Ⅺ
今回はとてつもなく短いです....
「アレだな!泡だっているのは見掛け倒しで実はいい温度......なわけないか......」
ぐつぐつと煮だつ浴槽。ここまでいくと、タコが茹であがりそうなほどだ。
「心頭滅却火もまた涼し心頭滅却火もまた涼し心頭滅却火もまた涼し心頭滅却火もまた涼し心頭滅却火もまた涼しよっしゃあ!」
熱いときも、熱く感じなくなる魔法の呪文を唱えた後、大和は意を決して風呂に入ろうとする。
「......行っけぇぇぇぇぇぇぇぇ......」
ゆっくり。
そう。
ゆっくりと。
逡巡しているうちに、いきなり風呂のドアが開く。大和は「ぎゃあ!」とすっとんきょうな声をあげ、入れようとした足を引っ込め手で恥部を隠す。
入って来たのは黒づくめの男。見覚えがあるはずだが大和は思い出せずにいた。
「ヤマトユウキ殿はここにおられるか?」
「はあ......?」
いなかったらどうすんだよと内心思いながら疑惑の目を向ける。男は大和を見るなり頷いて、口を開く。
「今、宜しいか?」
「よろしくねぇよ。見りゃわかんだろ」
そう言って視線を風呂の方に促す。男はそれを暫く眺めていると、何かを察して「あっ」と声を洩らしつつ大和に視線を戻す。
「今修行で───」
「 ち げ ぇ よ 」
「......風呂?」
「何故疑問系なんだよ。他に何があんだよ」
「こ、これを......」
男は風呂でぐつぐつと音をたてて沸騰する熱湯を一瞥し、ごくりと生唾を飲み込む。
「いや、これは...ちょっと色々あって......まあ困ってる」
「ああ......なら......」
そういうと男は湯船に手をかざして、ぶつぶつと何かを呟く。やっぱり魔法には呪文が必須なのかしらと考えていると、男は手を引いて大和に顔をむける。
「......出来ました」
「お、おぉぉぉ....」
そこにはさっきまでの地獄絵図が嘘だったかのように、ほかほかと湯気が揺らめきたつ風呂が出来上がっていた。
男に促され浸かってみると、全身に温かさが染み渡っていく。
「あぁぁぁぁ〜」
「お気に召されたか」
カインの存在を完全に忘れていた為、その一声に驚く大和。
「!?......あ、あぁ。......ところで、誰だったっけ?」
カインは如何にも不覚だという感じで「くっ!」と唸る。
「申し遅れました....拙者、カイン・マルズドアという者」
「カイン....?カイン!?....会場の時と態度違くね....?」
「あの時はどうせ楽に終わるだろうとタカをくくっていましたので....」
カインはでも、と続ける。
「昨夜のヤマト殿の闘いぶりを見て、どのような状況にも対応する柔軟な考えと、逆境にも臆する事のないその心に、憧れてしまったのです....」
「は、はぁ......」
「拙者、配下になるならこういう御方を理想としていた故!なにとぞ、某を配下にしていただきたいのです!」
「取り敢えず風呂は1人で入りたい......」
カインはハッとなり「しっ失礼したっ!」と言って扉を開けてから
「色良い返事、期待しておりまする」
とだけ告げ消えるように出ていった。
「何ていうか....すごい奴だったな....」
◆
サイズは同じの為、セドリックに借りていた服を着て3人の部屋に戻る。
取っ手に手をかけると、喧騒が耳に入る。揉め事かと思ってドアを少し開けて覗いてみれば、そこにはまた違った地獄絵図が存在していた。
顔をおさえ、地面に転がるナナ。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
そして、オヤジ共の喧嘩。
「アイツは俺が直々にぶっ殺すと決めた!!決定事項なんだよ!!」
「させねぇ!ユウキの命は俺が守る!」
大和はその場の状況が理解できなかったが、自身の身の危険を感じたので静かにドアを閉めた。
「落ち着くまでは外だな......」