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29話  神創人間β

「β、移動しながらキメラに狙撃を行う模様です」


 キメラ対策室に似合わない空気をオペレーターの隊員が本来の空気に戻す。

 隊員の報告と同時にモニターを切り替える。


 モニターに映ったのは、先程の灰色の装甲を持つ人型ロボットではなく、青みがかった黒の装甲で全身を包んだ人型ロボットだ。

 小中学校の美術で絵具の十二色の中にある藍色というものに近い。全く使い道はなかったが、なんとなく印象に残っている色だ。


 スマートな装甲でライフルを手に持ち、空を飛ぶその姿はクロトよりも優雅さがあり、モニター越しである事も含めて架空の映像を見ているようだ。

 手に持っているライフルは優理の想像しているライフルよりも一回り大きいライフルだ。見るからに重量があり、優理にはとても持てそうにない。


「アレクっすよね、あれ」


 直哉が確認で森崎に尋ねる。

 キメラに対抗できるのは二人しかいない。クロトは先程の灰色の装甲を持つ人型ロボットの姿をしていたため、今モニターに映っているのが、異世界から来た技術の神が創ったもう一人の人間、アレクという事になる。


「そうだ。彼は空中から狙撃もできるんだな」


 直哉の質問に答える森崎はモニターに映っている藍色の人型ロボット――アレクを見て意外だという表情を見せる。


 そんな中、モニターに映るアレクはライフルを構える。銃口を斜め下に向け、引き金を引く。

 銃口から放たれるのは、クロトの拳銃から放たれたものより一回り大きい光の弾だ。それの向かう先は二メートルほどの大きさの蜘蛛がいる。


 数人の自衛隊員が機関銃を撃ちながら交戦している。

 しかし、残念な事に彼らの武器は蜘蛛には効いておらず、無数の弾丸を撃ち込まれているはずの蜘蛛は平然と彼らへと進んでいる。いや、正確に言えば彼らの後ろに控えている大きな建物を目指している。


 おそらくあの建物の中には大勢の人が避難していて、蜘蛛はそれを狙っている。だから、彼らは退かず、蜘蛛を足止めしているのだろう。

 いくら効かないとはいえ、目的の邪魔をされ続けた蜘蛛は一人の隊員に迫る。


 アレクの放った光の弾が蜘蛛の頭部を撃ち抜いたのはその直後だった。血を撒き散らしながら蜘蛛は隊員の目の前で倒れる。

 隊員は死ぬかもしれないという恐怖をその身に刻まれ、腰が抜けてアスファルトに転ぶ。


 アレクは蜘蛛を仕留めた事を目視で確認すると、近くの建物の屋上へと着陸する。

 そして、ライフルを構え直す。腰を落とし、狙撃の態勢を取る。狙いが定まったのか、再び銃口から光の弾が飛び出す。


 放たれた光の弾は建物の間を一直線に突き進む。

 アレクが何を狙って光の弾を撃ったのか分からなかった。


「あの光の弾を追跡できるか?」

「はい、複数の監視カメラを使えば、何とか追えます」


 石山の言葉にオペレーターの隊員は次々とモニターを切り替えて、アレクの放った光の弾を追跡する。

 光の弾は遥か遠く、おそらく一キロメートル以上も離れている虎へと向かっている。虎は接近してくる光の弾に気付くのが遅れ、そのまま額を撃ち抜かれて傷口から血を吹き出しながら倒れる。


 フルフェイスの装甲で彼の表情は見えないが、淡々した雰囲気は変化していない。

 クロトのような無茶な戦い方ではなく、堅実に確実にキメラを狙撃する。それがアレクの戦い方のようだ。

 


「すげぇ、マジであの化け物たちを倒せるのか」


 実際にキメラを倒すクロトとアレクを目の当たりにして直哉が呟く。

 優理自身もさっきまで二人がキメラを倒す力があると言われても半信半疑だった。だが、実際に見て、それが本当の事だと考えを改める。


 二人は間違いなく、これから先キメラと戦うのに必要な戦力なのだと実感する。これで人間はキメラに一方的に喰われるだけではなくなった。


「確認できるキメラはあと三体か。見る限り、神創人間とキメラ一個体の力の差は圧倒的のようだが……」


 源田が呟く。

 確かに今までの戦闘で二人は無傷の状態でキメラを倒している。彼らの持つ武器全てがキメラを倒す力があるとこの目で認識できた。


「クロトはちょっと危なかった感じだったけど全部返り討ちにしてたしな」

「そうだね。全部………」


 そう言いかけて優理は口を閉ざす。胸の中に微かに残るモヤのようなものが纏わりつくような感覚に気付く。


「優理ちゃん、どうしたの?」

「あ、いえ。何でもないです、多分」


 優理の様子が気になったのか岬が尋ねる。

 その声に初めて我に返るが、返答は曖昧に答える。


(なんだろ? 何かが違う?)


 源田や直哉の会話の中に違和感がある。モニター越しに見てきた光景と彼らの会話で何かが合致していない点がある気がする。

 しかし、それは筆記試験で見落としがあるのではないか、そんな些細な不安と似ている。


「α、キメラを一体撃破しました。残り二体は避難所に近づいています。その距離、約百メートル」


 優理の思考を遮り、オペレーターが現状を報告する。

 モニターを再度見ると、赤い点が残り二つで一つの点に向かう青い点がある。


 この赤い点がなくなる事でこの襲撃は終わりを迎える。

 最初は一方的に襲ってくるキメラの産みの親であるエドナから逃げる事しかできなかったが、今回はそのキメラを倒せる存在がいる事によって勝利できる。


 そして、また一つ、赤い点が消える。消えた赤い点は避難所を差す中心に向かっていたため、アレクに狙撃されたのだろう。

 残すはクロトが向かっている赤い点のみ。

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