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パラドックス・セリスィ -クロス・W-  作者: 夏樹浩一
第八章 癒えない×言えない
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76話  糸を掴む

 アレクが到着してからどれほど時が経ったのだろうか。


 キメラの中で唯一生き残っている玄武と多頭獣の犬の頭部をアレクは空から狙撃している。多頭獣は機能しなくなった他の頭部を盾にし、玄武は甲羅によってアレクの光弾を防ぐ。


 やはり、アレクのライフルでも玄武の甲羅の前では役に立たないようだ。


 優理が思い付いた作戦の実行者であるクロトはリングを通して連絡が来る気配は一向に現れない。彼の状態を確認できないため、何か問題が発生したのではないかと頬に嫌な汗が流れる。

 このまま彼の合図が来なければ実行に踏み込めないし、ホームの家族を二人失うという結果に終わってしまう。


「クロトは何やってるんだ。もしかして連絡が取れないんじゃないのかな?」

「大丈夫よ。あいつならきっと」


 挙動不審になっている源田の身体を借りたヴァルカンに根拠のない慰めをしながらもクロトの身に何かあったのではないかと不安が募る。


 ひょっとしたらクロトは連絡ができないほどの損傷を受けたのか、体内にも小型のキメラがいるのか、外からでは判断しようがない。

 もともと、優理が立てた作戦も今回の戦闘でキメラたちは人間を喰おうとしない事から生きたまま人間を捕らえる目的だと推測し、吞み込んだ車が爆発した時に頭部を甲羅の中に引っ込めた玄武の行動を見てある仮説に基づいて立てたのだ。


 そのため、玄武の体内がどのようになっているのかという不確定要素があるが、他に方法が思い付かなかったのだ。


 優理にできる事はアレクと大型キメラ二体の戦闘を見守りながらクロトの合図を待つ事だけだ。

 玄武の甲羅からで出ている頭部とは別の三つの頭部はライフルを納め、腰に携えていた剣を携えながら接近しようとするアレクに向かって火球を放ち続けている。


 回避行動を取っている彼の背後から多頭獣がアレクを鋭い爪で斬り裂こうと前足を振り下ろす。接近に気付いたアレクは一旦横に数メートルほど跳んでから上空へ飛翔する。

 前足の爪がアスファルトを容易く削り、その衝撃で地面が揺れ、優理たちの平衡感覚を狂わせようとする。


 アレクが避けた無数の火球のほとんどは多頭獣に直撃し、身体から肉の焦げた匂いと煙が立ち上る。仲間を気に掛けている心がないのか、それともただ敵を駆逐する事しか考えていないのか、味方を誤って攻撃した玄武はアレクの睨んでいる。

 アレクがやられるという心配はなさそうだが、彼も大型のキメラ二体を倒すには至らない。このままではアレクの神気が尽きてしまう。


 そう思った瞬間、優理の持つリングが光る。


「来た! 源田!」

「任せよ!」


 熱を帯びて光るリングを握り締める優理の背後に身体が黄金の光に包まれた源田が立つ。突然起こった出来事に戦闘を中断するアレクや二体の大型キメラ、戦闘を見守っていた人々の視線が二人に集まる。

 自分の背後に光が集まるという異質な光景に優理は上半身を捻り、彼の様子を確認する。


「汝は絶望の深淵から這い上がり、藻掻き、見出した。その眼を通じ、手繰り寄せたものは希望と言うにはあまりにも細い糸だ。だが、昏い絶望の迷宮の中で掴んだ糸が紡ぐのはこの場にいる者を明日へと通ずる道なり。故に示した道を具現せよ。我が同胞、優理に宿る権能糸を掴むクロスティル・ランパネイン!!」


 源田は空に向かって右手を掲げ、集まった光は彼が掲げた手の平の上で野球ボールほどの球状に変わる。その光を乗せた右手を振り被ったのを見た瞬間、何か嫌な予感がした。


「ね、ねぇ――」

「我が同胞が掴んだ糸を掴み、絶望へと通ずる運命を断ち切れ! 創造する希望(ポイエイン・エルピス)!!」


 何をするのかと聞こうとした時、彼の右手が優理の背中に叩き込まれる。突然襲う痛みに顔を歪めながら、身体の中に暖かい温もりに近い何が駆け巡り、そして、どこかへ消えていくという不思議な感覚が優理に訪れる。

 光が消えると同時に優理の身体の力が抜けてその場に座り込む。後に残されたのは源田に叩き込まれた背中の痛みに悶えている優理と理解できない行動をした優理たちを見て困惑している人々だった。


 涙目で振り返って源田を睨んでいると、変化が起きる。


 玄武が変な声を上げたと同時に内側からいくつもの光の筋が飛び出してきた。玄武の頭部が苦悶の悲鳴を上げながら弾け飛び、甲羅から伸びている三つの頭部も口から大量の血を吐いて地面にその頭を叩き付けたまま動かなくなった。


 光の筋はそのまま直線状にいたアレクや多頭獣に向かって伸びていく。


 アレクはそのまま上空へ飛翔し回避したが、多頭獣の唯一機能している腹部の犬の頭部は反応が遅れて、そのまま全身を貫かれる。その瞬間に光が自分の命を奪う攻撃であるという事に気付いたのか犬の頭部は目を見開いたまま絶命する。


 十メートルほどの巨体が倒れた事によってこれまでにない揺れが起こり、人々は立っていられなくなって倒れるものが続出する。


 揺れが収まり、辺りが静寂に包まれる中、人々は顔を見合わせている。


 自分たちの命を脅かす脅威が一掃され、死の絶望から解放されたのだと理解するのに僅かな時間を要した。

 あちこちで歓声が起こり、生に対する喜びを分かち合っている姿を確認した優理は動かなくなった玄武の下へ駆け寄る。


「夏鈴ちゃん!!」


 頭が揺れる感覚を無視し、妹のような存在の少女の名を呼びながら、ひたすら足を動かす。

 優理の立てた作戦は九割成功したと言える。この割合は優理たちにとってであるため、無関係な人々にとってはこの戦闘は勝利で完結している。


 しかし、残り一割は優理にとって最も重要だった。それは玄武に呑み込まれた夏鈴が無事であるかどうかだ。

 大切な仲間を二人も呑み込んだ玄武の死体は凄惨なものだった。

 アスファルトが一の赤一緒に染まり、周囲には頭部のものと思われる肉塊が散りばめられている。


「夏鈴ちゃん! クロト!」


 込み上げてくる吐き気を無理矢理抑え込み、人々の湧き上がっている歓声の枠の隣に居座っている死の空間に足を踏み入れながら仲間の名を叫ぶ。


「優、ちゃん?」

「夏鈴ちゃん!?」


 消え入りそうなほどか弱い声で自分の名前を呼ばれ、その瞬間息を呑む。

 この目で確かめなければならない。自分が助けようとした少女と彼女を助けるために化け物に呑み込まれた少年の無事を。


 呑み込んだ車が爆発して血を吐いた玄武の様子から甲羅よりも脆い可能性がある体内から攻撃すれば、玄武に致命傷を与えられるかもしれないと優理は考えた。

 源田が言うには硬い甲羅を破る武器を創るのは可能だったが、体内にいる夏鈴を危険に晒すので攻めあぐねていた。ならば、夏鈴と同じ体内からなら彼女の安全が確保できるうえに玄武を仕留める事ができるるのではないか。


 それをクロトと源田に伝えたところ、二人はドン引きしながもこの作戦に乗ってくれた。自分はただ作戦を考えただけで、実行に移せたのは彼らのおかげだ。


 特に創造した武器を体内で使用するとなればクロトは玄武に呑み込まれなけばいけない。彼がそれを承諾しなければこの作戦は成り立たない。勝つためとはいえ仲間に呑み込まれろと告げるのは優理としても心苦しかった。


 それでも彼は文句も言わず、引き受けてくれたのだ。下手をしたら体内から出る事もできず、自分も死ぬ危険があるのに。


 命の危険を考えれば源田だってそうだ。人々を守るために光の壁を創って維持しながらクロトの新しい武器を創る。

 能力を酷使して神気が枯渇し始め、血を吐いている。それでも彼は諦めず、人々を守りながら反撃の機会を伺っていた。


 二人が命の賭けたこの作戦を成功してくれと何度も絶望の底へ引きずり込もうとする現実に強く願った。

 優理が見つけ、源田が創り、クロトが紡いだ全員が生き残るという勝利への糸の行き先は見事に明日へ繋ぐ事ができた。


 優理が見たのは元の姿に戻り、両膝を付いて今にも倒れそうなクロトを小さな身体で必死に支えようとしている夏鈴の姿だ。自分の呼び掛けに気付いた夏鈴は驚いた表情でこっちを見ている。

 夏鈴は生きている。

 その事実をこの目で確認した瞬間、優理は口を手で覆い、目から大粒の涙が零れる。


「夏鈴ちゃん!」


 頭の中で揺れている感覚を押し退け、彼女の下へ駆け寄り、そして、抱き締める。夏鈴もまた優理を抱き返す。肌から伝わるお互いの鼓動を感じ、生きている事を実感する。


「良かった。本当に無事で良かった……」

「うん、うん。怖かった。すごく怖かったよぉ」


 優理の胸に顔を埋め泣きじゃくる夏鈴の頭を優しく撫でながら彼女を助けてくれた仲間に顔を向ける。クロトは疲れた顔をしながらも口元は緩んでいる。


「その様子だと終わったみたいだな」

「うん。ありがとね、クロト」

「お前に感謝されんのはなんか気持ち悪いな」

「気持ち悪いって何よ」

「事実だろ。言っとくけど、こんな事二度とやらねぇよ」


 せっかく本心で感謝を述べてもクロトは素直に受け取ってくれない。それを分かっていて優理もわざと怒ったように言い返す。

 これが優理とクロトにとっての日常会話だ。このやり取りでまた明日からホームの生活に戻る事ができる。


『姿が見えないと思ったらキメラに喰われていたとはな』


 そんな優理たちの会話に後ろからアレクの声が届く。振り返ると源田に肩を貸し、脇で直哉を抱えて歩み寄ってくるアレクの姿があった。彼は優理たちの下に辿り着くとアレクの身体が光ると同時に藍色の装甲が消失し、元の金髪碧眼の素顔が晒される。


「随分遅めのご到着だったんだな」

「大量に現れた鳥型のキメラの駆除に手間取ってな。自衛隊員も直に到着するだろう。それにしても全員無理をしたようだな」

「確かにみんな酷い状態ね。源田、大丈夫なの?」


 唯一遅れてやってきたアレクは優理たちを見て簡単に感想を述べる。

 この戦闘で優理と源田は実際の戦場で命を削り、能力を駆使して勝利をもぎ取った。特に源田はずっと人々を守るために光の壁を創り、それを維持していたため著しく神気を消耗していた。血を吐き、右腕全体の皮膚が裂いて血塗れ状態だ。


 それに夏鈴が呑み込まれたと思って茫然としていた優理に喝を入れて立ち上がらせようとしたのも彼なのだ。

 源田がこの戦闘で担っていた役割は大きく、彼がいなければこの戦闘を勝利で終わらせる事は不可能だったろう。


「ふん。平凡な民衆を守護するのは力のある者の務めだからな。だが、この絶望の中、貴様は己が権能を見事昇華し、道を切り拓いた。誇るがいい」

「そういえば、また意味の分からない単語叫んでたわね、あんた」

糸を掴むクロスティル・ランパネインの事か? 貴様が見出した生へと繋ぐ糸を掴み取ったのだ、相応しい名であろう?」

「ああ、そうですね。ついでに私からも一言いい?」

「どうした? 我から己の権能に名を賜った事がそんなに嬉しいのか?」


 夏鈴を抱き締めている腕を離し、立ち上がって、見ているだけで苛立ちが募るドヤ顔をしている源田の下へ歩み寄る。その間、優理の表情は満面の笑みを浮かべていた。なのに、声には別の感情が含まれているのに彼は気付いていない。


「あんた、全力で背中叩く事ないでしょ!」


 今持てる力を全てを収束し、思いっきり繰り出しだ拳は源田の二の腕に叩き込まれる。予想もしていていなかった優理の行動に源田は表情を崩し、声にならない悲鳴を上げて右腕を抑えながら膝を付いて悶絶する。


 前回の戦闘でアレクに新たな武器を送る時に源田は直哉を経由して彼に武器を届けた。今回は優理がその立場になったのだが、直哉がどんな目に遭っていたのかを球状の光を背中に叩き込まれた瞬間に思い出した。


 あの痛みが今でも残っている。戦闘中だったため、叩き込まれた直後は痛みを我慢して彼を睨む事しかできなかった。


 しかし、痛みが消えないうちに報復しなければ優理の気が済まない。なので、キメラを撃退し、みんなが生存した事を確認したこのタイミングでその恨みを晴らす。


「うっわぁ、傷付いてる右腕殴ったよ、コイツ」

「頭のネジが数本飛んでいる和弘にはいい薬だ」


 一連の動きを見ていた神創人間の二人はそれぞれ違った反応をする。直前まで源田に肩を貸していたアレクは優理が何をすると察して、彼から距離を取った。そのため、源田を支えるものはなかった。


「き、貴様ぁ! 何をする!!」

「それはこっちの台詞よ! 女子の背中を思いっきり叩くとか信じられない!!」

「勝利の礎となった腕に怒りの暴力を叩き込んだ貴様が言うな!!」

「だから何よ!? 私だってめちゃくちゃ痛かったんだからね!!」


 痛みで顔を歪ませ立ち上がっ怒鳴る源田に優理も負けじと声を張る。

 確かに傷付いて痛々しい右腕を殴った事に関しては若干申し訳ないと思ったが、それ以上に背中の恨みを晴らしたいという感情が上回った。


 元々非力なうえに神気を使い過ぎたのか足元が覚束ない優理が彼にダメージを与えるには最も効果的だと判断してしまったのだ。


「ほんっと、あんたと馬が合わないわ」

「奇遇だな、貴様と足踏み揃えるなど無駄な行いだと再認識した」


 睨み合っていた優理と源田は同じタイミングで視線を逸らし、互いに背中を向ける。戦闘中は問題なく会話もしていたは言い争いをするよりも生き残る事の方が重要だったからで、日常では決して友人関係になれない二人なのだ。


 僅かに間を空けて「だが!」と源田の言葉に耳を傾け、横目で彼を見ようとする。


「これで貴様も前へ進む事ができよう」

「はぁ? 何言ってんの?」

「これは貴様の心に巣食う闇を払う第一歩だ」


 その言葉を聞いた瞬間、源田に対する怒りが収まり、身体を彼に向ける。源田はそのまま背を向けたまま話を続ける。


「これまでの貴様は己の無力さを嘆き、拾えなかった命しか見ていなかった。そんな貴様が絶望に打ち克ち、勝利への希望を見出した。夏鈴だけでなく、この場にいる全ての人間の命を貴様は守ったのだ。その事実に胸を張るがいい、優理」


 彼の言葉に目を丸くして言葉がすぐに出てこなかった。


 今も口喧嘩をしたばかりだというのに源田は優理の事を褒めたのだろうか。彼の言う通り、エドナが現れてから自分が助かるために他人を見捨ててきた優理だ。

 どんなに時が経っても完全に消える事はないと思っている。しかし、後ろばかり見ているのではなく、今にも目を向けなければと最近は思えるようになった。


 それでも夏鈴が玄武に呑み込まれた時はまた同じ過ちを繰り返そうとしていた。

 エドナ襲撃の次の日、キメラの蹂躙の始まりの日、一緒に逃げていた男の子が喰われていた事に後から気付き、生きる事すら諦めてしまった。


 そんな自分に喝を入れてくれたのは他でもない源田なのだ。彼が夏鈴は生きていると言ってくれたおかげで優理は立ち上がる事ができた。

 自分はこの戦闘でただ作戦を提案しただけで大した事はしていない。けれど、仲間がその作戦を実行し、成功した事で無事に勝利を収められた。その事実を誰かの口から聞かされると過去の自分を越えられたような気がした。


「源田…………勝手に下の名前で呼ばないでよね」


 それが源田の称賛に対する返答だった。

 今までくだらない事で口論ばかりしていた彼からの初めての言葉に少しだけ嬉しさがあったのを隠したかった。

 だから、わざと鼻で笑い、文句を言って誤魔化すその表情には名前を呼ばれた事に対する嫌悪感は全くない。


(でも、ありがとね。和弘)


 言葉にするのが少し気恥ずかしいので感謝の念を心の声で送り返す。この日キメラとの戦闘で協力した事によって初めて源田和弘との絆が芽生える。


 それは優理の名を呼んだ彼も同じではないだろうか。


 確かめたくても口元が緩んでいるのを見られたくないのでまた彼に背を向ける。その時、こちらに向かって手を振りながら走ってくる人影に気付く。それは優理たちが良く知る人物だった。


「みんな、無事か!?」

「森崎さん。ええ、みんな無事です。生きてます――っと」


 手を振る優理の視界が一瞬だけ真っ白になる。それと同時に足の力が抜けて前のめりに倒れそうになるところを森崎が慌てて支える。


「お、おい。大丈夫か!?」

「すいません。ちょっと能力使ったせいで疲れちゃったみたいで。でも、大丈夫です」


 その言葉には偽りが混ざっている。

 神気を使い果たし、一向に立ち上がる様子がないクロト、口元には血を吐いた痕跡が残っているうえに右腕全体が裂けて血塗れの和弘、玄武の返り血を浴びて服が真っ赤に染まっている夏鈴。


 今この場で見た目だけ平気に見えるのはアレクとあとはずっと気を失って何もしていない直哉くらいだろう。

 森崎に支えながら彼の後ろで駆け付けた自衛隊員に介抱される人々を見る。大型キメラ二体も含めて大量のキメラに囲まれ、生存が絶望的な状況の中で誰一人命を失わずに済んだ。


 それは優理の後ろにいる仲間たちで掴んだ勝利だ。誰か一人いなかったら全員で生き残った喜びを分かち合う事はきっと叶わなかっただろう。

 夏鈴を助けるという意志が勝利への糸口を見出した。クロトがキメラと戦い、夏鈴を救ってくれた。源田がみんなを守り、武器を作ってくれた。アレクがみんなのピンチに駆け付けてキメラを足止めしてくれた。そして、夏鈴は生きて優理たちの下に帰ってきてくれた。


 勝利と再会の喜びを噛み締めているうちにずっと張り詰めていた糸が緩み、立っているだけでやっとだった優理は全身の力が抜けてその場に座り込んだ。


「優ちゃん!?」

「小山さん!?」

「大丈夫です。私も能力を使い過ぎちゃったみたいで」


 何かを考えるだけでも脳が休めと主張するように揺さぶるのを感じながら優理は夏鈴と森崎に微笑む。無理をして平静を装うのではなく、純粋に彼女たちを安心させたいと思って自然にその表情になった。


 以前はどうやったら笑顔が作れるのか分からなくなっていた優理が何も考えずに笑うようになった。それがホームのみんなのおかげなのだと思いながら優理は白い世界へと意識を委ねる。

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