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56話  源田の能力

「優理ちゃん、大事を取って今日はここに泊っていきなさい。訓練をした後に戦闘でも能力を使ったんでしょ? あまり無理は良くないわ」

「は、はい。分かりました」


 神気を使い過ぎると命の危険性があると言われた事がある。だから、岬の言う通り今日は安静した方が賢明だろう。


「……みさちゃん、私も泊っていい?」

「え? ………ああ、いいわよ。じゃあ、今日は三人で女子会をしましょう」

「うん! ありがとう!」


 夏鈴のお願いに一瞬目を丸くした岬だったが、すぐに明るい調子でそれを聞き届ける。


 優理がホームにいない場合、夏鈴は大抵クロトと一緒にいる事が多いいらしい。彼女が優理の次に懐いているのが意外にもクロトで、ホームに初めて来た時はずっと彼の傍にいたのだ。


 そのクロトと喧嘩して、優理もホームに帰らないとなればホームで夏鈴の面倒を見る相手が誰もいなくなる。

 だから、夏鈴が泊る事を了承したのだろう。


「というわけで森崎君、男性陣の事はよろしくね」

「分かりました。クロトたちには俺から伝えておきます」

「助かるわ。それと、源田君も今日は能力使うの禁止だからね」

「承知した。岬殿」

「あ、そういえば、あんたいつから能力が使えるようになったの?」


 戦闘中は気にする余裕もなかったが、源田はいつの間にか能力が発現していて、優理よりも使いこなしていたように見えた。


「ああ。全てを照らす日輪が姿を現した時、我が心の内に無から形あるものを具現化したいという欲求が沸き上がり、形を細部まで脳裏で構築し、出現せよと念じるとどうだ、それが本当にこの世に顕現したのだ」

『簡単に言えば、源田君が能力が使えるようになったのは今朝なんだよ。どういうものかは実際に見ていて分かっていると思うけど、物を創るというものだよ』


 相変わらず意味の分からない言葉で説明している源田にヴァルカンが横から助け舟を出す。源田と一体化してずっと彼の言動に触れていたためか自然と内容を理解できるようになったのだろう。


『どうやら、源田君は小山さんよりも神気の適性が高いみたいで、すぐに自分の能力を使いこなせていたよ』

「へ、へぇー、そうなんだ……」


 自分が源田に負けている。ヴァルカンに悪気はないが、そう捉えてしまう優理は複雑な表情で彼を見る。優理の視線に気付いた源田はすぐに勝ち誇ったようなドヤ顔をする。


「ふん、未知なる力を振るうには本能で生きているようなヴィッチでは役者不足という事か」

「うざっ。どうせ、ヴァルカンと一体化しているから神気の使う量とかは調整してもらってんでしょう?」

『まぁ、当たってるんだけど、ボクはあくまで能力を使う時に神気を少し分ける事しかできないから、扱いは源田君自身がするしかないだよね。でも、扱い方を見ていると大丈夫そうなんだよね』

「当然だ。我は現世において人間の姿を模しているだけだ。貴様如きが扱える権能を我が物にするなど造作もないわ」

「その割には無駄に神気使っていたみたいだけどね」


 理不尽に自分を貶す源田に対してわざと挑発するような言い方で返す。


 戦闘中、彼の身体から溢れたオーラが出ていた。あの時のヴァルカンはオーラを出さなくても能力は使えると言っていた。それは神気をわざと不必要に出して能力が使えるという雰囲気を前面に出したという事なのだろう。


「世界の根幹を揺るがしかねない我が力を適切に振るうためにあれは必要な儀式だ。それによって我が権能創造する希望(ポイエイン・エルピス)は正しく発動し、キメラに牙を剥くのだ」

「うわぁ、出た。意味の分からない言葉使って自分頭いいですよアピール。アレクの武器にも変な名前付けてたけど、全部名前付けてんの?」

「ハッ! 己が所有する英知の少なさを露呈してまで我の事を崇めるヴィッチに良い事を教えてやろう。貴様の能力は未だ完成しておらん。故に名を与えるには時期尚早、名を欲するのならば完成に励むがいい」

「だから、ビッチ言うなっつってんでしょ、痛々しい厨二デブ!」


 次第に声を大にして言い争う優理と源田。お互いを鋭く睨む二人の視線は今にも火花を散らす勢いだ。二人の間に大人の岬と森崎が割って入る。


「まぁまぁ、落ち着いて優理ちゃん。こう見えてあなたの事心配してたのよ、源田君」

「――岬さん、大丈夫ですか、疲れてないですか?」

「疲れてないし、大丈夫だからそんな信じられないっていう目は止めて?」

「あ、いや、そんなつもりは……」


 引き気味に宥める彼女を見て冷静になる。岬の突飛な発言に思わず彼女は幻を見ているのではないかと本気で疑ってしまった。


 源田が自分を心配していた? 初対面の時から敵意を剥き出しの彼がそんな事するわけがない。


「と、とにかく! 二人とも今日はもう休みなさい。慣れない事ばかりで疲れたでしょう?」

「源田君、俺たちもホームに戻ろう。小山さん、お大事に」

「あ、はい。ありがとうございます」

「致し方ない。我も次の日が昇るまで英気を養っておくか」


 両手を叩いて岬が無理矢理話を終わらせる。それに続いて森崎が源田を連れて退室しようとする。


「おじさん、和君、またねー」

「せめて別の言い方にしてくれ」


 扉まで移動した二人を夏鈴は手を振って見送るが、呼び方に不満がある森崎は振り返らずに力のない声で夏鈴に訴える。


「ねぇ、夏鈴ちゃん。森崎君のあだ名、ちょっと変えない? 本人もあまり良く思ってないみたいだし」

「はーい」


 森崎と源田が部屋を出てから夏鈴に提案してみる。彼がどんな表情をしていたのかは分からないが、おじさんと呼ばれていい気はしない事だけは分かった。


「――それに彼がおじさんだったら私もおばさんになっちゃうし……」


 夏鈴から顔を背けて呟いた本音を優理の耳は拾ってしまったが、あまり追及しない方がいいと胸の奥にそっとしまう。


 岬と森崎の年齢は聞いてはいないが、森崎が彼女に敬語を使っているので、岬の方が年上という事になる。

 そう考えると確かに森崎がおじさんと呼ばれると年上である彼女も複雑な気分になるだろう。


「んー、何がいいかなー?」 


 早くも森崎の新しいあだ名を視線の少し上を見て、頭を何度も傾げながら考える夏鈴。そんな夏鈴を母のように微笑みながら見守る優理と岬。


(ほんといろんな表情をするなぁ)


 ころころと変わる表情をする夏鈴と先程見た夢に出てきた銀髪の少女がふと重なる。


 夢の中でも彼女は様々な表情をしていて、活発のように見えた。ヴァルカンの言う通りならあの少女はクロトがいた世界の住人で、クロトと親しい間柄の可能性が高い。


 彼女を思い出すと何故か胸の奥が鋭い刃物で突かれたような痛みが走る。


(でも、この痛みは私のものじゃない)


 特に根拠はないが、そう思ってしまう。そして、自分のものでないのなら本来誰のものかも想像は付く。


 横暴な振る舞いに戦闘での狂気の行動ばかり取るクロト。そのため誰も彼に深く関わろうとはしない。彼も他人に感情を揺さぶられる事もなく、自分の思うままに行動している。


 戦闘以外であんなに激しい感情を露わにする彼を初めて見た。

 クロトが何に対して感情的になったのかは分からない。けれど、その原因が彼を戦いへと向かわせる何かがあるとそう思った。

お読みいただきありがとうございます。


「面白そう!」

「続きが気になる!」


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