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38話  屋上にて  直哉視点

「まぁ、予想はしてたけど、大人気でしたね~。特に女子に!」


 嫉妬も含んだ言葉をアレクにぶつける。直哉の理不尽な怒りの矛先を向けられたアレクは疲れた表情を見せて、沈黙を決め込む。


 自己紹介を終えたアレクに待ち受けていたのは女子を中心にした質問攻めだった。休み時間がやってくる度にアレクの席に人が集まる。

 それを二、三回見送って迎えた昼休み。本来立ち入り禁止である屋上に直哉とアレクは来ている。


「ここぐらいしか落ち着く場所はなさそうだな」


 転校生が避けては通りない洗礼を受けたアレクは溜息を吐く。彼にとって休める時間は全くなかったようで、クラスメートに向けていた笑顔は今はない。

 ずっと笑顔を保っているのに疲れたようで、今は無表情だ。女子がこの様子を見れば笑顔と無表情のギャップがいいと裏で騒ぎそうだなと彼に見えないように苦笑する。


「にしてもお前、他人に対してあんな感じなの?」

「あんな感じとは?」

「いや、優等生的な態度だよ」


 どんな質問に対しても柔和な笑みを絶やさずに答えていたアレクに抱いた疑問を投げかける。

 いつも淡々としている彼だから、自己紹介の時も同じように振る舞うと思っていた分、奇妙な感じだ。


「まぁ、人間だった頃は初対面の相手に人当りの良い相手だと思わせるのを意識していたからな」

「ああ、そういう事」


 遠い目で答えるアレクに納得する直哉。神創人間は元の世界で普通の人間でアレクはこの世界で言う大企業の御曹司だった。


 そんな彼の人生はエドナによって全て壊されたのだ。エドナに復讐するために人間を捨てて、その肉体を技術の神ヴァルカンによって創り替えた。


「だったら、検査の時は何で不機嫌だったわけ?」


 彼の言葉を聞いて初めてアレクと会った時の事を思い出す。


 病室で目が覚めて同じタイミングで部屋に入って来たアレクに問答無用で連れてこられた。逆らおうとしたら、今以上に冷めた眼で睨まれて大人しく従うしか選択肢がなかった。

 目的地に着いたと思えば、両手足を縛られた巨体の男が転がされているのを見た瞬間、身の危険を感じたのを今でも鮮明に覚えている。


「それは………直哉の前に意味の分からない戯言ばかりの変人を連れてくるのにイライラしていたから……」

「あいつのせいかよ……」


 溜息を吐きながら、脳裏にその巨体の男が浮かぶ。

 今の直哉はエドナ襲来によって本来なら関わる事はない人たちと行動を共にしている。

 その中ですぐに覚えた人物はと尋ねられれば、異世界から来たアレクたちを除けばその男が真っ先に思い浮かぶだろう。


 そして――


「さぁ、内なる魂の咆哮を鎮める儀式だ!」


 彼――源田和弘(げんだかずひろ)は直哉と同じ高校に在籍していた。


 扉を勢い良く開けた源田の声はかなり距離があるはずの直哉たちの鼓膜さえも響かせる。

 脂肪が詰まった巨体、それだけでも特徴的だが、そんな彼をさらに目立たせているのは独特な口調のせいだろう。


 一つ上の学年に厨二病の変人がいると噂になっていたが、まさか、その本人とこうして知り合ってしまうとは直哉も想像もしていなかった。


「うるせぇし、さっさと進めよ」


 源田のすぐ後ろで不機嫌な声が届く。直後、源田が前のめりになる。そこから姿を現したのは右足を前に突き出して立っている幼さを残した銀髪の少年だ。

 シャツの上から二番目のボタンまで外し、その下から赤いTシャツを着ている銀髪の少年は乱暴に頭を掻く。


「服装とか勉強とかマジでメンドくせー。ホントに今日からこれが続くのかよ」


 溜息を吐く銀髪の少年。彼もアレクと同じ異世界から来たもう一人の神創人間、クロト・レイルだ。

 源田とクロトは二、三個の弁当が入った包みを持っていて直哉たちの下へと近づく。


「その様子だとクラスに馴染めていないようだな」

「仲良しごっこは嫌いなんだよ」

(うわぁ~。何したか想像できるわ)


 おそらく転校早々好き勝手振る舞って担任に説教されたのだろう。アレクとは違ってクロトが大人しく授業を受ける姿など想像できない。


 これで屋上に集まった生徒は四人。全員が政府の保護や監視下に置かれている人間ばかりなのは偶然ではない。昼休みになったら、この場所に集まる事になっていたからだ。

 あと一人ここに来る予定だが、今から昼食だというのに全員が男子という華がない絵面だなと思っていると再びドアが開く。


「ごめん、遅くなっちゃった」


 そう言って現れたのは一人の少女だった。

 少女が自分たちに近づいてくる間、直哉はその少女を見ていた。


「どうしたの?」

「あ、いや、何でもねぇよ」


 そう言って自分の横に座る少女から顔を背ける。

 別に彼女に見惚れていたというわけではない。それでも少女を見ていたのは彼女の姿に違和感があるせいだ。


 少女の髪の色は初めて会った時と今とでは大分違う。元々は茶髪に染めていたらしいのだが、直哉たちの高校に転校すると決まってから黒に染め直したのだ。

 茶髪の時も似合っていて悪くはなかったが、黒に戻した事で清楚で大人しそうな雰囲気になっている。


 それが少女――小山優理(こやまゆうり)の変化に対する直哉の感想だ。

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