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23話  隠された真実  岬視点

 時は昨夜へと遡る。


「明日、夏鈴ちゃんの親御さん見つかるかな?」


 食事の後片付けも終わり、岬はリビングへと戻る。

 リビングに残っているのは自分と森崎、クロト、アレクの四人で優理たちはもう部屋に戻って寝ているだろう。


 夏鈴の存在は予想外だったため、彼女の部屋は用意できていない。だから、同じ女子で年齢が一番近い優理と一緒の部屋で寝てもらう事になった。

 夏鈴も一人でいるのは不安だったらしく、素直に頷いた。優理もいきなりの頼み事にもかかわらず、了承してくれた。


 明日は優理たち三人をそれぞれの自宅に一度帰らせる事は決まっていた。そこで、夏鈴を両親の下へ送り届ける事も加わり、やる事が増える。


「何であの子、親について話したがらなかったんだろ?」


 たまたま映っているテレビのニュースを見ながら岬は呟く。

 食事の時、夏鈴に両親について尋ねると夏鈴は口を閉ざしてしまい、何も聞き出せなかった。

 なんとか住んでいる地域を聞き出せた程度で夏鈴の事はまだ詳しく知らない。


「――クロト、一つ聞きたいんだが」

「あん? どうした、いきなり。あのデブの黙らせ方でも知りたいのか?」


 森崎の突然の問いにクロトがふざけた返しをする。


「それは自分で考える。お前のやり方は暴力で従わせているだけだろう」


 森崎は表情を変えずにクロトの言葉を返す。彼はもっと重要な事を知りたいのだろう。


「そうですかい。で、聞きたい事ってなんだよ?」


 クロトも森崎の態度を見て、冗談を言うような雰囲気ではないと思ったのか、真面目に森崎に尋ねる。


「お前が夏鈴ちゃんを救出した時、あの子は一人だったのか?」


 森崎の言葉の意味に岬とアレクは何を言っているのか分からなかった。しかし、当事者であるクロトは困ったような表情をする。


「どうしてそう思うんだ?」


 珍しく他人の質問に質問で返すクロト。


「あんな小さな子が一人で行動しているとは考えられないし、両親についても話したがらないのは何かあると思ってな」


 クロトは連れてきた時の説明以外で夏鈴について全く語らない。それが不審に思ったきっかけなのだろう。

 確かにクロトらしからぬ事だとは思った。思っただけでそれが何かを隠しているとは想像もしなかった。


「はぁ~、ホント見事な洞察力だな」


 軽く溜息を吐いてクロトは呟く。

 森崎の言葉を肯定しているのだろう。観念して言葉を繋げる。


「言っとくけど、ちゃんと生存者は助けているからな? そこは一緒に作業した連中が証言してくれるはずだぜ?」

「普段の言動のせいで見苦しく言い訳をしているとしか聞こえないな」


 クロトの言葉にアレクが横から余計な事を言う。もちろん、クロトがそれを聞き逃すはずがない。


「お前、ケンカ売ってんの?」


 不機嫌な表情でアレクを睨む。その視線に怯む事なくアレクは続ける。


「別に。単純に結論だけを言えばいいものをわざと回りくどい発言で結論を引き延ばしているのにイライラしているだけだ」


 言葉通り、アレクは苛立ちを隠そうともしない返答をする。

 先程からクロトの発言は含みのある言い方で何かを誤魔化しているかのように感じる。アレクもそれに気付いたからこそ、クロトの態度が気に入らないのだろう。


「チッ、面倒だな。確かにあのガキを見つけた時は一緒に母親らしい女がいたよ。ソイツは死んでたけどな」


 クロトも言葉を濁すのに疲れたのか今度は率直に答える。


「状況からして瓦礫からあのガキを身体張って護ったって感じだったな。あのガキを死体から引き剝がすの結構苦労したよ」

「じゃあ、あの子が親について話したがらないのって……」

「親が死んだ事を認めたくないのか、その記憶を思い出したくないのか、そんなところだろ」


 夏鈴は目の前で人が死んだのを目の当たりにして、救出されるまでその人と一緒だったのだ。

 幼い夏鈴にその状況はあまりにも残酷だ。


「まぁ、父親らしい人間の死体は見つけていないから、父親は生きている可能性はあるんじゃね?」


 父親は生きている、確かにそれが本当なら希望はあるのかもしれない。だが、その前にエドナやキメラに喰われている可能性だってある。


「んで? そんな事聞いてどうするつもりだ?」


 クロトが森崎に尋ねる。


「いや、その時どういう状況だったのか正確に知りたかっただけだ」

「へぇ、自分が監視できていない時間の相手の行動を把握しようとするとは監視役の鏡だね~」


 クロトが笑いながら言う。その表情は興奮した感情を抑えようともせず、自分が監視されているというこの状況を楽しんでいるようだ。

 人を喰う化け物と戦うという事だけでも常軌を逸しているというのに、周囲からも疑いの視線を向けられても動じず、それすらも彼を楽しませる一因なのだろう。


「それだけお前の言動が信用できないものだという事だ」


 狂った笑みを浮かべるクロトに水を差すようにアレクが横から言い放つ。


「言っておくが、ボクたちの目的はエドナの討伐だ。それを邪魔するような真似ばかりしているなら、お前も消す」


 冷たい目でクロトを睨む。その目は冗談ではないという事を主張している。


「へいへい、気を付けますよ~」


 クロトは臆する事なく軽い調子で返す。アレクはそれ以上の事は何も言わなかった。


「とりあえず、小山さんたちにはこの事は秘密にしてくれ。あまり心配を掛けるわけにはいかないからな」

「そうね、特に優理ちゃんは夏鈴ちゃんの事を気に掛けているみたいだし」


 優理は積極的に夏鈴の世話をしている。

 彼女自身、クロトたちを創った神の神気という未知の力で身体がどうかなってしまうかもしれないという状態だというのに。そんな彼女の負担をできるだけ掛けないようにしたい。


「そうですね。岬さんは明日二人と一緒に行動するので、余裕があればその事も気に掛けていただければ助かります」

「了解。そっちも必要以上に気を回さなくても大丈夫だからね」


 クロトたちの監視やキメラの襲撃の事などやることも多いのだから彼が倒れてしまわないようにこちらも奮闘しなければならないな、と内心苦笑する。

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