り出した。まずは、目の前にいるこの存在、そして、人を喰う化け物たちについて尋ねた。
目の前にいるこの二体は今のところ敵意はないようだが、化け物たちは自分たちのことを獲物のような認識をしている。
これ以上の犠牲を出さないためにも敵のことをよく知る必要がある。
『奴ラト我々ハ違ウ世界、出身。詳シイ話ハ、我々ヨリモ適任、イル。奴ラハ排除スルベキ対象、協力ヲ願イタイ』
片言の日本語で淡々と述べるβ、それとは反対にαと呼ばれた拳銃を持った人型はこの会話に興味を示さないのか漠然と別の方向を見ている。
「私の一存では決定できないが、協力とは具体的にどういった内容なのだ?」
石山の質問にβは指を四本立てた。
『我々ガ、コノ世界ニ、滞在スル間、休メル場所、奴ニ関スル情報ノ提供、奴ノ討伐ノ支援、要求。ソチラノ要求、可能ナ限リ対応スル』
「分かった、上層部にも報告はするが、三つだけか?」
βが提示した要求は三つ、しかし、立てた指は四本だ。先に提示した要求とは別にあるはずだ。
『四ツ目ノ要求ハ――』
『飽キタ』
それまで会話に入ろうともしなかったαがβの言葉を遮り、立ち上がる。そして、拳銃の銃口を森崎に向ける。
『オ前、俺ト勝負シロ。暇潰シ』
αの突然の行動に対してその場にいた隊員の数人がα銃を向ける。
自分が目の前にいる未知の存在と戦う? いったい何の冗談なのだろうか。
『国ノトップガ協力、応ジル判断材料ニ、ナルナラ止メナイ』
周りの様子を見ていたβは静かに言い放つ。
『実施ノ判断、ソチラニ委ネル』
βの言葉以降、誰も口を開こうとはしなかった。βたちにとってこの試合の有無は関係ないのだろうか、喋る気配もない。こちらは、βたちのことを判断しかねているため、下手に口を出して状況が変化してしまうのを恐れて、口を閉ざしたままだった。
数分の沈黙が続いたが、石山の一言でその沈黙は簡単に破られた。