35話 戦う理由 直哉視点
程なく直哉が頼んだ料理も運ばれてきた。
「お、きたきた。いっただきまーす」
テーブルに料理が置かれると同時に唐揚げを一つ口に運ぶ。鶏肉を小さく歯で食い千切り、胃の中へと流し込む。
「うまいうまい。やっぱ腹減った時の揚げ物は最高だな~」
次々と料理を口に運び、さっきまで感じていた空腹感が徐々になくなっていく。
「確かにうまいが、岬さんの料理に比べると劣るな」
「まぁ、岬さんの料理はうめぇもんな。あんなうまい料理は作れそうにねぇわ」
言いながら昨日の食事を思い出す。
用意された料理は夏鈴の事で食事が遅れ、少し冷めてしまったが、どれも絶品だった。クロトや源田ほどではないが、直哉もそれなりの量を食べたと思っている。
「自分で作る事もあるのか?」
「あ……まぁ、ちょっとは」
アレクの質問に直哉は失言だったと思ったが、別に隠す事でもないかと割り切って口を開く。
「姉ちゃん二人いてさ、色々と面倒事押し付けられてたら、いつの間にか家事はある程度できるようになったんだよ」
「この世界では下の兄弟は家事やらをするのが当たり前なのか」
「いやいや、それは家庭によって違うぞ」
アレクの考えを即座に否定する。
正確に言えば兄弟で家事ができるようになるのはしっかり者か面倒事を押し付けられる者のどちらかだろう。
悲しい事に直哉は後者だ。姉二人は家事ができない訳ではないが、自分が末っ子だからと言って押し付けてくるのだ。
「そういうアレクはどうなんだよ」
自分たちとは別の世界について興味があったため、尋ねる。
「家事は一度もした事はない。元の世界でボクはこの世界で言う大企業の息子という立場だったからな」
「……えっ、マジで?」
アレクの言葉に耳を疑い、聞き返す。
「ウソを吐いて何になる?」
「ま、まぁ、そうだよな」
予想もしていなかったアレクの答えに驚くが、何故か妙に納得した自分がいる。
同い年くらいの見た目で、自分よりもずっと大人びていて上品な立ち振る舞いなのは育ちがいい生活をしていたのだなと思った。
「………ん? ちょっと待てよ。お前、あの神様に創られたって言ってなかった?」
検査を受けている時の説明でアレクの口からそう言ったと記憶している。そのため、アレクの今の言葉に違和感をすぐに伝える。
「ああ、あの時の説明は語弊があったようだな。正確に言えばボクとクロトは元々人間でアイツがエドナを討伐するためにボクたちを創り直したんだ」
「て事は、人間をサイボーグに改造したって事だよな?」
「そうだ」
直哉は言いながら、サイボーグに改造される想像してしまった。
これまでの自分じゃなくなる、背筋が凍りそうになる。
「よく平気な顔していられるな」
第三者の手によって人の姿をした別の存在に創り直される、身体の中に神気という未知の物を宿している直哉以上にアレクは不安なのではないのだろうか。
「目的を達成できるのなら自分が人でなくなるのは別に大した問題じゃない」
涼しげな顔で答えるアレク。しかし、どこかいつもと違うような感じがする。
「目的って?」
口に出してから、答えは決まっていると思った。戦う力を手に入れる目的は一つしかないだろう。
「――ヤツを、エドナをこの手で殺す」
静かに予想通りの答えを言い放つアレク。
その言葉に込められた感情はとても冷たい。季節は夏であるのにも関わらず、寒気を感じる。彼の瞳に宿る感情を一言で例えるのなら憎しみと直哉は表現するだろう。
アレクは前を真っ直ぐ見つめる。その視線に自分がいる。けれど、アレクが見ているのは自分を見ているわけではない。
別の何か、おそらく元の世界で見てきた光景を思い出しているのかもしれない。
「………すまない。少し感情的になっていたみたいだ」
直哉の視線に気付いてアレクは苦笑する。言葉を発する直前に目を閉じて、また開いた時にはさっきまで瞳に宿っていた感情は消えていた。
「あ、ああ。気にしてねーよ」
強がって何事もないように装う。
気を紛らわせるためにグラスに注がれたコーラを飲む。
「でも、なんか安心したわ」
「何故だ?」
「んー、キメラを倒すために来たお前らも人間の感情を持ってるって分かったからかな?」
直感で出た言葉のためうまく説明できず、なかなか言葉が出てこない。けれど、自分が思った事を正直に言った。
外人の少年という見た目のアレクたち。キメラを倒せる特別な存在とはいえ彼らも自分と同じ人間であると知って、何故か安心した。
根本的には自分とは違うが、彼らと歩み寄る事はできるそう思ったからなのだろうか。
「なぁ、そっちの世界の事教えてくれよ。すっげぇ興味あるんだよ」
「ああ、構わないが、変なヤツだな」
直哉の言葉を受けたアレクは僅かに口元が緩む。
「いや、お前に言われたくないわ」
反射でアレクに言い返したが、その言葉に怒りの感情は含まれていない。友人と喋っている時のツッコミと同じ感覚で言葉が出た。
この会話の中で少しずつアレクと打ち解けていると、少なくとも直哉はそう思っている。
それから二人は他愛もない事を喋りながら昼食を堪能する。




