序章
僕たちは夢を見る。
寝ているときに見るアレだ。
だが、僕たちの夢は普通の<ソレ>とは違う。
僕たちの夢は……―――
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部屋の一室で数人の少年たちが話をしていた。
「はぁ?!白マントの猫仮面?なんだよその趣味の悪い格好のやつ!」
なかでもリーダー核の少年はある一人が言った言葉に大声で返す。
「しーっ!なんでも、今ココでいじめとかしてる奴らに制裁を下すとかなんとか……」
答えた少年の声はだんだん小さくなり、語尾の方は聞き取れなかった。
「制裁だぁ?んなの知るかよ。だいたい、ココで何やったってバレねぇだろ。じゃあほら。早く行くぞ。朝になったら学校なんだからさ」
「○○さん学校なんて行ってないのによく言うよ」
リーダー格の少年に、一番年下だと思われる少年が言う。
「俺じゃねぇよ。これから躾けてやるアイツがだよ」
少年はにたぁ、っと不快な笑みを浮かべ部屋の外へと出て行った。
それに続くように少年たちはぞろぞろと散っていく。
「白マント……ねぇ」
最後まで部屋に残ったのは年下の少年だった。
少年は短くそうつぶやくと、他の少年達と同じように部屋をあとにした。
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「はぁはぁ……」
薄暗い森の中を少年はひたすら走る。息は絶え絶えになり、膝は笑っているが立ち止まってなどいられない。
(止まったら、殺される……!!!)
必死になって振り続ける腕、小さな手に握られているのは小振りのナイフだ。
かすかに光る月明かりが木々の間から小さな凶器の存在感をギラギラと確認させる。
しかし、そんなものはなんの頼りにもならない。
使いこなれなければ意味がない。後ろからやってくる恐怖が少年に凶器の使い方を忘れさせたのだ。
振り向く暇すら許されない。
(なんで、なんで俺が……!!)
そんな思考が頭を埋めているといきなり視界が真っ白になった。
同時にドスっと<何か>にぶつかり行く手を阻まれてしまう。全力で走っていたのもあって少年の体は反動で少し後ろへ下がった。
「え……?」
疑問の声を上げたあと、少年はその理由に気づく。
目の前に人がいたのだ。
真っ白なマントに身を包み、悪趣味な猫の仮面をつけた、奇妙な人が。
左手には少年のモノより小さいナイフが握られていた。
白マントは座り込む少年と同じ目線へ、己の身をかがめ仮面の奥から少年の顔を見つめた。
怯え、腰を抜かしたままの惨めな少年を映すそのナイフは静かに少年へ向けられ、迷うことなく振り落とされた。
「ぁ、がぁあああああああああああ!?!?!」
鋭い痛みが少年の体を一気に蝕んでいく。だが、血は一切出ていない。
にもかかわらず少年は苦痛の表情で叫び声を上げているだけだった。
「泣くなよ喚くなよ。お前、それでも高校生なんだろ?それに、同じこと、してたよね?」
男とも女ともわからない白マントの声は木々の間を反響する。
「な、なんで知って……っがは……」
「私はそういう奴を獲物にしてるからだよ」
仮面をつけていてしたの表情などわかるはずがないのに、その声色だけで白マントが笑っているのが伝っわた。
「じゃあ、いい目覚めを。さようなら」
白マントの手が少年の頭へ伸びる。
その動作とほぼ同時に少年の意識は途絶えた。
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「がはっっ!!」
腹部に強い衝撃が走り目が覚めた。
さっきまでの夢、いや、正確には異世界。その世界の中で起きた出来事に思わず身を抱える。
痛みは変わらず腹のあたりで疼いている、が、それよりもあの白マントの方への恐怖が少年の汗ばんだ体を震えさせていた。
鋭いナイフで刺されたような腹の痛みと恐怖による胃の縮小で吐きそうになり、少年は急いでトイレへと駆け込んだ。
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この世界ではある年齢から夢の世界が少しだけ現実とリンクしてしまう。
しかし、それは12歳から18歳までの子供の期間に限られて。
意識は明瞭に、はっきりと覚めている。それはまるで一日起きているかのような感覚、とでも言うのだろうか。
夢の世界で何かをするのは基本、本人たちの自由だ。夢の中で寝たって構わない。
子供たちの間では夢の世界は異世界と称され、子供達でその世界を治めていた。
それはまるで、小さな国のように。オトナになる準備のように。
擦りむいて血が出ていても、起きたら擦りむいた部分がヒリヒリするだけなのだ。そこには傷跡もなにも残っていない。
外傷はないが、夢と現実を曖昧にさせる現象が起こる。
痣にはなっていないが触ると痛い、など。
この現象が、いま大きな問題になっていた。
異世界のなかで、それを利用した悪質ないじめが起きているのだ。
だが大人たちには問題は解決できない。
これは、子供の夢なのだ。
そしてこれは、そんな世界を相手にする、子供達のおはなし。
-------序章。
Twitterのお題から書かせていただいています。
ここまで読んでくださり感謝でいっぱいです。
指摘、感想等ありましたらよろしくお願いします。