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31話  違和感の正体

 モニターを見る。

 複数あるモニターで横側からこの戦闘を映している一番端のモニターの画面を見た時、クロトの後ろにある建物の入り口から何かが動いている。


(何だろ、今の――)

『行くぜ!』


 だが、影について考えるよりも先にクロトが行動を起こす。熊に向かって真っすぐに突進する。

 このままクロトが熊に止めを刺して終わる、この戦闘を見ている優理以外の全員が思った。


 クロトが動いたと同時に端のモニターに彼の背後にある建物から一匹の猿が出てきたのを優理は見つける。その猿は先程の戦闘でクロトに腕を吹き飛ばされた個体だ。


 数分前に源田達との会話で違和感を覚えたのはこの猿が原因だったと確信する。

 唯一直接猿が倒されたと確認していなかったが、これまでの戦闘で討ち漏らしはないと思い込んでしまったのだろう。


 猿は口を大きく開け、息を吸い込んでいるようだ。何をするかは分からないが、クロトに対して攻撃を仕掛ける事は間違いない。


 最悪な事にクロトは背後から攻撃されると思っていないのか、変わらず熊に向かって突進している。


「クロト、後ろ!」

『へ? ――って、どわっ!?』


 思わず叫んでしまう優理。その声に室内にいた全員が視線を向ける。

 それと同時に猿の口から火球が放たれ、クロトの左肩に命中する。


 皆、突然の攻撃に驚く。しかし、優理とクロトはそれ以外にも驚いた要素がある。それは優理の声がクロトに届いたという事だ。


 攻撃を受ける直前、クロトは後ろを振り返っている。本当なら背中に命中していたはずが、振り返る事によって猿の狙いに誤差が生じた。


 優理の声がクロトに届き、後ろを振り返っている最中に攻撃を受けた。その事に二人は驚いたのだ。


 この攻撃によって生じた隙を熊は見逃さない。

クロトが接近した事により、熊との距離は一メートルほど。熊の鋭い爪でクロトの胸部の装甲を斬り裂く。

斬り裂かれた装甲は亀裂が入り、そこから火花が散る。


『ぐあっ』


 攻撃の衝撃で数メートルほど吹き飛ばされ、クロトは初めて地面に倒れる。

 熊は立て続けにクロトに襲い掛かろうとする。


「まずい!彼を援護できる部隊はいるか!?」

「ダメです。ほとんどの部隊が避難所の警護に当たっていて間に合いません!」


 初めて訪れた味方の危機に対策室の面々はざわめく。

 そんな一同を置いて熊の前足の爪がクロトの装甲を斬り裂くために振り下ろされようとしている。


 刹那、熊の頭部を撃ち抜く光の弾。その一撃によって熊は絶命し、血で床を染めながら倒れる。


「ベ、βの狙撃によってキメラの活動、停止しました……」


 最初に我に返ったオペレーターの言葉によってクロトが窮地を脱したのだと理解した。次々と安堵の息が零れるのを耳が捉える。

 これでクロトの危機は回避されたのだと。


 だが、一人だけ皆と違う反応をする者がいた。


『――チッ、この野郎!』


 クロトは起き上がり、猿に向かって剣を投げ付ける。

 放たれた剣は猿の腹部を貫き、その勢いは止まらず、後ろの壁を突き刺さる。


『よくもやりやがったな』


 磔にされた猿をクロトは一気に距離を詰め、もう一本の剣を抜き、斬り刻む。

 手、足と少しずつ猿の身を削ぎ落とすクロト。予期せぬ攻撃をした猿に対する腹いせなのだろう。


 猿はあまりの苦痛に顔を歪め、絶叫している。

 この行いを止める人間は誰もいない。本来なら敵であるキメラが倒される事に何の憐れみも持たない。


 けれど、目の前で身を少しずつ削ぎ落とされる光景を見て何も思わないほど、優理たちは冷徹ではない。

 味方であるはずのクロトがこの瞬間だけ悪魔だと思えた。

 少しずつ白かったアスファルトは猿の血によって真っ赤に染まる。


「奴の狂気はこれほどとは……」

「――おぇっ」


 画面越しに繰り広げられる拷問を見るのに耐え切れず、胃の中の物を吐き出して再び顔色が蒼白になる。


「日高君、大丈夫か?」


 森崎が声を掛けるが、返答する余裕もなく、膝を付く。その様子を見て、森崎は直哉を連れて部屋から出る。


 その後もクロト私刑は止まらない。

 両腕は肩まで、右足は太ももまで削ぎ落とされている。


 猿は泣き叫び、最後の抵抗か再び火球を発生させるべく、息を大きく吸い込む。


 火球が放たれる前にクロトは首筋を斬り付ける。傷口から血が噴き出し、口から僅かに火が出る。その火は弱々しく、すぐに空気の中へ溶け込んでしまう。


 クロトは虫の息となっている猿の口に銃口を押し込む。猿の方がクロトよりも大きく、押し込まれた銃口は上を向いている。


『――死ね』


 引き金を引き、直後猿の頭が爆散。辺りに残骸が飛び散る。


 後味の悪い光景を目に焼き付けられ、戦闘が終了する。今度こそ、間違いなく。


「我ですら、この凄惨な状況には流石に目を背けたくなるな。内なるものが顕現しそうだ。すまないが、少し休ませてもらう」


 今まで弱気な発言をしなかった源田も気分を悪くしたのか、優理と入れ替わりでパイプ椅子に座る。


『――んで、優理。何でお前の声が聞こえんだ?』

「え、えっと。私にも分からない、です」


 武器を収め、いつもより不機嫌な口調で尋ねてくるクロトに対して優理は恐怖を感じ、曖昧に答える。

 彼の声が頭の中に聞こえてくるのか彼女自身分からない。


「クロトは大丈夫なの?」

『………ああ。装甲に傷が付いた程度で大した事ねぇよ』


 電話をしているかのような感覚でその場にいないクロトと会話をする。

 キメラに攻撃を受けて、それを他人に見られているという事に対して気分を害しているというのを隠さないクロト。


「小山さん、αはなんて言っているんだ?」

「何で私の声がクロトに聞こえたのかって聞いてます。あと、今の戦闘の傷は大した事ないそうです」 


 クロトと交わした言葉をそのまま尋ねた石山に返す。


「そうか。だが、αの声が君だけに聞こえたのは彼らを創った神が君と一体化しているからなのだろうか」

「そういう事になりますよね……」


 自分の中に神様がいる。その可能性は捨て切れないが、クロトの声が聞こえるだけでそれ以外には何の変化もない。


「それについてはボクから説明するよ」


 優理たちの会話に飛び込んでくる声。その声が聞こえてきた方向には源田がいる。だが、彼の口調とはかけ離れている。

 彼はゆっくりと近づく。


 良くも悪くも近付きにくい雰囲気の源田だが、今の彼はそんな雰囲気を感じない。穏やかで柔和な雰囲気が内側から漂う。


 それは彼が源田ではなく、全くの別人が喋っているという事を示している。


「あなたは誰?」


 目の前に立つ源田の身体を借りて喋る人物に尋ねる。

 同時にある可能性が脳裏に浮かぶ。何度もクロトたちが言っている、自分たちが保護された原因でもある事。


 柔らかな笑みを浮かべ、その人物は口を開く。


「初めまして。ボクの名はヴァルカン。こことは別の世界からやってきた技術を司る神だよ」

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