Ⅱ
毎日投稿は無理っぽいです....
街へと続く一本道。その道を1人歩く大和。
ウォル大草原は昼時。大和は「きゅるる」とうるさい腹の虫の音を抑えるように腹部に手をあてる。
「......腹へったなぁ」
様々な疑問が残るが、空腹の状態ではまともに思考が働かない。大和は食料探しの為一旦道をそれた場所にある森の中に入り、少し歩いて辺りを見回す。
そこで新たなる衝撃を受ける。
「マジかよ....」
見渡す限り、全ての生物がどこかで見た事ある、という感じがしない。
以前大和がいた世界ならば。
例えば、リスに角など生えないだろう。
例えば、蛇に百足のように十数の足など生えてたりしないだろう。
今の世界は。
リスがその角で木の実をとっている。
蛇がその足で獲物を捉えている。
「認めたくないけど来てしまったんだな......」
......異世界に。と言おうとしたが口を噤む。獲物を発見したからだ。それは豚だった。猪よりかは豚に見えた。
だがそんなことは大和にはどうでも良かった。大和はすぐには折れなさそうな木の枝を探す。
「よし!ってうぉっ!?」
中でも一番頑丈そうなものを手に取り振り返ると、いつの間にか目の前まで接近されていた。口には明らかに肉食用の犬歯がついていて、違和感しかない。
どうやら奴も空腹らしい。口から涎が溢れ出ていて目もギラギラしている。
「食べても美味しくないデスヨー!!」
手をぶんぶんと振り回し必死に説得を試みるが、逆に威嚇しているように見えたのかもしれない。豚なようなそれは興奮して突進してくる。
「おわァァァッ!?」
大和は跳び箱の要領で突進を躱す。その先には丈夫そうな木が。
普通の猪ならばぶつかって怯むぐらいはするだろう。
だが、何度も確認するようで悪いが、ここは『異世界』だ。前いた世界の常識は通用しない。
犬歯のついた豚はぶつかる寸前で無理矢理身を翻し、残った勢いを足のブレーキで止める。
「...ッ!?」
大和は身構える。合わせて豚も身構えるが、動かない。
「....?」
よく見ると左の後ろ足から出血している。
「....」
暫し睨み合うが、大和は諦めて豚に背を向けて歩く。
もし本当の狩人ならばチャンスだと思い、逆に攻撃を仕掛けるだろう。大和がそうしないのは元々の性格だったからか。それとも───。
豚は彼がその場を去ってからも呆然としていた。彼を食らって傷を癒そうと思っていたことを思い出すまでにはまだ、時間がいるだろう。
◆
「あー......腹へったな......」
暗い森の中、大和は1人適当な木に寄りかかってぼやく。この地域は昼夜の温度差は少ないのでその事には問題なさそうだ。布団が無いのは痛いが。
「異世界か....」
(謎は色々ある。この世界は何なのか?ここに来た理由は?住民との意思疎通は?)
だが、考えると更に腹が減る。きゅるるという音と共に空腹感と疲労感が一気に襲いかかってきた。
たかが一日飯食ってないだけで死ぬ事はないが、そんな状態でつい今日出会ったハイエナに酷似した獣のような相手と戦う事になれば大和の命はまずない。
死ぬかもしれないという緊張状態の中、大和の視界の隅で光が灯る。
「何だ....?」
いくつもの藪をかき分けたどり着いた先には、奇妙な仮面を被った黒髪の女が1人、薪を燃やしている姿があった。
女は大和の気配を察知して身構えるが、大和を見てすぐに気を緩める。
「人か......」
「その安心の仕方はよろしくない気がするぞ......?」
大和は呆れて言う。仮面の女はそれを察して、ゆっくりと口を開く。
「......私は人が殺せない者達をたくさん殺してきた。だから、貴方が人である以上は私を殺すことはできない」
「その理論、穴だらけだな....」
暫く沈黙が続き、薪が燃えるパチパチという音しか聞こえなかった。
「....ここ、いいか?」
仮面の女は黙ったまま軽く頷く。大和は炎を挟んで彼女の正面に座る。
「良かったら何か食いもんくれないか?」
暫くして、こくりと頷いた彼女は手元にあったバックから拳大の木の実を取り出し、大和に投げつける。それを大和は両手で受け取る。
「おぉ、ありがとう」
一言礼を言いかぶりつく。
口の中が甘酸っぱさでいっぱいになる。大和はこの味に覚えがあった。
「これは...リンゴだ......。見た目は違うけど、リンゴじゃないか!」
久々の食料と、前の世界の食べ物を味わえた喜びで夢中になって食べる。
「......毒入りかもしれないのに疑いもせず食べたね」
「あ」
「ふふっ」
仮面を被っているせいで表情がよめないが、笑われたのは確かだ。
人の事言えねぇじゃないか、と大和は心の中で悔やむ。
「....貴方は、召喚者?」
「召喚者?」
「....最近、様々な場所で異常な召喚でここの世界に来た人のことを前からここに居た人達がそう呼ぶようになったの。私もその一人」
仮面の女が説明すると、大和はへっと自嘲気味に笑う。
「そんな大層な名前なんかつけやがって....。俺達に何を求めているんだよ」
「....」
大和の愚痴に何か思うことがあるのか、黙ってしまう。それに気づいた大和は向き合い、謝る。
「....その、すまん」
大和はその場で頭を下げる。仮面の女は僅かに首を横に振る。
「...ううん、気にしてない」
ここに来て大した月日も経っていないというのに、彼女は何を見てきたのだろうか。そして仮面に触れる。
その仕草はまるで、自信の表情だけでなく、見てきた真実を隠しているかのように見えた。
大和は「そうか....」と呟いた後、黙る。
(大方....。いや、やめよう)
そこで、大和はそこで考えるのをやめた。
推測するだけなら簡単だろう。簡単に答えのようなものは見つかる。
けれど、それに触れてしまったら、彼女を傷付けてしまいそうだったから思考を停止させる。
この何ともいえない空気を紛らわすために話しかける。
「聞きたいことがあるんだが」
「....何?」
少し時間を待って、声が返ってくる。やはりその表情は読めない。
「あっちとこっちでの文化の違いは?」
「基本ない。何処でも会話は通じるし、字も通じる」
「意思疎通は問題無し、か....」
他に質問がないか考えると、1つの疑問が浮かび上がる。
「....なぁ。この世界に中国なんてあんの?」
「え?中国?なんで?」
「....いや、馬鹿な質問をした。聞かなかったことにしてくれ」
「ん....」
そこで二人の会話は途切れ、大和は寝転がって小一時間ほど空を見上げていた。
気になって視線を仮面の女の方へ向けるといつの間にか炎は消えていて。誰かが寝転がっている姿だけが見えた。
一人ではない。その安心から大和の緊張はほぐれ、うとうとと微睡み始めた。
暫くして不意に「ねぇ」と声がかかる。はっと意識を取り戻した大和は口数が少ないながらも細々と口を動かす。
「何だ、起きてたのか」
「......寝ないの?」
「お前こそ」
「私は心配だから起きてるの」
「魔物か?」
「まぁそんな感じ。それに、私より貴方の方が心配」
「......そうか......」
そこで会話が止まり、辺りは静寂に包まれる。 何か声をかけなければならない気がして、迷惑と理解しつつも「なぁ」と返事を求める。
しかし、返事は返ってこず、代わりに自身のものではない誰かの静かな寝息が森の静けさを一層引き立たせた。
大和は溜め息を一つついて体を起こす。口からこぼれかけるよだれを拭い、つい前まで呑気に暮らしていた世界に思いを馳せる。
細身の癖に何故か無敗の男と呼ばれる父。病弱でいつもやさしい母。
仲がいいとは決して言えないがある程度の関わりがあった学校の皆。
そして一番に思いが強かったのは二人の少女。
あの二人は心配だ、と呟き一人笑う大和。その時、一つの咆哮が夜の森の静寂を破る。静かで悠久。そうした風景がガラリと変わり、大和は戦慄する。女はこの変化に気づかず寝息をたてている。
大和は恐怖と緊張で混乱しないよう深呼吸をし、自身を奮い立たせる。
茂みを掻き分ける音が近づき、黒い影が大和に襲いかかる。大和は何よりも速くその拳を振るった。
◆
朝。眩しい光が森や森の住人達を洗うように差し込む。そして1人、その洗礼によって目を覚ました。
「ん....朝....」
女は暫くぼーっとしていたが我に返って状況を確認する。
酷い有様だった。周りの木は途中でへし折れ、辺りには魔物の死骸が転がっていた。
「何....これ....?」
「クー....カー....」
「ッ!!」
振り向くと、そこには昨夜出会った少年が、ボロボロになって寝ていた。
「まさか....これが彼の能力....?」
女は、気持ち良さそうに寝る少年の笑顔を少しの間、眺めていた。
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