20話 食事
「ちょっと冷めちゃったけど、召し上がれ。お代わりもあるからね」
キッチンに向かった岬とアレクが戻ってくる。手にはサラダに卵焼き、餃子が盛り付けられた皿を持っている。
二人がまたキッチンに戻った時に森崎が全員分の取り皿と箸を配る。
ここでようやく手伝った方がいいと思い、立ち上がろうとする。
「いいよいいよ、疲れているみたいだし、すぐ終わるから座ってて」
と、岬は言ってしまったため、大人しく椅子に座り直す。
言葉通りすぐに夕食の準備が終わり、準備をしていた二人が自分の席に座る。
「はい、お待たせしました。食べましょうか、いただきます」
席に戻ってすぐに岬は食事前の挨拶をする。
「「「いただきます」」」
クロトたちもそれに合わせて、挨拶をし、用意された食事を口に運ぶ。
この光景を見慣れていない源田たちはやや遅れて食事を始める。
隣に座っている夏鈴も料理を取ろうと手を伸ばすが僅かに皿まで届かなかった。
「夏鈴ちゃん、私が代わりに取るから食べたいもの教えて」
「…えっと……」
そう提案した時、夏鈴の肩が一瞬震え、優理を見て怯えた表情をする。
「……餃子と、卵焼き……」
やや間が空いて小さな声で夏鈴が答える。優理は夏鈴の要望通り餃子と卵焼きを二個ずつ取って、夏鈴の目の前に置く。
「はい、どうぞ」
「ありがと――」
「うまっ! これ超うめぇ!」
「この供物……我が贄として相応しい出来だ!」
夏鈴の感謝の言葉は源田と直哉の声によってかき消される。二人は餃子を口に入れた瞬間、源田は目を輝かせ、早いペースで次々と口に餃子を入れる。
「そんなに慌てて食べなくても、お代わりはまだあるから、ゆっくり食べてても……って、もう争奪戦が始まっているか」
岬が苦笑する。食べる勢いがあるのは源田達だけではない。クロトも二人にも劣らないペースで餃子を口に運んでいる。
夏鈴もクロトの腕を掴みながら食事は出来ないので、彼を掴んでいた手を離している。
「いやー、何度食っても姐さんの料理は最高っすね」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、姐さんは止めて恥ずかしいから」
初めてクロトが他人を褒める光景を見て、優理は目を丸くする。
今までどんな相手でも軽い調子の態度で接するクロトが岬に対しては多少、大人しくしている。
彼女の事はまだ詳しく知らない。クロト達の事情も知っている口ぶりから政府の関係者なのだろう。
「そちらの世界でも供物に捧げる儀式があるのか」
食べ物を口に入れながら源田がアレク達に尋ねる。一人考えている中、興味深い話が耳に飛び込んできたのでいったん考えるのを止める。
「ああ、似たような事はしている。この世界に来て数日経ったが、住む世界が違っても風習などはそこまで変わらないようだ」
「ていうか、検査の時に俺たちの世界で例えるとサイボーグに近いって言ってたけど、普通に飯とか食えるんだな」
確かに映画とかで登場するサイボーグは人間の見た目で中身は機械で飲み食いなど必要ないというイメージが強い。
「ああ、こうやって食事をして、摂取した栄養を動力源である神気に変換しているんだ」
「戦闘以外は普通の人間と変わらない生活を送るためってのが一番の理由らしいぜ」
アレクの説明にクロトが付け加える。
二人を創った神様はどういう目的でアレクたちに人間として過ごさせようとしているのだろうか。
「貴様らを創りし神は妙に大衆の一員として時を刻む事に拘っているな」
ちょうど、源田も優理と同じような事を考えていたようで一人呟く。さっき理不尽な罵倒を受けたため、源田と考えが被った事に関して複雑な気分になる。
「どんな意図があるかは知らないが、正直言って意味が分からない」
「まあ、普段はこの世界の人間に紛れていろって意味じゃね? アイツのやる事はムダが多いからいちいち気にするのもアホらしいぜ」
「神様に対して容赦ねーし、雑だな」
直哉がアレクとクロトに対して突っ込む。
だが、ヤンキーっぽいクロトとモデルのようなアレク。見知らぬ人間からは外国人にしか見られないだろう。




