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04話  現実

 耳が、頭が痛い。次々と飛び込んでくる悲痛な叫びが物理的なものとは別の痛みが優理を襲う。

 動かしていた足が重くなってやがて立ち止まってしまう。幸い、近くに化け物はおらず、周囲には十数人の人がいた。ひとまず助かったと重い足が限界を超え、その場に座り込む。


「ひっ!?」


 自分を見た女性が短い悲鳴を上げる。その女性だけでなく、自分を見た人すべてが驚きの表情をする。何故みんながそんな表情をするのか理解できなかった。


「ねぇ、浩太君、私何か付いてる?」


 優理は言葉だけで浩太に尋ねる。しかし、浩太の返事はなかった。疲れているのかと後ろを振り返る。そこで初めてみんなが何を見て驚いているのか気が付いた。


 そう、彼らは優理を見て驚いたのではない。彼らが驚いたのは優理が握っている肘から先のない小さな手だったのだ。


 それは化け物が現れた時に一度も離さなかった浩太の手だ。傷口からは赤い滴が一滴ずつ静かに零れ落ちる。


「……うそ………」


 自分は逃げる事に夢中で浩太が喰われた事に気付かなかった。沙希と修二もあの蛇のような化け物に喰われている可能性もあの場から逃げる時に考えてしまった。せめて一緒にいるこの子だけは護らなければいけない、そう思った。


 それなのにどうして、自分だけ生き残ってしまったのだろうか。親友に弟、クラスメートを見捨てて逃げてしまった自分への罰なのだろうか。


 茫然としている優理に追い打ちを掛けるように化け物の一体が近づいてくるのを視界の端で確認できた。その場にいた全員が逃げようとするが、優理は一歩も動こうとはしなかった。


 生きる事に対して執着する事ができなくなった。逃げ切れたとしても、沙希や修二と再会できる保証はどこにもない。


「神様、もし本当にいるなら私たちを助けてよ、あいつらを倒してよ……!」


 消えそうな声で空を見上げて叫ぶ。けれど、答えが返ってくる事はなかった。けれど、願わずにはいられなかった、諦められなかった。


「もう、疲れた……」


 優理は呟いた。

 空っぽになってしまい、小さな願いでさえ叶えてくれない現実に生きる希望を見出せなくなった。


 あの老人のように孤独に生き続けるよりはいっそ死を選んだ方が楽なのではないか。そう思った瞬間から逃げるという手段は思考から完全に消えてしまった。


 突然、自分の周りが暗くなった。化け物が自分と太陽の間に現れ、影を作っている。影の正体は化け物だろう。頭の方から生暖かい風が吹いてくる。

 やけに鉄臭い匂いがする。こいつも人を喰ったのだろう、自分もその犠牲者の一人になるのだろう。


(………死ぬんだ、私………)


 人間いつかは死ぬ。けれど、もっといろいろな事を経験して、愛する人と幸せな家庭を作って、寿命で死んでいくものだと思っていた。十六年という短い人生でこんな結末を迎えるとは思わなかった。

 肩を掴まれた。いよいよ、自分も化け物に喰われる時が来た、そう思った。


 上から、銃声が二発聞こえる。その後に後ろで呻き声の後に大きな地響きが鳴り響いた。後ろを振り返ると上半身は人で下半身は馬のような化け物が倒れており、胸部には二ヶ所銃で撃たれた跡があった。優理は狙撃したと思う上を見上げる。


「―――えっ!?」


 優理の目に映ったのは宙に浮いている全身を灰色の鎧で身を包んでいる人型の存在だった。それはしばらく優理を静かに見下ろし、そして、飛び去って行った。

 残された優理はその姿を見ているだけだった。

お読みいただきありがとうございます。


「面白そう!」

「続きが気になる!」


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