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今回は早めの投稿っす



揺られる電車の中。

黒い学制服を着た少年は吊り革に体重を預ける。

そして、隣には制服姿の少女。その白い髪を掻き上げる仕草で甘い香りが舞いあがり、隣にいる少年の鼻をくすぐる。

少年がそちらに顔を向けると彼女は可愛らしく微笑んだ。

触れ合う肩。

電車は相変わらず揺れながら、次の駅へと走り続ける。

2人を乗せて。





小鳥のさえずりで目を覚ますと、そこには白い天井があった。

「夢か....」

暫くぼーっとして、ハッとなる。

(じゃなくて、まずは状況の確認を───)

横に目をやるとそこには綺麗なお月様、ではなくそこはかとなくそれに似たつるつるの頭だった。

「!!?」

条件反射でそれをベッドから蹴り落とす。

ゴンと鈍い音がした。

「ぐぁああぁあああぁぁあッ!!」

悶える老夫。

「ったく....えぇっ!?」

そこで大和は一足遅れて衝撃を受ける。

わなわなと震えながら老夫を指差す。

「何で....てめぇが俺と一緒に....?」

「くぅ~! 人をベッドから蹴落としといてその言い草はなんだ!」

「うるせぇ! 」

激昂する老夫を一蹴する大和。一触即発の空気に「やめろ」と声がはいる。

「ヘリィ殿はお前と同時にぶっ倒れてなぁ......。近くっつったらここしかなくてな......仕方なくここに運ばれてきたんだよ」

声がした方、自身の後ろを振り向くと、そこにはセドリックが隣で寝ていた。

「うわぁあああッ!!」

大和は身体を捻り肘鉄を食らわす。

「ぐぇッ!?」

「ふざけんなぁ!!男どもが川の字で並んでんじゃねぇ、ホモなのか?同性愛者なのかてめぇら!!」

そこで痛みから解放された老夫が「んな訳あるかい!」と憤慨する。

「わしとセドリック氏にあるのは熱い友情───」

「やめろ!! 意味深すぎるだろうが!」

ハゲ親父の熱い発言を必死でかき消す大和。眩暈がしたかのように顔に手をやる。

「はぁ...懐かしい夢見たのに台無しじゃねぇか畜生......」

大和は忌々しげに呟く。

「ユウキ」

「あ?」

そこで声をかけられ振り向くと、セドリックは急に真面目な顔になって大和を見詰める。

「今回の採用試験で、お前......」

大和は本来の目的を思いだし「あ」と声をあげる。大和はセドリックが口にするまで、試験の事をすっかり忘れていた。きっと、不戦敗で失格だろうと大和は唇を噛み締めて「で?」とだけ口に出す。

セドリックはやけに細目になり、大和を見据えて重々しく口を開く。

「...不戦勝で優勝したぞ」

「そうか......んん? 俺が勝ったの!?」

「うーん...それが意味がわからなくってよ......自分より強い奴に不戦勝は認められないとかどーのこーのってよ......」とセドリックは腕を組んで低く唸る。大和にも理解できず、部屋に沈黙が訪れる。

セドリックは一つ咳払いをしてからまたしても大和に話しかける。

「ところで、俺達のせいで台無しって......ユウキ、女か?」

「はぁ!?」

ズバリと言い当てられ、大和は動揺する。

「マジか!?どういう事だ!? こんな奴にも女いるのか!?」

老夫が心底驚いて大和に追求する。

「『こんな奴』は余計だ馬鹿野郎!」

すると、開けていた窓から手が伸びて大和の腕をつかむ。

「うぉあ!!」

「ユウキさんの女......私、気になります!!」

ひょこりと首を出してくるナナ。

3人に囲まれた中で筋の通った嘘などつけるわけもなく、諦めて正直に話すことにした。

「...はあ......。分かった分かった! 話す、話すから取り敢えず座れ。お前は部屋の中に入れ」

「「「はーい」」」

ナナは少女らしく、セドリック達2人は年がいのない返事をしてからそれぞれの場所に座る。

大和は参ったなと溜め息をつく。彼女の流麗な白髪を思いだしもうひとつ、今度は深く溜め息をついた。

そういえば彼女を最後に見たのはいつだっただろうかと大和は首を捻る。だが、この世界にくる少し前の事を思い出そうとしても、何一つ思い出せない。

「ユウキ」

「ん? ああすまん!」

セドリックに声をかけられはっと意識を引き戻す。そして3人全員と向き合うように座り直して、話し始める。

「......お前らは電車を知らねぇだろ」

「デンシャ??」

老夫は首を捻る。

「....わかりやすく言えば、電気とかいうエネルギーで線路を走る箱だ。それも、人が何十人も乗れる大きいな」

そこでんー、と10秒ほど唸ったセドリックは何か思いついたかのようにぽん、と手を叩く。

「もしかして、魔力車まりきしゃの事か?」

今度は大和が首を傾げる番だった。

「マリキシャ?なんだそれ?」

「俺も詳しくは知らないんだが───」

「説明しよう!」

そこで、待ってましたかと言わんばかりに老夫が会話に入ってくる。

「魔力を供給しながら走る俥のことで、供給し続ければ半永久的な走行が可能だとか。欠点は線路の上でしか走れない事、だな! いや~、最近勉強したからなぁ!」

自慢げに胸を張るのを見て、セドリックが悲しそうな顔を老夫へと向ける。

「ヘリィ殿...」

「どうしたセドリック氏?」

ヘリィと呼ばれた老夫はにっこりとセドリックに向かって微笑む。

「それぐらいなら誰でも知っていますよ......」

「えっ」

さっきまでの自慢顔が、一瞬で羞恥に染まる。

そこにナナが止めを刺しにくる。

「まぁ、一般常識ですからね...知らない方がおかしいですよ」

ヘリィではなく大和に。

「うぐッ!?」

大和が変な声を出すので全員の視線がそちらを向く。

「あ、すいません....」

ナナがシュンとして目を伏せ、俯く。

居た堪れない雰囲気の中、大和はなんとか話を続ける。

「なんだ、つまりだな......。まぁ、電車というものがあってだな......」

「うんうん」

「ほとんどそこでしか一緒に居られなかったけど、俺にとって大事な友達の夢を見てたんだよ」

「え?....ごめん、何の話?」

セドリックが脈絡がないぞ、と言いたげな顔で大和を見る。

「いや、俺の友達の話を....」

「俺が聞きたかったのは夢にでてきたお前の女の話をだな....」

「だから、俺の女友達の話だろ!!」

大和が溜息をつくと、おっさん組から「うわぁ....」という声が漏れる。

きっと彼らは大和の

「....話は終わったから風呂入ってくる!」

大和は顔が熱くなるのを感じながら部屋を出る。

自身の中の感情のほとぼりが冷めてから、ぽつりと呟く。

「......ただ、俺に勇気が無かっただけなんだよなぁ...」

頭の中で、夢の中の少女の笑顔が染み付いて離れない。自嘲気味に笑っていると唐突に肩を叩かれる。

「ユウキさん」

「ッ!?」

後ろを振り返ってみると、そこにはナナがもじもじしながらこちらをちらちら見ている。

「あ、あの....」

大和はさっき肩を叩かれた時の恐怖で心臓がまだバクバクしている。

「な、なんだ....?」

「その....、目を閉じてもらっていいですか....?」

「え? ああうん......?」

そう言ってナナの期待通り目を閉じる。

ぱさり、と衣が落ちる音がする。大方フードをおろした際の音だろう。

それ程時間をかけずにナナから声が掛かる。

「も、もう開けていいですよ!」

目を開けると、そこにはいつも通り、フードを被った少女がいた。

そこでふと、目の前のフードの少女と電車の彼女が重なる。

(......身長はおんなじくらいか......)

「えーっと......どうかしましたか?」

「い、いやなんでもないっ!」

小首を傾げる彼女を置いて、風呂場へと向かう。

「あー!待って下さい温度調節しますから!」

袖を引っ張られ、大和が動きを止めている間に先に風呂場に入っていくナナ。

暫くしてふんふふーんとか鼻歌が聞こえてきたかと思うと、それからまた暫くして勢いよく風呂場の扉が開く。

「できましたよー!!」

「お、おう....」

今度は鼻歌に加えてスキップしながらセドリック達のいる部屋へと行ってしまった。

ささっと服を脱ぎ、風呂場に入ろうと扉を開くと、大量の熱気が溢れ出ていき、大和は一瞬言葉を失う。室温はもはやサウナに匹敵する温度になっていた。

「......」

ぐつぐつと泡立つ浴槽眺めながら、大和はすることがないので、座る事にした。





「ぇへへぇ....」

その頃ナナは頭を抱えながらごろごろと床を転がっていた。

「な、なぁ....ナナちゃん大丈夫?」

「....少ないながらも一緒にいたワシでさえ、こんなナナちゃん初めて見るぞ....」

そこでナナが動きをピタリと止める。

聞かれたか、と身構える2人だったが、それは杞憂だった。

2人に気付いていないナナはぽつりと呟く。

「ユウキさん...」

がたん、とヘリィは椅子から勢い良く立ち上がる。まさに鬼の様な形相だった。

「よぉし!あいつ殺すぞ?いいな!?いいよなセドリック氏!?」

「ちょっ、まっ」

ヘリィは大和のいる風呂場に向かおうとするが、セドリックがその腕を掴み、止めようとする。

「ええぃ!邪魔だ!退きなされ!!」

「うちの大事な息子に手を出させるかぁッ!!」

室内で繰り広げられる喧騒に気付かないナナは、1人にこにことしていた。

「まさか....あの人だったなんて....」





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