表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/23

3連休使ってもこの程度か。

「腹がへったな....」

大和は空腹で目を覚ます。

そして、凄惨たる周りの光景を見渡して現実を受け止める。

ここは平和な世界などではなく簡単に命が失われる『異世界』だという現実と、この拳で1つの生命を奪った現実。

一度受け入れると急に右手が震え始める。手の震えを抑えつけるように片方の左手で強く握り締める。

「そういえばあいつは?」

大和は俄に仮面の女の事を思いだし昨夜まで彼女が寝ていた場所に目をやった。そこに彼女の姿はなく、代わりに2枚の紙と(見た目は違うが)リンゴが5個ほど積まれていた。1枚目の紙は書置きで2枚目は地図のようだ。

1枚目を読む。

『地図と食料あげる。それと、ディノテリウムには気をつけて』

その下には 下顎から下方に向かって生えた牙が特徴的な象の絵が書かれていた。

どうやらその全長は 約5mほどあるらしい。

大和はそれを流すように眺めてから、「冗談だろ」と乾いた笑い声をだす。

「そんな奴がいればもうとっくに出会って───」

バキバキバキバキッ!!と周りの木をへし折る音が大和の言葉を途中で遮る。

振り返れば巨大な象牙が大和の胸に刺さりそうな距離まできていた。

「───わぉ」



ウォル大草原のある森から出てきた1人の少年。そして、周りの木々を薙ぎ倒しながらそれを追う巨大な象の化物。

「くそったれぇぇぇッ!!」

「バォォォォォッッ!!」

大和はディノテリウムを振り切ろうと走る。しかし一向に離れない。

100mを14秒で走る人間の速さは約26km/h。対して象の走る速さは約40km/hとされていて、100mを9秒で走るというボ○ト選手の速さと全く同じ。

距離は離れるどころか、むしろぐんぐん追いつかれているような気さえある。

(どうすれば....?)

どうやってこの象の動きを止めてやるかを考えているとふと、1つの案を出す。

「となると、あの力を使うしかないか......」

そう呟いた途端、急激な恐怖が大和を襲う。

大和はそれを振り払うように、右手を強く握り締め大きく腕を振り自身を奮い立たせる。

ディノテリウムと大和の距離は縮んでいき、ついにすぐ近くまできていた。のろい標的を踏み潰そうと右の前足を大きく持ち上げる。

「バォォォォン!!」

小さな身体はすぐに前足の影に覆われる。一貫の終わりかに思えた。

「そのタイミングを......待ってたぜっ!!」

だが、大和は右足でブレーキして後ろを振り返り、その時の遠心力でディノテリウムの左前足に自身の右拳を叩きつける。一瞬の出来事だった。

左前足が内側に吹っ飛び、スッ転ぶ形でディノテリウムは派手に転倒する。

先述、象の走る速さ、と書いたが、実際象は走ることが出来ない。彼等は四肢の足どれか一本が地面についている”歩く”事をしていて、四肢全てが地面から離れる瞬間がある"走る"事はできない。それほどまでに自身の体重が重い。

それに気づいた大和が考えついた策はただの足払い。

ただ、相手が全長5mの巨大生物だったからこそその効果は絶大だったのだが。

ディノテリウムは転倒した時の衝撃に内蔵が耐えきれず吐血していた。だが、何ともないかのようにゆっくりと起き上がり、よろよろと逃げるように去ってしまった。

「大した生命力だな......」

巨大な象の後ろ姿を見送った大和は、俄に地図の事を思いだし現在地を確認する。

彼女が昨夜寝た森を丸で囲んでくれていたおかげで何とか自身が南西の方にいることが分かった。

(どうやら、これが1番近いみたいだな....)

そして大和は目的地へと歩き出す。そして、陽が沈む頃についにたどり着いた。

テルト王国の首都カデナ。流石首都だけあって立派な国構えだ。

たった2日の旅だったが色々な事があったなぁ、と思い返す。

新しい生活に期待しながら大和は門へと歩き出す。



「何だって....?」

「今一度言いましたように」

大和の行く手を遮った鉄装備の門兵が申し訳なさそうに喋る。

「不審者の侵入は、ちょっと....」

「....不審者....」

大和はその場で崩れ落ち地面に膝をつく。そして、門兵を下から睨むように見る。

「....一応聞くけど、なんで俺は不審者扱いされてんの?」

「...奇妙な服装を着ているからです」

「奇妙って...コレしか持ってないんだけど....」

俯きながら自分の服装を確認する。ジャンパーにデニムという普通の服装。どうやらこの世界は服の価値観も変わってくるらしい。

これが怪しまれるなら最早打つ手なし。諦めて外で野宿することを決め、踵を返す。

「待て!」

後ろから声をかけられる。声の主はどうやら門兵の上司らしく、門兵は即座に姿勢を正し、敬礼をする。

「コイツは俺の息子だ。通してくれないか?」

「ですが....」

門兵は僅かな反抗をちらつかせるが、それ以上は何も言わなかった。

「通してくれないか?」

「....分かりました」

少しの口論の後、門兵は渋々道をあけ、大和を通す。

そこにはとても綺麗な町並みがあった。だが、道路脇にある出店や、ごつい装備をしたおっさん。おしゃべりしながら楽しそうに笑う婦人達。はしゃぐ子供はとても素朴な服を着ている所なんかは、前いた世界にはなかったファンタジーな感じが出ていて、とあるRPGを思い出させる。

しばしその風景に見とれていると声をかけられる。その声がさっき俺を通すように言ってくれた人なのだと理解し振り返るとそこには中肉中背で軽く整えた髭が特徴的な中年の男性が目の前にいた。

「よう!よく来たな!」

そう言って大和の肩をバンバンと叩いてハッハッハと笑う。彼も必死に親父を演じようとしているのだろう。

「ここで職を見つけようと思ってね....」

痛いほどの門兵の視線を感じて、なるべく大和も中年男性の演技に合わせる。

「そうかそうか!なら案内してやろう!」

そうして歩いていき、人気がいないところで大和は腕を回される。

「....お前の名前は....?」

「....大和、勇希....」

「....俺の名前はセドリックだ。俺の事は親父と呼べ....」

そしてまた大通りへと連れていかれる。大和は今さらながら疑問が頭の中に沸き上がってきたが、これがこの街での生き方なのだろうと、ひっそりとそれを噛み砕いた。

「ところでユウキよ、腹減ってないか?長旅だっだろう?」

「もうへとへとのペコペコだよ....」

1日の活動にリンゴ5つしか食べてないでよく動けたもんだ、大和は自身を心の中で褒める。

「ハッハッハ!!今夜は俺の奢りだ、好きなものを食うといい!!」

そう言われて連れていかれた場所は酒場。内装やインテリア等は木造で、よく見れば長く使われている証か、所々傷がついている。飲みに来ている客はとても騒がしく、中にはジョッキをぶんまわして何かを叫んでいる人もいる。それに、酒と男達の匂いが充満していて、とても臭い。だが、嫌いじゃない匂いだと大和は思った。

大和達が入ってきたのに気づいた1人がセドリックに声かける。同じようなヒゲのおっさんだが、区別をつけるならてっぺんが可哀想、というところだろうか。

「セドリックじゃねぇか!横の若造は?」

「久しぶりだな、ティグル!こいつは俺の息子だ」

その言葉に僅かだがディグルと呼ばれた男の表情が険しくなる。

「....そうか、こいつがか....何か変な服装だけどなぁ....」

そう呟いて大和をまじまじと観察する。

だが、大和にはその瞳が悲しそうに写って見えた気がした。

「いらっしゃい!そこの席が空いてるよ」

「おう!」

この飲んだ酒が不味くなりそうな空気をうち壊すようにおかみさんに席を勧められて、大和達はテーブル席に座る。

「ご注文はお決まりですか?」

座った途端、ウェイトレスの少女に注文を尋ねられ、大和は困惑する。

「えーと....?」

注文も何も、メニューすら分かっていない状況でどうすればいいのか。

「ご注文は?」

にこやかな笑顔が大和の目の前に迫る。女性特有の甘い匂いが大和の判断力を鈍らせる。

「料理としてはこちらのカデナステーキなんて如何───」

「こら!高いもん買わそうとするな!」

自身の財布の危機を感じたセドリックは、少女を制す。

「───ちぇっ....。ご注文はぁ?」

少女の表情はガラリと変わり、今度は面倒臭そうに対応する。

「肉と酒だ」

「カデナステーキとビールお願いしまーす!!」

「おい!?」

「はいよーッ!!」

「待てシャルナ!早まるんじゃねぇ!!」

セドリックは慌てて厨房に入って行く。

「勝手に入るんじゃないよッ!」

バコーンとフライパンで殴る音が聞こえた。

直後、セドリックが目元を青く腫らして、転がりながら厨房から戻ってきた。

「ぐあああああッ!!」

「冗談です♪」

にこやかに笑う少女にドン引きの大和。

「では、仕切り直してご注文お願いします!」

また注文を尋ねる少女。大和は顔を押さえながら地面を転がるセドリックを尻目に、ぽりぽりと頬をかく。

「えーっと、取り敢えずたらふく食いたいから───」

「かしこまりました!カデナステーキたらふくお願いしまーす!!」

「はいよー!!」

「ちょっと待ってください!!」

大和は慌てて料理作るのを止めに厨房に入る。

「....こんの馬鹿どもがぁぁッ!!」

間髪入れずに鉄拳が飛んでくる。

「ぎゃあああああ!!!」

ドンガラガッシャーンと、様々なものを巻き込みながら厨房から吹っ飛ばされ、みっともない格好になる。

「全く....どいつもこいつも!」

「あちゃー....」

酒場中が笑いの渦に巻き込まれる。

複数のおっさん共に囲まれ、そのうちの1人であるティグルが大和達2人に手を差し延べる。

「やるじゃねぇか」

「ヘヘッ」

2人を引っ張り上げたところで今度は酒場の皆に向かって声を張り上げる。

「てめぇら!!セドリックの小僧が初めてここカデナに来た祝いとして、こいつの飯代を皆で負担してやろうじゃねぇかッ!!」

「「ええええ!?」」「まぁティグルさんの言う事に逆らえないし....」「しょうがねぇな....」「セドリックさんとこの奴なら尚更だ!」

酒場の人間達はざわざわとざわめくが、やがて一致し、『『『おおお!!』』』と叫ぶ。大和はただただティグルとセドリックの人望の厚さに驚いていた。

そして、セドリックと同時にニヤリと笑う。

「「言ったな......」」

『『『は?』』』

「いっちょあがり!!」

シャルナがテーブルにドンッと大量のステーキが入った皿を置く。大和達二人は見てしまったのだ。彼女が大量の肉を焼いていたのを。

「「ゴチになります!!」」

『『『......』』』

酒場の客達は一斉にドアへと走る。が、

「待ちなぁ!!!」

シャルナの投げたフライパンが先頭の後頭部に命中し、そいつは動かなくなる。

酒場中が急に静まり返った。

「......食い逃げする気かい?」

彼女の眼光によって、全員が逃げることを諦めて大和がステーキを食い終わるのを眺める。

「やったぁ!!儲け儲け♪」

酒場は大和がステーキを食う音と、少女が喜ぶ声と、シャルナが食器を洗う音だけが響いていた。



「美味かった〜」

『『『......』』』

セドリック達は自身の財布の中身を眺め、溜め息をつく。

「......なんか...うん...お前ら、すまんな......」

『『『....お疲れ様....』』』

大和達2人は酒場前で集団から離れ、当初の目的である就職先を探すため、求人看板へ向かう。

「ユウキはつきたい職とかあるのか?」

大和の方へ振り返り、尋ねる。大和は俯きながら、少しだけ口の端を持ち上げる。

「......人を助ける仕事がしたいよ」

セドリックは、大和の表情から察したのか「そうか......」と言うだけでそれ以上は何も言わない。

「着いたぞ」

その声にはっとした大和は顔を上げる。

そこにはもう外も暗いというのに沢山の人が集まっていた。中には大和ぐらいの年齢の若者達も混じっている。その中でも特に人口が集中しているところがあった。

「あれが求人看板だ」

「人多いな......」

それに見えるところでは男達ばかり集まっているもんだから蒸し暑そうだし臭そうだ、と大和は内心呟く。

「あぁ......。取り敢えず行ってこい」

「え、ちょっ!?」

背中をドンと押され、人だかりへと突っ込んでいく大和。

(暑いッ!!臭いィィッ!!)

予想以上の苦しみに耐え、やっと看板へ辿り着く。

「どれにしようか......」

といっても彼の中ではもうほとんど決まっていた。

出来るだけ沢山の人を助ける男になって欲しい。それがこの世界にはいない彼の両親の願いだから。

「これだ!!」

これしかない、という気迫で傭兵の募集用紙を内容を見る。特にこれといった条件はなく、定日定時に会場に居れば参加となるらしい。

そしてもう一度、苦しみに耐えながらセドリックの元へ戻る。

「お、案外早いな。で、何にすんだ?」

「傭兵になる。で、沢山人を助ける」

そう言うと、セドリックは暫く無言で空を仰いだ。そして急に笑顔になって、

「そうかそうか! じゃあ今日から倒れるまで特訓だな!」

「へあっ!?」

とんでもないことを口にした。

「まあ、取り敢えず俺んち来い。家の近くならすぐ開放できるから」

そう言って手を掴み引っ張ってくる。

しかし、強くなるなら仕方ない。

大和は唇を噛み締め自らその足を進めた。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ