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15話  エドナとキメラ

「そこのバカに騙された事に対する怒りは後で本人にぶつけてもらうとして、本題に戻させてもらう」


 優理とクロトの言い争いがひと段落したところでアレクが口を開く。


「本来なら政府の関係者に同意の上で一体化し、協力体制を整える予定だったが、神が目覚めない以上、こちらで勝手に進める。

 キミたちの身体がどんな状態かは判断しかねるが、まともな状態ではない事だけは確かだ。ここに運ばれた時、重傷だったキミたちは異常な回復速度で傷が治ってきているんだ」

「重傷だった?」


 アレクの言葉を聞いて優理は椅子に座っている二人を横目で見る。確かに二人とも優理と同じく腕や首、頭などに包帯を巻いている。


「その人ならざる異常さから我らはこの検査を受ける事になったというわけか」

「そうだ。理解が早くて助かる」


 アレクが言い終わるとタイミング良く腕輪が光る。近くにいる人間が優理たちの腕輪を外し、アレクに手渡す。腕輪を受け取ったアレクは三つの腕輪を注視し、沈黙が続く。


「……まさか、分からないとか言うんじゃないだろな?」


 面倒くさそうにクロトが尋ねる。


「残念ながら、そのまさかだ。三人とも同じ量、質の神気が身体に宿っている。アイツが誰かと一体化している事は間違いないが、その肝心の誰かが分からない」


 淡々と説明するアレクに深い溜息をつくクロト、それ以外の人間は彼らの言葉にどう反応していいのか分からず、茫然としている。今の状況を理解しているのは彼らだけのようだ。


「つまり、状況は変わらないという事か?」


 全員を代表するかのように森崎がアレクに尋ねる。


「ああ。三人の内の誰かと一体化しているという推測が確定に変わっただけだ。いつ目覚めるか分からない以上、こちらでできるのは現状維持だけだろう」


 持っている腕輪を近くの人間に渡す。検査を受けた優理たち以外の人間が少し暗い表情を見せる。


「その神とやらがこのまま見つからなかった場合、どうような弊害があるのだ?」


 源田が腕組みをして尋ねる。さっきの様子とは違い、真剣な表情をしている。


「ボクとクロトのメンテナンス、戦闘で破損した場合の修復が不可能になる。メンテナンスはともかく修復ができないのはこちらにとって致命的だろう?」

「では、我らはこのまま解放されるという事では無いのだな」

「「…え?」」


 源田の発言に優理ともう一人の少年はほぼ同時に聞き返した。


「そういう事になる。キミたちにとっての神気は爆弾を体内に抱えている状態だからそのままにしておけば内側から壊れてしまうだろう。しばらくはボクたちと一緒に行動することになる」

「その神が目覚めないと我らは化け物に喰われるのと同じくらい悲惨な死を迎えるというわけか」


 とんでもない言葉が次々と耳に届く。優理と隣の少年は青ざめている中、源田は不敵な笑みを浮かべている。


「変わっているな。喋り方もだけど、この状況を理解して笑っているのか?」

「くく、我が肉体に神の力が宿っている。この鼓動の高鳴りをどうして抑えられよう?」


 源田の返した答えにアレクは溜息を吐く。


「いろいろと気に入らないところはあるが、理解が早いから良しとするか」


 疲れるという表情を隠さず、アレクは呟く。それに気付いていないのか、源田は見るだけでイラつきを覚える表情をしている。


(これが厨二病ってやつなのかな?)


 源田を見ながらそう思う。優理の同級生にもこういった言動をしている人がいた。源田ほどではないが、言動がおかしく周囲から孤立していたのを遠目で見ていた。

 アレクは三人に背を向けてホワイトボードに近づき、置いてあったペンで何かを書き始めた。


「次は今の状況を説明しよう。ボクたちがこの世界に来る前に上半身は人間で下半身は蛇のような化け物が来たはずだ。ヤツはエドナと呼ばれていて、主に人を喰って生きている」


 エドナ、それが優理たちの日常を壊した化け物の名前。

 目の前で人を喰う光景を優理は何度も目撃してしまっている。今この瞬間に襲撃はないと思っていてもエドナを意識するだけでも背筋が凍る。


「エドナには能力が三つある。一つ目はヤツの主な移動手段に使われる『飛行』。二つ目は攻撃手段である『炎』。そして、三つ目はキメラを産む『誕生』だ」


 ホワイトボードの左端にエドナと思われる絵を描き、その隣に飛行、炎、誕生の単語を書き出す。


「三つ目の誕生で言った『キメラ』というのはエドナ出現した翌日に襲ってきた化け物たちという事か?」


 源田が間を空けずに尋ねる。確かに聞き慣れない言葉が出てきたとは思ったが、それについてすぐに質問するという事は優理にはできなかった。


「そうだ。基本的にキメラが餌を喰い、エドナのところへ戻り、キメラごと喰うというのが本来の行動らしい」

「自分が産んだキメラを喰う?」


 優理は自分の疑い聞き間違いではないのかと疑う。

産み出すという事はエドナにとってキメラは子どものようなものなのではないのだろうか。それを自分で喰うという事を想像したくなかった。


「キメラは食糧を集める手足であると同時にエドナの栄養源と言ったところだな。飛行に関して想像は容易だが、炎というのは具体的にどういった能力だ?」

「実際に目撃したわけじゃねぇけど、火球を生み出してそれを飛ばすらしいぜ?」


 話の途中で立っている事に疲れたのか、床に直接あぐらで座っているクロトが答える。


「成程、それに対しての我が陣営の戦力は?」

「主にクロトとアレクがエドナ、キメラを討伐、我々自衛隊がそのサポートに回るという戦法を考えている」

「え、森崎さんって、自衛隊の人だったんですか?」


 ここで初めてこの会話に発言する事ができた。とは言っても、本筋とは関係ないため、会話に入れたとは言えない。


「ああ、そうか。すまない、まともに自己紹介していなかったな。俺は森崎慎吾、自衛隊所属で今はこの二人の監視役もしている。よろしく頼む」


 簡単に自己紹介をして優理たちに軽く頭を下げる森崎。初対面の時から思っていたが、クロトに比べると比較的に話しやすそうだ。優理でなくとも、誰もがそう思うだろうが。

 しかし、本人たちの前で監視役と言ってもいいのだろうかと、内心疑問に思った。


「コイツと一緒に組んでいると楽しそうだからって理由でオレから上の人間に頼んだんだけどな」


 優理の心を読んだのかと一瞬疑うタイミングでクロトが笑いながら答える。


「自衛隊がサポートという事は我が世界の防人の武器では奴らを討伐する事は叶わないという事か?」

「ああ。前回の戦闘で機関銃など隊員が所持できる銃器は効果があまりなかった」

「じゃあ、戦車とか、戦闘機はどうなんだ?」


 これまで黙っていた少年が口を開く。

 優理も少年と同じ事を思っていた。直接二人が戦っているところを見ているわけではないが、クロトとアレクだけでキメラを倒すというのはさすがに厳しいのではないだろうか。


「それはおそらく無理だ」


 優理と少年の疑問に答えたのは源田であった。


「敵は人間を糧として現れる。糧が豊富な場所を狙ってくるのだから、市街戦が主になってくるだろう。

 その場合、こちらは討伐、避難誘導を同時に行わなければならない。そのような状況では、戦車、戦闘機の攻撃で逃げる人間に被害が出る可能性がある」


 皆源田の方を見て目を丸くする。

 自分と同じくらいの年齢に見えるのに検査の説明の時もそうだが、冷静に物事を捉えている。


「ソイツの言う通りだ。だから、ボクとクロトがキメラを討伐している間に自衛隊には民間人の避難誘導をしてもらう手筈になっている」


 源田の言葉にアレクが付け加えて説明する。


「前回の襲撃から三日経っている。神が目覚めるのとエドナの襲撃のどちらが先か分からない状況だ。ここまでで何か分からない事はあるか」


 一通り説明し終えたのか、優理たちに尋ねるアレク。

 話は聞いていたが、理解が追い付いていないため、何が分からないのかが分からない。はっきり理解しているのは今良くない状況だという事だけだ。


「いくつかまだ光明が指していない闇はあるが、これ以上新たな情報を聞き出したところで覚醒しきれていない我が頭脳が理解しきれぬ故、後ほど光の道筋を作ろう」


 源田の言葉は意味が分からないが、後半の言葉から状況を整理する時間をくれという事なのだろう。


「んじゃ、今日はもうお開きにして、コイツらを連れて帰るとするか」


 あくびをしながらクロトが言う。興味が無くなったという態度を隠そうともいていない。


「まあ、これ以上調べられないし、それが妥当だろうな。続きはアイツが目覚めてからにしよう」


 アレクはそう言って、検査に使った道具などを片付けるように周囲の人間に指示を出す。指示を受けた人間は黙々と片付けを始める。


 優理たちはする事がないため片付けが終わるのをただ見ているだけだった。元々、持ち込んだ物は少なく、使用したホワイトボードや椅子を壁に寄せるだけなので数分で終わった。

 片付けが終わった人間が次々と部屋から退室する。残ったのは優理、クロト、アレク、森崎、源田、少年の六人だ。

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