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53話  悪魔の追撃

「キメラ、撤退を開始したようです」


 オペレーターの声でモニターを見ると、キメラたちがアレクやクロトから素早く離れていく映像が流れる。


「クク、我が権能により神創人間への奇襲が失敗した今、戦闘を続けても奴らに利は無いからな。撤退は妥当であろう」

「ねぇ、それってキメラたちを操っている何かがそう考えたって事だよね?」

「何を当たり前―――いや、待て。そうか、我らの認識が甘かったようだ」

「え? どういう事?」


 優理の問いかけに源田が一人で納得した態度を取るが、問いかけた優理自身も彼が何を気付いたのか分からなかった。


「アレクが奇襲を受けた時のキメラ共は明らかに統率の取れた動きをしていた。クロトの行動を制限し、武装を失ったアレクを集中攻撃をする。これらはキメラを操る存在が戦況を全て把握しなければ不可能だ。そして、キメラを操れる存在は限られてくる」

「えっと、つまり?」

「エドナには戦況を知る何かの手段があるという事だな」


 源田の言いたい事が分からず、聞き返すと石山が二人に近付きながら答える。


「可能性が高いのはキメラと情報を共有しているというものだ。おそらく、産み出したキメラが得た視覚情報をそのままエドナは見る事ができるのだろう」

「現状その解が最有力であろう。この戦闘における奴らの目的は神創人間の撃破、および戦力の確認といったところか。キメラに対抗できるのが二人だけしかいないとエドナも気付いたはずだ」

「で、でも、こっちにはヴァルカンの能力があるのを向こうは知らないんじゃない?」


 アレクの窮地を救ったのはキメラを倒せるクロトではなく、源田の能力のおかげだ。彼の能力がなければ、あの状況を切り抜けられていたとは思えない。

 いくらキメラと情報を共有できたとしても、後方支援の方法までは分からないはずだ。


「確かに我らの権能をエドナが全て理解するのは不可能に近い。が、いくら陰の権能が優れていても我が陣営の戦力は二人しかいないという事には変わりはない」

「あ、そう、だよね」


 源田の言葉に自分たちの無力さを思い知らされる。自分たちにできるのはクロトたちのサポートだけ。彼らしかキメラを倒す事はできない。


 それを自覚した直後、背筋に悪寒が走る。内側から言葉にできない不快な感覚が込み上げてくる。


『逃がすかよ!』


 スピーカーから響くクロトの声でモニターを見ると、彼は逃げるキメラを追撃している。銃で逃げるキメラの足を撃って、命中して止まったキメラの首を刎ね飛ばす。


『ハハッ! このまま見逃すワケねぇだろ!』


 嬉々としてキメラたちを斬り捨て、撃ち抜くその姿は逃げ惑う獲物を笑いながら狩る悪魔だ。けれど、キメラたちは仲間が殺されても反撃しようとはせずにひたすら逃げ続ける。


『オイオイ、殺られるだけか? ちょっとは抵抗してみせろよ!』


 キメラたちが自分に反撃しない事に気分を悪くしたクロトは銃を撃ちながら追い付いたキメラを蹴飛ばし、体勢を崩したところを剣で力任せに両断する。


 アスファルトが、自分自身がキメラの血で染まってもクロトは立ち止まらない。キメラたちもひたすら彼から逃げようとする。彼らが通った道は肉塊と化したキメラの死体があちこちに散乱し、直視できないほどの惨状へと変貌してしまった。


「な、なぁ、もう戦闘は終わったんだからあいつ止めた方がよくね?」


 一方的にキメラを狩り続けるクロトを見ながらおそるおそる直哉が尋ねる。

 けれど、彼の言葉に誰も応えず、スピーカーから聞こえるクロトの狂気に包まれた声のみが対策室に響く。


 直哉の言葉を無視しているわけではない、どうやって彼を止めるられるか分からないからみな口を開こうとはしないのだ。


「――止めないと……」


 自然と言葉を紡いでいた。その言葉は誰の耳にも届くないほどあまりにも弱く小さい。

 何故そう思ったのか自分でも分からない。ただキメラを狩り続けるクロトが見ていられない事だけは認識できた。


(あ、あれ?)


 気付けば頭痛や吐き気、身体の震えさえ出始めた。モニターに映る惨劇を直視できないと身体が不調を訴えているというより、内側から何かを拒絶している、そんな感じがする。


 意識が朦朧として立っていられなくなり、そのまま倒れてしまう。


「小山さん!?」


 倒れた音で全員が優理の以上に気付く。真っ先に森崎が優理を抱き起し、直哉や源田も遅れて駆け寄る。みんなが自分に声をかけているが、何を言っているのかよく分からない。


 顔を少し上げ、モニターに映るクロトを見る。キメラの首を刎ね、次の獲物に斬りかかろうとした時、彼の動きが止まった。


 それを最後に優理の意識は暗闇へと沈んでいく。

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