34話 初めての外食 直哉視点
遥か上空に昇る太陽は惨劇があった後でも変わらず、地上に光を与える。エドナ襲来によって大勢の人間が死んでも関係ないと主張しているようだ。
「あ~。疲れた~」
両手に複数の買い物袋を持っていた直哉は付き添いのアレクと共にファミレスに来ていた。
席に着くなり、直哉は荷物を椅子の上に置く。アレクも反対側の席に荷物を置いて座る。
「一日でこんなに自分の服買ったの初めてだわ」
「当分着るのだからそれなりに量があるのは仕方がないだろう」
「そりゃ、そうなんだけど。久しぶりに帰ったら家が壊れてたってのは、さすがに辛いわ~」
昨日、自宅に荷物を取りに行こうとした直哉とアレク。しかし、直哉の家はキメラの襲撃で倒壊していた。
そのため、服などを一から揃えるためにこうしてショッピングモールに足を運んだのだ。
(みんな生きてっかな)
エドナ襲撃から家族や友達とは一度も再会した事がない。
身体が疲れを主張しているのは家族と再会できるかもしれないという期待を大きく裏切られたショックを誤魔化しているだけなのかもしれない。
「さすがに不運続きだと気が滅入るわ~」
テーブルに伏せ、冷たい感触を頬で感じながら呟く。
「その割には落ち着いて見えるな」
「いやいや。気絶して目が覚めたら変な事に巻き込まれてるわ、家が壊れているわで結構落ち込んでるぜ?」
顔を上げるのが面倒でそのままの体勢で言い返す。それと同時に空腹が直哉を襲う。
「そんな事よりメニュー決めようぜ~」
胸に残る不安はすぐに消えない。それを振り払うように明るく話題を変える。
メニューを開いて眺める直哉。肉が食べたい気分なので肉料理を中心に見る。
「へぇ、肉に魚、麺類もあるのか」
興味深そうにアレクもメニューを見ている。
「もしかして外食は初めてか?」
メニューだけでなく店内を珍しそうに見るアレクに尋ねる。
「ああ。こっちの世界では岬さんの作った料理か用意された弁当以外の食事はした事がないな」
「そっか。んじゃ、初外食って事で楽しもうぜ。俺決まった」
「調子の良い奴だな。金はボクが払うというのに。ボクもだ」
「了解。あ、すいませーん」
「はーい。お決まりでしょうか」
「唐揚げ定食一つ」
「ハンバーグ洋食セットのパンを一つお願いします」
「かしこまりました。ドリンクバーはお付けしますか?」
「あ、どっちもお願いします」
注文を終え、店員が離れると、さっそくドリンクを注ぎに行く。
「ドリンクバーというのは何だ?」
「ん、知らねぇの? あそこにあるドリンクが飲み放題になるんだよ。お前にも付けたから使えるぜ」
ドリンクが置かれている方を指差しながら説明する。
「なるほど。なら、利用させてもらおう」
そう言って、アレクも立ち上がり、ドリンクを注ぎに行く。
「どれにすんだ?」
自分が飲むドリンクを決めた直哉の隣で興味深くドリンクのラベルを見るアレク。
「初めて見るものだから、どれにするか迷うな。直哉は何を選んだんだ?」
「俺はコーラだよ」
グラスに注いだコーラを見せる。
「この世界は黒い飲み物は泡が立つ物もあるのか」
珍しそうにグラスを見るアレク。
「まぁ、試しにどれか選んでみたら?」
「そうだな……じゃあ、一番左のものにするか」
「おう。グラスでラベルの下にあるレバーを押すとドリンクが出るぜ」
「分かった」
そう言ってグラスにオレンジを注ぐ。
「なるほど、好きな飲み物の量を自分で調節できるのか」
「それだけじゃなくて他のドリンクと混ぜて飲むのも楽しみの一つだな」
数ヶ月前、友達とふざけて作った変なドリンクの味を思い出し、我ながら凄い物を生み出したものだと苦笑する。
「それにしても、他の客の視線を感じるんだが、ボクは何か変な事をしたか?」
「いや、別に普通にしていると思うけど?」
アレクの疑問に深く考えずに答える直哉。答えた後、周囲を見渡しながら席に戻る。
確かに店内の人間がちょくちょくこっちを見ている。正確にはアレクだけを見ているといった感じだ。
「ああ、気にすんなって。イケメンが避けては通れない道って奴だよ」
「どういう意味だ?」
直哉の言葉を理解できなかったアレクは首を傾げる。
「どう見たって外国人のイケメンにしか見えねぇからな、お前」
金髪碧眼に軽いパーマがかかったようにふわっとした髪型をしたアレク。外国人モデルと言われても納得がいく容姿だ。
「そういうものなのか?」
疑問を解消していないアレクはしばらく聞き耳を立てながら注いだオレンジジュースを飲んでいたが、突然カバンから辞書を取り出す。
「ぶっ」
予想しなかったアレクの行動に口に含んでいたコーラを軽く噴き出す。
「汚い。飲み物を机に撒き散らすのはマナー違反だろう?」
「わ、悪い」
謝りながらテーブルに用意されているナプキンを数枚取ってテーブルを拭く。
「てか、何で辞書なんか取り出したんだ?」
テーブルの惨状のきっかけとなった行動について尋ねる。
「いや、断片的にヤバいという単語が聞こえてきてな」
「は?」
アレクの返答に理解しきれていない直哉は首を傾げる。
「ヤバい、というのは身の危険を感じる時に使われるのだろう? ボクはクロトのように粗暴に見えてしまっているのだろうか?」
アレクの目は真っ直ぐでそこに冗談が含まれているとは思えない。
「それは気にしなくていいと思うぞ。ヤバいって言葉は凄いとかそういう意味でも使われるんだよ」
「なら、普通に凄いと言えばいいのではないか?」
「まぁ、ヤバいはその凄いよりも上を行くって感じだよ」
「変な使い方だな………まぁ、クロトと同じように見られていないのならいいか」
直哉の説明にやや理解しがたいという表情をするが、辞書をカバンに入れ、再びオレンジジュースを口に運ぶ。
「あいつに対してのヤバいは確かに身の危険を感じるって使い方しか出来ねぇよな」
昨日の戦闘でクロトがキメラを刻んでいる姿を見てから、彼が近くにいるだけで無意識に緊張してしまう。
あの後、普段通りの態度だったので余計に恐怖を感じる。
「アイツの行動でボクまで警戒されていい迷惑だ」
苦笑する直哉に不機嫌そうにアレクが言う。
アレクたちはヴァルカンに創られた兄弟のようなものだと思っていたが、そうではないようだ。
「それより、辞書なんか持ち歩いているのか?」
「ああ。今みたいにまだ知らない言葉がある可能性があるからな」
「かさばるし、重いし、普通は持ち歩く物じゃねぇぞ」
「確かにそうだな」
と、そこに店員がサラダを持ってくる。
「お待たせいたしました。ハンバーグ洋食セットのサラダをお持ちいたしました」
「ありがとうございます」
アレクは柔らかな笑みで言うと店員は顔を赤くしてその場から離れる。
一瞬、店員の口元が緩んでいたように見えた。
アレクは自分に向けられている全ての視線に対して柔らかな微笑を浮かべる。ほとんどの女性がそれに興奮して黄色い声がいくつか耳に届く。
「………お前、確信犯だろ」
「何の事だ?」
聞き返すアレクの表情に疑問の色はない。わざととぼけているのだろう。
「相手にいい印象与える方法分かってるなって事だよ」
「敵を作りに来たわけじゃないからな」
そう言って再びジュースを口に運ぶ。
「しかし、直哉が飲んでいるそれは本当に飲み物なのか?」
「試しに飲んでみるか?」
直哉は自分のグラスをアレクの前に置く。
差し出されたグラスを警戒しながら口元に運ぶ。
「っ!? げほっ、ごほっ。何だこれは」
噴き出すとまではいかないが、苦虫を嚙み潰したような表情をしながらアレクは咳き込む。
「コーラだよ。俺が炭酸系で一番好きなものだよ」
「こんなものが好きだとは……変な奴だな」
ジュースを飲んで口直しをしているアレクの言葉に腹を立てる事なく、直哉はコーラを口に運ぶ。
「好きな奴は結構いると思うけどな」
自分の好きなドリンクを共有できず、軽く不満顔でコーラを飲む。




