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52話  鞭なる剣

 自衛隊員たちを襲っていたキメラたちもアレクが新しく武器を持った事に気付くとすぐにアレクを取り囲み、襲い掛かる。


「直哉、ヴィッチよ。これを身に付けよ」

「お、おう」

「何これ?」


 彼の手には何の飾り付けもない二つのシルバーリングがあった。

 石山に叱られた手前、不快な呼び方をされて言い返さずに怒気を孕んだ口調で受け取りながら尋ねる。


「貴様らを通じて神創人間たちと連絡を取り合うのは不便であろう? これは貴様らの神気を触媒にして彼らと会話を可能にするものだ」

「こんなものいつ作ったの?」

「アレクにあの剣を送った直後だ。咄嗟に我が脳裏に浮上したものだが、必要ではあろう」

「まあ……ていうか、さっきのオーラみたいなのってヴァルカンの能力だよね?」

『そうなんだけどね。その前に源田君、ちょっといいかな?』


 源田の代わりに答えたヴァルカンは怒っているのを隠しきれていない引き攣った笑顔で彼に詰め寄る。


「何だ?」

『何だ? じゃないよ! あのオーラを出さなくても能力は発動できるんだから出さないでって言ったよね!?』

「ふん、我が権能を大衆に披露してやるのだ。盛大にして何が……ぐっ」

『ほらぁ、言わんこっちゃない! 神気を無駄遣いするからそうなるんだよ。なくなっちゃうとキミも死んじゃうんだからね!?』


 意味の分からない言葉を言っている最中に、頭を抱えて、膝を付く源田にヴァルカンは今まで見た事のない剣幕で説教する。


「あの、源田の能力って道具を創るって事でいいんですか?」

『うん。今朝源田君が能力を発動できる事が判明してね。アレクの剣みたいにこの能力は彼が想像したものを神気を使って形にする事ができるんだ』


 ヴァルカンはモニターに映るアレクを指差す。


 先程源田が創った剣で襲い掛かってくるキメラを両断する。クロトのように考えなく突っ走らず、キメラの攻撃をうまく躱しながら最小限の動きで対処して着実に数を減らす。


 キメラの群れもアレクが再び武器を手にした事から周囲に展開している自衛隊員を無視して彼に意識を向ける。そのおかげで混乱していた隊員たちは態勢を整える余裕が生まれる。


 キメラたちも学習能力があるようで、下手に襲うのを止め、アレクから距離を取り、様子を伺い始めた。まだ数が残っているためかアレクも群れに突っ込もうとはしていない。



「そういえば、何で剣なんだ? 想像できるものならさっき壊されたライフルでもいいよな?」

「確かにそうよね。あれだと接近戦しかできないじゃない。今からでもあのライフルを送れないの?」


 源田が能力を使えると知った事の驚きが大きくて気付かなかったが、新たな武器が剣だけだと、今みたいに距離を取られてしまえば、どうする事もできない。


「視野の狭い凡人はこれだから困る。この状況で我が一つの機能しか持たない武器を味方に持たせると思っているのか?」

「………どういう事?」

「あれが両断するだけしかできないただの剣にしか見えないと奴らが思っている今こそ真の効果を発揮する事ができるのだ。さぁ、アレクよ。その刃の本来の用途は脳に叩き込んでいる。時は来た。蹂躙せよ、鞭なる剣(ヴリマ・クシフォス)!」


 彼がモニターを指差すと同時に、距離があるキメラの群れに向かって、アレクは剣を振る。

 その瞬間、刀身が伸びて無数のキメラの首を刎ね飛ばす。胴体から切り離された首たちは宙を舞い、傷口から鮮血が噴き出してアスファルトを赤に染め上げる。


 その場にいたものは予想外の出来事に気を取られて茫然としている。その隙をアレクは見逃さず、キメラの群れの中心へ跳躍して、着地と共に伸びる刀身を振り回し、多くのキメラを両断する。


「踊っているみたい」

「剣っていうか、鞭っぽいな、あれ」


 一連の流れを見て思った感想を優理と直哉が零す。


 クロトとは異なり、アレクの動作には無駄がなく、軽やかな身のこなしで伸びる刀身を存分に振るい、回る彼の姿は生死が掛かっている戦場とは思えないくらい美しい。


 刃が伸びるという衝撃的な光景を目の当たりにしたためか、アレクの手にあるのは剣であったというのを直哉が発言を聞くまで一瞬忘れていた。


「見たか、これが鞭なる剣(ヴリマ・クシフォス)の真の姿だ!」

「ヴリ、何だって?」

鞭なる剣(ヴリマ・クシフォス)。現世において我が権能を世に示すのに相応しい業物だな」

「君が能力を使った時に叫んだ言葉もだが、どこの言葉だ?」

「西方、大衆が生まれた月日によって十二の星の名を冠する由来となった国だ」

「生まれた月……星座か。という事はギリシャ語なのか」


 森崎の答えが正しいのか、源田の口元が緩み、得意気な表情を浮かべる。


「然り。かの言語は我が魂の奥底まで共鳴する至上の響きだ。故に我が創り出す万物の名称にも相応しかろう」

「そ、そうだな……」

(何だろう。ギリシャ語が使えるのは凄いんだけど、全然尊敬できない)


 源田の言葉に森崎が同意し難いという表情をする裏で優理は呆れた感じで彼を見ていた。

 彼と出会ってから数週間経つが、未だに源田の言動を理解できそうもない。もっとも理解しようとも思わないが。


『こっちが戦闘中の時は緊張感のない会話は控えて貰いたい』

「ア、アレク? あ、そっか。これのおかげでお互いの声が聞こえるようになったんだったね」


 スピーカーから不機嫌なアレクの声が響く。源田の能力で作ったシルバーリングのおかげで戦闘中でも本当に彼らと会話が可能になったのだと実感する。


「ふん、我が権能で表出した創造物を振るった記念すべき最初の一人だ。誇るがいい、アレク・マーストニー」

『武器を送ってくれた事には感謝するが、その上から目線の発言はかなり不愉快だ。後できちんと教育する必要があるようだな』

「ふ、ふん。我を簡単に飼い慣らせるとはおも、思うな」


 自分の能力のおかげで状況が良くなったで調子に乗った発言をしたと源田は苛立つほどの笑みがすっかり消え、代わりに顔が真っ青になり、全身が震えている。


「あーあ、余計な事言ってアレク怒らせちまったよ」

「まぁ、自業自得よ。これに懲りて厨二病も直せばいいよ」

「それにしても、アレクって源田とヴァルカンにはかなり辛辣だよな」

「まあ、喋り方がうざい奴と………あと、全く頼りない神様だから、かな?」

『ちょっと小山さん、それは酷くない!?』


 直哉と小声で話していたのだが、じっくりとヴァルカンの耳に届いていたようで涙目になって二人の会話に割って入る。


『ボクが目覚めたのはつい最近だし、神気だって足りてない状態だからできる事が少ないだけでとっても有能な神様なんだからね!?』

『『役立たずは黙ってろ!!』』


 ヴァルカンの抗議に対してスピーカーから響くアレクだけでなくクロトの怒声も飛び込んでくる。


『な、何だよ~。ボクはただ――』

『今いいトコなんだから邪魔すんな!』

『次ふざけた事を言ったらその舌を引き抜く』

『ご、ごめんなさい……』

「ち、ちょっと、大丈夫?」

『ふーんだ、どうせボクはポンコツでダメダメな神様だよーだ』


 二人の圧に負けたヴァルカンは優理の慰めにも耳を傾けず、対策室の隅で体育座りして不貞腐れてしまった。

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