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26話  キメラ対策室

 車が走り出して、十分ほど経ったところで車は止まる。目の前にある建物は多くの自衛隊の人間が警備していかにも重要拠点だという雰囲気が伝わってくる。

 岬が最初に降りて、優理と夏鈴がそれに倣い、車から降りる。


「二人とも私から離れないでね」


 そう言って岬は建物の中へ入ろうとする。優理たちは岬の言葉に従い、彼女の後ろをついていく。


「ご苦労様です」


 入口に立っている隊員に岬は懐にあった身分証を提示する。それを見た隊員は敬礼し、岬たちは建物の中へと入る。

 建物の中は広く、薄暗い廊下が続いている。同じ間隔で左右の壁に扉があるが、岬はそれらに一切目もくれず、廊下の奥へと進んでいく。


「岬さんって実は結構偉い人なんですか?」


 優理が歩きながら岬に尋ねる。

 この襲撃で岬は自衛隊の人間に身分証を提示すると他の人と対応が違うのが目に見えて分かる。


「うーん、そうでもないよ。私はエリートでもないし、特別な才能があるわけでもないし、本来ここに入れる事自体あり得ないはずだからね」


 と、岬は苦笑する。

 確かに、本人にとって失礼なのかもしれないが、彼女の雰囲気は周囲を引っ張っていくというよりも、陰でみんなを支える縁の下の力持ちという感じだ。


 だとすると、森崎と同じクロトたちの監視などで今の立場になったという事なのだろう。

 しかし、森崎はクロトたちの監視役としてクロト本人からの指名らしいが、岬はどのような経緯でクロトたちと関わりを持ったのが見当も付かない。


「そんな事より着いたわよ」


 会話が終わったタイミングで廊下は目の前にある大きな扉によって終わりを告げる。扉にはドアノブがなく、扉の横にはカードキーのようなものが設置されている。


「ここは『キメラ対策室』。文字通り、キメラに対抗するために作られたチームの本部なの」


 そう言って岬は持っていた身分証をカードキーに通す。すると、扉が開き、三人はその奥へと進んでいく。


「――うわぁ……」


 対策室と呼ばれる部屋に入り、優理の目に映るのは、複数の大画面のモニターにパソコン、それを操作する数人の人間、その後ろに責任者と思われる男が次々と周囲に指示を出しているという光景だ。

 目の前に広がる光景に圧倒される。確かに岬の言う秘密基地という表現にぴったりの雰囲気の場所だ。


 指示を出していた男が入って来た優理たちに気付き、後ろを振り返る。

 男は五十代くらいで、筋肉質な身体のせいかスーツを着ているのが若干違和感を覚える。学校の生徒指導の主任の教師とは比べられないほど貫禄があり、怖そうという印象だ。


「石山司令、只今到着しました」


 男が声を掛けるよりも先に岬が敬礼をし、挨拶をする。


「おお、桐島君、無事だったか。後ろの二人は例の?」


 岬の後ろに控えていた優理と夏鈴を見て男が尋ねる。


「いえ、神気を宿しているのはこの子だけです」


 岬が優理を指して言う。


「小山、優理です」


 自分の名前を言って一礼する。男に対してどのような挨拶をすればいいのか咄嗟に出てこず、とりあえず名前を言おう、という感じだ。


「私は石山邦夫(いしやまくにお)、この対策室の指揮を執っている。よろしく」


 石山と名乗った男はそのまま、夏鈴を見る。


「桐島君。この子は一体……?」

「この子はαが任務中に保護した少女です」

「ああ。昨夜の報告にあった子か」


 石山の問いに岬が短く答える。石山も納得した表情を見せる。

 それと同時に扉が開く。入ってきたのは森崎、遅れて源田、直哉がその後ろから付いてくる。


「遅くなりました。状況はどうなっていますか?」

「市民の避難はある程度完了している。キメラの数は確認しているだけで二十体、αとβが交戦している」


 石山が手短に状況を説明している間、優理はモニターを見てみる。


 モニターに映っているのは二メートルほどの大きさでぱっと見た感じ、四足動物に鳥など、優理の知っている動物とそこまで変わらない。

 違う点は人間よりも大きく、鋭い牙と爪を持ち、禍々しい赤い目を持っている事だろう。


 二回目の襲撃では逃げる事で精一杯だったが、こうしてモニター越しでキメラを見ると、異質な存在であると再認識できた。

 こんな化け物を大量に産むエドナ。そんな化け物をたった二人で倒せるのだろうか、そんな不安が込み上げてくる。

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