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ⅩⅢ

「で、どこ行きましょうか?」

無理矢理腕を引っ張るナナ。

「俺に聞かれてもなぁ....」

そう言って大和はさっきまで自身達が居た家を一瞥するが、すぐに視線を前へ向ける。

「流石に金は持ってねぇよな....」

「一応持ってますよ!」

「え、マジで?」





まぁ勿論、そんな都合よくテーマパークや映画館はないので、近くの市場で美味しそうなものや面白そうなものを探す事にした。

屋台に陳列された林檎と同じ味のするあの果実が目に入り、大和は思わず「あ」と声を漏らす。

「どうしました?」

「....いや、気にするな」

ナナに悟られぬよう、大和は視線をその果物から逸らす。

しかし、ナナもその果物を見つけ、限りのあるお金でそれを買い、大和に見せて笑う。

「一緒に食べましょう!」

大和は頷いて、ナナから手渡されたそれを申し訳なさそうに食べる。

変わらない甘酸っぱさが口の中に広がる。

「......いいのか?折角のお金、これでほとんど消えるぞ?」

「いいんですよ!......あっ......これうまっ!」

きっぱりと言いながら果物を熱心に囓る彼女はやはりどこか明るげだ。

二人して果実をかじっているうちに人は増え、あらかた食べ尽くした頃には市場は喧騒に包まれていた。

「...んじゃ、そろそろ帰るか」

「ユウキさん!」

元来た道へ戻ろうとするとナナに腕を掴まれる。

「....お勧めの場所があるんです」

「....は?」

「いいから!こっちです!」

「おおう!?」

またまたナナに引っ張られるままついていく大和。

何処からか懐かしいような、甘い香りがする。彼は、自身の腕を引っ張る彼女を、夢の中の少女と重ねていた。

そして、そんな自分を内心で咎めていた。

(...もう、あいつとは会えないんだ......諦めてしまえ)

しかし。

彼は諦めきれなかった。それを証明するかのように、一つ一つ、涙が頬を伝う。

今にも目の前の彼女が振り返りそうな気がして、ごしごしと腕で顔をこする。

辺りを見渡せば、さっきまでの喧騒はなく、辺りは森がうっそうと繁っていた。

「お、おい...」

「まぁ、もう少し待って下さい」

草木生い茂る森を抜けるとそこは景色がよく見える丘だった。

見渡した街の全貌は、夕日によってまた新しい色に染まっていた。

ナナは先に走っていき、両手を広げる。

「いい景色ですねー!!」

「...そうだなぁ」

後ろを振り向けば、夜がすぐそこまで迫っていた。

「大和さん」

ナナの声にあれ?俺名字で呼ばれてる?と思いながら振り向くと、彼女はフードを下ろした状態で優しく微笑んでいた。

「あ....」

─その白い髪。

─その可愛らしい表情。

大和は『彼女』を知っている。

「夏....野....!」

「....お久しぶりです」

折角我慢してたのに。

視界が滲む。

安堵と歓喜がぐちゃぐちゃに混ざりあって。何を考えてるのか分からなくなって。

いつの間にか彼女を抱きしめていた。

「うあぁぁぁぁ....」

堰が切れる。

羞恥心お構いなしに大和は泣いた。泣き続けた。

「あれ....?おかしいな....私....は....前から....貴方の事、知っていたのに....もらい泣き....かな....」

彼女まで涙を流し始め、大和の服に顔を埋める。

「あぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁ」

「うぅ....」

2人は泣き続けた。

月がその姿を見せ、その涙を輝かせるまで。

夜は近い。



2人の涙がいつか、蒸発して雨となり、大地を潤しますように。

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