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28話  未完成な体制

「あれがキメラを倒す人類の希望というものか」


 人型ロボットがモニターから外れるのと同時に源田が呟く。


「ああ。今の人型ロボットは戦闘時のクロトの姿だ」

「あれがクロト?」


 モニターに映っていた人型ロボットは以前、キメラに喰われそうになった優理を助けてくれた。希望をなくし、生きる事を諦めた優理の命を繋いでくれた存在だ。

 そして、人型ロボットが両手に持っている一回り大きい拳銃も見覚えがある。誰に対しても不遜な態度を崩さない少年――クロトがよく手にしていたものだ。


 森崎の言葉を受けて優理は何故かすんなりと納得できた。これと言った根拠があるわけではないが、人型ロボットとクロトの雰囲気は似ていると思った。


 それ以前に技術の神が創った人間は二人いる。クロトともう一人、アレクという少年だ。キメラに対抗する力を持っているのがこの二人なら先程モニターに映っていたのは当然二人のうちどちらかになる。


「クロトの事をαと先程言っていたようだが?」

「そういえば説明していなかったな。彼らを創った神が最初に創ったのがクロトらしいからα、アレクはその次に創られたのでβと形式上で名付けられたそうだよ」


 源田の問いに森崎が追加で説明する。


「ていうか、ここって一体何なんすか?」


 吐き気が収まった直哉が尋ねる。顔色はまだ青く、目が虚ろな状態だ。


「ちょっと、大丈夫?」

「正直、あんま良くない」


 見ていられず、声を掛ける。答えた直哉の声は弱々しい。


「察するにここはキメラの防衛の要となる砦か」

「ああ。ここは『キメラ対策室』。キメラ出現時に市民の避難、神創人間のサポートを中心に行う組織だ。私は石山、ここの指揮を執っている」


 そんな直哉を無視して、腕組みをして部屋を見渡しながら源田が呟く。その言葉に石山が答える。

 この部屋に入った時に軽く説明は受けた。それでも、理解できているとは言えないので、黙って説明を聞く事に集中する。


 源田は顎に手を当て、口を閉ざし、石山は話を続ける。


「体制としてはまだ不完全なものだ。今は連絡手段がないため、神創人間とこちらの連携が全く取れていない」

「それは神創人間の創り主たる神の力が必要不可欠だからか……」


 今の石山の話を聞いて一人呟く源田は内容を理解しているようだ。

 昨日の検査で説明を受けている時も思ったが、彼はおかしな言動をしている反面、優理と直哉と違って状況の理解ができている。


 この異常な状況の中、彼はどうして冷静でいられるのだろうか、そんな疑問が頭の中で浮かぶ。けれど、今はこの建物やクロトたちの事を理解するだけで精一杯のため、頭の隅に追いやる。


「そうだ。戦闘時の彼らとこちらの通信機器を接続できるのはその神だけらしい」

「なるほど。今こちらでできるのは神創人間とキメラの戦闘を傍観する事だけというか」


 変わらず、源田は何かを深く考えているようで表情は全く変化しない。


「それ以外は今のところ問題にはなっていないみたい。市民の避難や被害状況の報告は現場の隊員の連絡でなんとかなっているの」


 横から岬が石山の話に付け加える。

 キメラの襲撃を確認して、ここに来るまでに自衛隊の動きを思い返す。二回目のキメラの襲撃よりも対応が早く、避難誘導もスムーズに行われていたように感じた。


「今確認できるキメラの個体の数は?」

「現在確認できるのは五体です。全個体、最も多い避難所へ向かっているようです」


 石山はコンピューターを操作している隊員に尋ねる。隊員はキーボードを慣れた手付きで打ち込み、モニターの画面が切り替える。


 モニターに映っているのはカメラが撮っている映像ではなく、レーダーのセンサーのように黒画面に緑色の線が蜘蛛の巣上に広がっている。中心には緑色の点が無数に広がっていて、画面の端の方に赤い点が五つ散在している。


「これは一体……?」

「モニターに映っている画像や隊員の報告を基に人間やキメラの居場所を分かりやすくした分布図のようなものだ。中心は現時点で最も人が多いと予想される避難所だ」


 優理の問いに石山が答える。

 言われてみれば、確認されたキメラの個体の数と赤い点の数が一致しており、そのどれもが中心に向かって移動している。

 他に青い点が二つあり、一つは赤い点へ、もう一つは中心へと移動しているようだ。


「青い点ってもしかしてクロトとアレクですか?」

「そうよ。赤い点に向かっているのがクロトで中心に向かっているのがアレクかな?」

「何で避難所に? 直接キメラのところに向かった方が良くないっすか?」


 顔色が良くなり、いつもの調子に戻った直哉が岬に尋ねる。


「アレクは近距離、中距離攻撃に特化しているクロトと違って長距離狙撃に特化しているから複数の敵が同じ場所に向かって移動する場合、そこで待ち構えていた方が都合いいんだ」

「ほう、二人は戦闘スタイルが違うのか。確かに、キメラは複数の種類があるようだし、それによって相性の問題もある故に戦闘スタイルを別々にした方が理に適っているわけか……」

「ねぇ、会話に参加しているのか独り言なのかはっきりしてくれない?」


 森崎の言葉に一人呟く源田。前の人の言葉に反応しているため会話に参加しているように見えて考えを整理するために口に出しているだけという事が多い。

 その行動を何度もされて優理も苛立ちを覚えてきたのだ。


「しかし、奴らはどうやって人間が密集している場所が分かるのだ? 別の世界から強制送還され、この世界でも味方と呼べる存在はいないはず……」


 しかし、変わらず、独り言を源田の耳に優理の言葉は届いていないようだ。それが優理の苛立ちを促進させる。


「自分の世界に入って聞いちゃいないし。これだから厨二のオタクは嫌われるんだよ」

「――ふん! そうやって相容れぬ者を拒絶し、自分の都合のいい者には取り入る姿勢のヴィッチが何をほざくか」

「だからビッチ言うな! ていうか、ちゃんと聞いてんじゃん、無視すんな!」


 またもや偏見の目で暴言を吐かれ、優理は反射で言い返す。彼に対して敵意を持たれるような事はした覚えがないのに何故彼は優理に対してこうも攻撃的なのだろうか。


「我が考えている事を見るからに理解できる頭をしていない貴様に話しても方あるまい」

「何それ? 別にあんたの考えとか分かりたくもないんですけど」

「お前らこんな時にケンカすんなよ……」


 優理と源田の間に険悪な空気が流れる。そんな二人の間に挟まれている直哉が呆れた表情で呟く。

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