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遅れてすいませんm(*_ _)m

そして長文です

「勝者、ヤマトユウキ!!」

審判しんぱんであるセドリックによって両者退場の声が掛かる。筋肉野郎はどことなく現れた兵士達によって運び込まれて行く。大和は刺さっていたロングソードを引っこ抜き、なに食わぬ顔でリングから降りる。勿論、刺す時にも抜く時にもあの力を使っている。

(切り札は取っておくこと....。この程度だったらバレないみたいだな)

自身の両手を広げたり握ったりして、その様子を観察する。

(....それにしてもこの力は謎だらけだな。ただの怪力って訳じゃなさそうだし....)

思案中に不意に声がかかる。

「ユウキ!!」

急に声をかけられ、大和の体が何センチか飛び上がる。

振り返ると、どうやら声の主は筋肉男だった。

「チビって言って済まなかったな....」

頬をポリポリとかきながら照れくさそうに笑う。

試合前のお返しに大和はこれ以上にない満面の笑みで喋る。

「気にするな!俺なんかお前の事脳みそ筋肉って今でも思ってるからな!」

「は?」

筋肉野郎はぽかーんと口を開けて動かなかった。きっとこうもさらっと言われた事がないのだろう。

「じゃーな」

一言言っておいて、筋肉男が運ばれて行く方角の反対方向へとスタスタと歩いて行く。

「....待て!俺の名前はキンドだ....!!ちゃんと覚えてろよ....!!」

遠くから誰かの叫び声が聞こえてくるが大和は普通に無視をした。

少し時間を飛ばしてセドリック宅。

ボロボロのテーブルには2人の男が座っていた。

「....」

「....」

1人はまるで懺悔ざんげするように、もう片方は罪を問うかのように座っていた。

1人が口を開く。

「....なぁ」

「はひっ!」

こつこつとテーブルを指で叩く。見ればとても不機嫌そうな顔をしている。

「何で」

「誠に申し訳御座いません!!」

僅かな時間で土下座を組みたてるのはやはり大和。喋るタイミングを取られ、呆気に取られるのがセドリック。

「私めがただ勝ちたいが為に貴方様から頂いたロングソードを無下むげに扱い更には慣れる為に外で振り回してたら手汗のせいですっぽ抜け、そのままそこの壁へGO....」

「マジで!?」

セドリックはドアから出て行き、少し経ってから戻ってきた。

「まぁあれぐらいなら別に構わないけど....」

「マジで....?」

大和は安心の溜息をつく。

「って、そうじゃねぇよ!!」

「えっ」

思わず生返事で返す大和。セドリックは少し不満そうな顔をするが、すぐに喋り出す。

「───俺が言いたいのは何で次の試合を待たず帰っちまったのかってこと!」

「え?いや、疲れた」

「『疲れた』じゃねぇよッ!!」

セドリック思いっきり机を叩く。メキメキと大きな音で軋む。

「ひっ」

小さな悲鳴ひめいをあげる大和。それでもセドリックの怒りはおさまらない。

「対戦相手の試合を見て、次の試合に活かす!言わなくてもわかる大事な事だろうが!!」

どんどんセドリックの語彙ごいが激しくなっていき、逆に大和は落ち着いてすでに笑ってすらいる。

「『切り札は取っておく事』」

大和のこの一言にセドリックは少し眉をひそめる。

「ライバル達に試合を見られると分かっていて相手が実力を出すのか?」

「......だがな、相手の癖とかあるだろうが」

「......そういうのはあまり得意じゃねぇよ」

セドリックはもう一度口を開こうとするが俺の顔をみて、つぐんだ。きっと酷い顔を見せてしまったかもしれない。

「......ちょっと頭冷やしてくる」

「......ああ......」

小さくだが、返事が返ってくる。大和は玄関の可愛らしい女の子の人形を尻目にドアを開け、外に出る。

「あいつってあんな怒る奴だったのか....」

市場で1人歩きながら呟く大和。ここ異世界に来て初めての友人だと思っていた彼の新たな一面。知らない事ばかりだ、と大和はふっと笑う。

「....ここでの俺は───」

「おお!ユウキじゃねぇか!」

大和は後ろから声を遮られ、振り返る。そこには筋肉の塊がいた。

「お、お前は!....えーっと....」

「キンドだ!」

名前を覚えていないことに憤慨するキンド。

「....で、何の用だ?」

大和が聞くとキンドはがははと笑う。

「いや、近くにいたから....って待て待て!」

さっきまで居候先に怒られ、気まずくなったから出ていっただけで、別に気分転換とかしたい訳でもないから無言で相手を制する。

「........」

「どっか遊びに行くか?どうせ暇なんだろ?」

内心面倒だと思ったがそういうのは面にはみせない。

「......チッ...。 別に暇じゃないから」

「え!さっき舌打ちしたよな!?ちょ、何でいきなり走る!?」

全力疾走でもなお、キンドは振り切れない。

「ついて来んじゃねぇッ!!」

手を後ろに強く振り、拒絶する。

それでも筋肉の進撃は止まらない。

「何か食いに行こうぜ!!割り勘で!!」

この一言で大和のスイッチが入る。

無論、怒りのスイッチである。

「......金持ってねぇよッ!!!!!」

大和はいきなりブレーキをしたかと思えば身を翻してボディブローを入れる。

「ごふっ」

膝から崩れ落ちるキンド。大和はそれを背にして歩き出す。

キンドはゆっくりと口を開く。

「....俺の奢りでいいから....」

「....しょうがねぇな!」

この時の大和の変わりようと言ったら。倒れたキンドを「大丈夫か?」と言って掴み上げる程度である。


大和勇希、勝手な男である。

2人は市場で歩きながらローストチキンらしきものを頬張っていた。

「美味いなこれ!」

「だろ!カデナ名物、レボン鳥の足焼きは結構有名だからな~」

食い終わり、ぶらぶらと歩く2人。あまり人気のない広場に入ったところで大和から口を開く。

「....意外だな....。俺と同じで金がなくて試験受けたのかと思ってたぞ」

そう言うと少しばかり気まずそうな顔をする。

「いや~......気に入らん上司にキレて殴り飛ばしたらクビにされちまってな......。今は嫁さんに頑張って貰ってるよ」

人生のうち一度も彼女を作らなかった大和は軽く笑うキンドに心の底から憎しみをぶつける。

(チッ....じゃあ、こんな所で油売ってねぇで働けや!!)

大和の内心は荒れに荒れまくっている。が、顔に出さないのはマナーである。

「おいおい....。もうちょい嫁さんの金を無駄に使わずに、手伝いに行ったりしたらどうだ?」

どうやら大和は選択肢を間違えたらしく、キンドはその場で動かなくなり、やがて口を開いた。

「....実は喧嘩してな....」

大和は理由を考えてみて、その答えで反応を伺う。

「....もしかして、採用試験の事か」

キンドの身体がピクリと動く。どうやらビンゴのようだ。

そして重々しく口を動かす。

「....帰ってきてからすぐに....負けた事を気付かれて....散々言われた....」

「うん」

「....それはまだいいんだ....アイツは....『前の仕事の方が良かった』....なんて抜かしやがって....つい言い返しちまってな....」

「....そうか」

大和はようやく終わったか、と顔を上げる。そして、すうっと息を吸い込む。

「こんの、幸せ者め!!!」

いきなりの怒号にキンドは身体はビクッと動き、驚いた顔でこちらを見る。

「嫁どころか彼女も作ったこともねぇ俺に対しての嫌味か!!」

「すまん、そういうつもりじゃ───」

急に怒られ驚いたのか、おどおどと手を振る。

「それだよ」

大和はキンドの言葉をさえぎり、一呼吸おいて話す。

「....そんな感じで「すまん」と素直に謝ればいいじゃねぇか。ちゃんと気持ちは伝わる。必要なのは勇気だけだ」

大和の説教でキンドはハッとなる。

大和だって伊達に『勇希ゆうき』という名前を貰っているわけではない。この名である事を誇れるような生き方をしてきた。

それが例え、手に入れた物よりも多くの物を敵に回したとしても。

キンドはゆっくりと頷いてさっきまで2人で歩いていた道を逆走する。その顔は何かを決意した男の顔だった。

「足焼きありがとな!!」

大和はその背中に一声かける。「おう!」という明るい声が聞こえた気がした。

「さてと....」

(人の事いえねぇな....全く....)

大和もまた、覚悟を決めた。

大和は帰り道の途中、「ユウキ」と声をかけられる。そこにいたのはとてもよく見知った顔だった。

「....セドリック....」

彼は苦笑いをすると深呼吸の後、ぺこりと頭を下げる。

「すまない、熱くなりすぎた」

あまりにも一瞬の出来事だったせいか、大和は謝るタイミングが遅れてしまった。

「───いや、こっちこそ───」

言葉の続きを手で制止される。

「こっちから言わせてくれ」

そう言ってセドリックは言葉の端々を噛み締めるようにゆっくりとつむぐ。

その声はとぎれとぎれだった。

「....まず、試合会場で、残った奴等を見て、ヤバイと思った。傷つくのが怖くて、あんな事言ってしまった」

本当のセドリックは、最初に見せた明るい中年でもなく、ましてや残酷ざんこくなことも平気で言える悪魔でもない。ただ数夜同じ屋根の下を過ごしただけの大和を心配する、とても情の厚い男だった。

「勝った時には驚いたよ。でも、それでも不安は拭えなくて、話しかけようとしたらいないし、家に帰ったら、お前がテーブルでだらけてたの見えて、つい、カッとなってしまった....すまない....」

セドリックが怒ってたのは俺が勝つために全力を尽くしていなかったのにではなく、心を少し削りながら言ったのに、大和自身は何の緊張感もなく、このままでは死んでしまうかもしれないと踏んで怒ったのだ。

この場合は大和が悪い。彼自身も分かっている。

頭の中では分かっているのに、上手く口に出せない。キンドをあれだけ諭していたのにいざ自分自身がやるとなると喉がつっかえたりして、上手くいかない。

でも、大和はこんな場面はいくつも体験している。

ゆっくりと息を吸って目をつむり、少し口端を持ち上げる。これだけで頭の中をリセットできる。

そして、頭を下げる。

「完全に俺のせいだ。ごめん」

「え?」

セドリックの口から驚きの声が漏れる。

「ただ、あの中で一番浮いてた俺が、一番最初に負けると思われてた俺が、勝つ事で周りの目が変わったような気がした。その探るような視線が痛くて、逃げてきたんだ」

「......」

返事がないので顔を上げるとセドリックは沈痛ちんつうそうな面持おももちをしていた。きっとその中の1人だったのだろう。

そして、今度はくしゃっと破顔はがんする。

「......取り敢えず帰ろう。腹が減った」

その一言だけで大和は救われた気がした。

「....おう」

笑いあって肩を寄せる2人はつい最近知り合った仲というより、偽の親子というよりも、親友のように見えた。


今回はバトルはありませんでしたが、次の話はあります!!

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