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嵐の始まり

嵐の始まり



 メルボルン基地は海沿いにあり港湾施設に空港、宇宙港まで備える巨大な軍事基地である。

朝永自身地球に帰還するのは第2次ペルセフォネ星系戦争が終わって間もない頃だと思う。

父親が商社に勤めていて外宇宙星系に住む事が多く地球に長く滞在した期間は非常に短い。

大学への進学は最初から捨てており、統合軍士官学校への入学を希望していた。

理由はただで外宇宙に出かけられるからだ。

第1次ペルセフォネ星系戦争が始まる前にAAという新しい兵器が開発されていて、これが主役になるであろう兵器だと思われ実際主役になった。

地上でも宇宙でもその性能は如何なく発揮するも、重力がある大気圏内の空中おいて運用が厳しかったが航空機状態に変形する事で浮力を得て解決できた。

それに朝永は興味を示し、まだテスト運用段階にも関わらずAA部隊への配属を希望して見事AAパイロットになれた。

それからメキメキと頭角を現し第1次ペルセフォネ星系戦争では最初の1年で敵AAを30機撃墜し部隊はおろか地球連邦統合軍全軍でも撃墜王の1人となった。

朝永は艦隊勤務のパイロットであったが、優秀な成績からアザラシ部隊へ異動となり成果を上げていた。

そこで終戦を迎え暫くは平和の日々の中優秀なアザラシの指揮官として過ごしていたが、第2次ペルセフォネ星系戦争が開戦し、ペルセフォネの友好星系政府であるヨエル星系と偶発的な軍事衝突により地球連邦政府は参戦する事になる。

偶発的な戦闘とはいえ大規模な艦隊戦となり朝永は決死の策で敵を撃退するも自身は重傷を負い、後方での支援任務に異動させられた。

後方とはいえ、殆どが外宇宙での活動であり地球にいる事はなかった。

メルボルン基地にて会う約束をしていたが、何処へ行けば良いのか悩んだ。

火星から2日もかけてやって来たは良いが、メルボルン基地の何処に行けば良いか聞いてなかった。

ともかく5局に連絡して会う所を確認すべきと思い電話した。

すると、相手は宇宙港司令部におりいつでもどうぞと素気ない応答だった。

司令部内部は至って普通で受付で場所を確認し指定された部屋に目指して移動した。

場所は3階の一画にあると聞いて通路を歩いていると、目的地の部屋に辿り着いた。

ノックして部屋に入ると、誰もいなかった。

「失礼します。呼び出しにより只今出頭しました」

だが、部屋の中には誰もいなかった。

人を呼び出しておいて、随分、勝手だなと思うが、

「どうぞ」

という声がしたので、ともかく中に入った。

カタカタとキ-を叩く音がしたので奥に移動すると、机から頭だけ覗いていたのでようやく人がいたのが解った。

座高が低いので相当背が低いのかなと思って見てたが、実際、椅子から立ち上がると思った以上に背が低いように見えた。

徴兵検査でギリギリだっただろうなあと朝永は思った。

事実、徴兵検査では身長は150センチ以上が合格基準となっており、見る限りギリギリのように見えた。

「遠路遥々良く来てくれました」

そう無表情に彼女は挨拶した。

地球統合軍は空海陸軍を一つに纏めた統合軍故に、部隊の兵科によって制服が異なっていた。

宇宙艦隊勤務の場合だと将校はPコ-トで兵士はセ-ラ-服というのが基本だ。

元々、民間にデザインを公募した結果、デザイナーが昔の海軍が使用していた制服をイメ-ジし宇宙を海に例えて制服もこの形式に採用された。

そのため、地上にある水上艦船部隊と似たデザインとなり服の色を変える事で解るようにしていて、水上部隊の服の色は黒色を、宇宙艦隊の服の色は濃紺となっている。

彼女は宇宙艦隊勤務の制服を着ており名札には竹中舞と書かれており、階級章から相手が少佐であり会う事になっていた人物だと理解した。

司令部で会うという事なので、朝永は新型AAの評価試験の打ち合わせと製造元の技術者との打ち合わせだと思い込んでいた。

だが、ソファに座らせて彼女が最初に発した言葉は、

「今度、新しく実験部隊を設立するので、大尉にはAA部隊の責任者になって欲しいです」

だった。

朝永は絶句した。

確かにあの王女救出作戦で引く手数多の引き抜きが相次いだが、国民的英雄の戦死を恐れて軍は後方での教官任務に就かせて引き抜きをさせなくしたのだ。

それを無視しての要請には朝永は驚いた。

第一線部隊への復帰はありがたいし非常に魅力的な話だ。

だが、上層部がそれを易々と見逃してくれるとは予想できなかった。

朝永の場合、それだけが理由ではないが、…。

朝永は部隊の設立と運用目的の説明を受け大筋では納得ができた。

基本、宇宙での遭難は救難隊の仕事で戦闘中だろうと彼等は突き進んで目標の回収をするのが任務だ。

救難に使う道具は充実してるが、先の戦争では船1隻の救出には不適格で艦隊か少なくとも戦隊規模の支援は必要とされた。

救出目標の規模により支援する兵力が異なるが、目標の人数が多いと収容する駆逐艦1隻では足りない場合がある。

だからといって、空母1隻を派遣すれば部隊が大掛かりになり戦闘救難作戦の場合では隠密性がかなり低くなるし、機動力や即応性が低下する。

そこで駆逐艦戦隊を中心とした戦闘救難戦隊を創設しようと言うのだ。

今の救難隊の戦力ではどこかの艦隊に支援を求めないと外宇宙では活動できない。

一応、各艦隊には専門の救難隊は配備されているが、竹中が提唱する戦闘救難作戦に特化した艦隊も戦隊も存在しない。

基地に配属されている救難隊は装備は充実しているが、艦隊に配備されている救難隊は最低限の装備しかない。

現実問題として、基地配備の救難隊を艦隊が拾って現場に向かうのが実情だけど、即応性には欠けていた。

救難任務の場合、先ずスピ-ドが命で、戦闘中でも通常の救難任務の場合、スタ-トがいかに早く切れるかが鍵になる。

現場への到着時刻が早ければ早いほど良いのだ。

最初からフル装備状態であれば、命令と同時に動けるからそれだけ救難任務の成功率は高くなる訳だ。

基地配備の救難部隊の充実が目的なのだろう。

一般の基地では配備は予算的に難しいが、メルボルン基地のような主要の大きな基地になら配備しても難しくないだろう。

そのためのテストだと朝永は受け止めた。

「戦闘救難任務なら、何も私に頼まなくともそれ専門の部隊があります」

「デルタ部隊ですか?ですが、レイ第2王女救出作戦で彼等は何かできましたか?」

あの時、デルタは別の事で動けなかった。

それで俺を呼び戻したのだ。

「他にも適任者はいますよ。何故、私でないといけないのです?」

「勿論、色々と調査はしました。候補は多岐に渡り調べるだけ調べ、その中で大尉が1番ずば抜けていた。全てにおいて文句のつけようがありません。他の人達は何かが欠けていたが、大尉は完璧でこの人しかいないと結論に達しました」

しかし、俺を選定するのに良く横槍が入らなかったと朝永は思う。

朝永ほどの実力者なら引く手数多なのだが、実際は火星の僻地で後方支援任務に従事している。

それは朝永の隠された経歴故にだ。

彼の存在自体が機密その物だから、統合参謀本部第2局(諜報活動専門)が彼の異動に横槍を入れて来るはずだった。

それを無視して竹中が呼び出しとなると、相当やりあったのだろうと想像がつく。

どうやって2局の人間を説き伏せたか知りたいとは思わなかった。

「その様子だと、大尉は別の用件で呼び出されたとお思いになられていたようですね。確かに5局といえば、新兵器等の開発運営のテストが主ですが、部隊運営のテストもしてるのはご存知だと思ってました」

そんなの今更言われなくとも知っている。

そう思っていると、

「今回の新しい部隊設立は今後の戦略を考える上で重要課題なのです。これまでの戦争でAAパイロットに艦船のクル-の帰還率はご存知ですか?」

「いえ、細かい数字は知りませんが、低い事は確かです」

「64%です。100人居れば1回の戦闘で36人が帰還できません。その内の70%は直接戦死する訳ではなく窒息死です」

直撃による被弾によって戦死する場合は意外と少ない。

軍艦だけでなく民間の宇宙船も気密を保持するため各区域ごとにハッチ等で空気漏れをしないよう作られている。

例えば、船首を破壊されてもその部分だけハッチ等で閉鎖していれば、他の区画から空気漏れは起こらないようになっている。

戦闘で被弾しても武器庫や燃料庫を破壊されたりしない限り他の区域にいる乗組員(クル-)は、意外な事に無事である事が多い。

跡形もなく破壊されない限り、大抵は生存してるのだ。

「それとパイロットや艦船の乗組員を育てるのにどれだけの費用と年月が掛かるかご存知です?」

「一般にパイロットの場合だと、最低4、5年は掛かる。更に艦隊勤務だと、1年は必要だな」

「宇宙艦隊勤務だと乗組員もそんな物です。パイロットだと年間1人当たり200万ドル、宇宙艦隊の乗組員だと100万ドルは掛かります。つまり、乗組員1人を育てるのに4、5年は待たないといけません。これはパイロットも同様です」

「要するに、遭難したパイロットや乗組員を帰還させる事で損害は減る事になるから、新しい救難部隊を設立した訳ですか」

「兵站を考えても合理的だと思います。人員が減れば補充しないといけません。でも、乗組員が帰還できれば、その分、帰還した乗組員の経験がより積まれる訳です」

朝永は相手の容姿を改めて良く見た。

朝永よりも若く頭脳は切れるのだろうと予想できた。

私服を着させて何処かの高校に居れば溶け込む位の童顔でもあったし、体も幼児体型で後ろから見れば小学生に間違えられてもおかしくない。

実際の年齢は知らないが、ステップで進級したのだろうと予測できた。

なら、相当なエリ-トさんなのだろう。

それがどういう謂れでこんな任務をしているのか?

疑問に思った。

それにしても、部隊設立は良いが、責任者である戦隊司令が呼ぶなら解るが事務方の人間が呼び出す事にも疑問を抱いた。

そこで、朝永は質問した。

「ところで、今度、設立された戦隊司令ですが、何処にいるのですか?」

「あっ、申し訳ありません。まだ、お伝えしてませんでしたね。私が直接指揮を執ります。今後ともよろしくお願いします」

それを聞いて朝永は絶句した。



 結局、朝永は引き受ける事にした。

現時点で戦隊司令を受けられる人物はいないと言っていいくらいに人材は枯渇していているからだ。

現在までの艦隊勤務する将兵の総帰還率は約60%で10人出撃すれば4人は帰還できない計算になる。

その内、2人から3人は生存しており救いの手を差し出せば生還できるのだから、竹中はこの部隊の設立は今後の戦略に影響を与えると見ており、艦隊全体のレベルの向上及び低下の原因を減らせられるのだ。

例えば、AAの整備1つとってみても、新兵が行う整備よりもベテランの整備兵に機体を見てもらう方が乗っているパイロットも不安なく戦えるもんだ。

地上勤務の整備兵でも艦隊勤務経験者なら問題ないが、全く経験のない整備兵だといろんな面で苦労するから機体を預けるパイロットとしては不安だ。

先ず、宇宙酔いだ。

今ではいろんな薬で抑える事はできるが、体質的に合わない人が必ずいる。

20世紀に人類が宇宙に進出を果たしたが、この問題はその当時から言われており未だに決定的な治癒できる方法はない。

対処療法しかなく遺伝子治療も見つかっていない状況だ。

外宇宙に出る時は必ず宇宙酔いの検査を受け治る見込みのない人は艦隊勤務から外される。

朝永はそういう事が一切なく、地球と重力が違う星でも違和感なく普通に生活できた。

因みに火星は地球の重力よりも低く地球の感覚で生活していると、思った以上に早く走れたり軽く跳ねたつもりでも思った以上に飛んでたりするから注意が必要だ。

だから軍は上陸作戦をする場合、必ず全部隊にその事を説明して注意をさせる。

勿論、上陸する土地に似た場所があれば、そこで演習をして慣らすのは当然である。

そう言った適応力があれば良いがない人間だっている訳で、だから艦隊勤務ができるだけでもそれ相応の優遇処置がされる。

艦隊勤務手当も当然出るし、その額は一兵卒から将官まで同額だがその金額は大卒の初任給と同額だから結構な手当である。

ただ生還率が他の部隊よりも低いし中々なり手がいないのが実情だからだ。

逆にパイロットになると人気職でその候補生学校の競争率は20倍近い数字を出している。

艦隊勤務のパイロットは花形で人気職故に女性にもてるのは言うまでもない。

パイロットになるには方法は2つである。

統合軍士官学校か大学を出てパイロット幹部候補生学校に入るか、高校を出て統合軍宇宙艦隊兵学校に入学してパイロット養成学校に進学するしかない。

どちらも競争率20倍という狭き門だ。

親のコネや軍や政治家の口利きが利かない。

正に実力のみで選ばれた兵士なのだ。

パイロット試験はある程度の学力があれば、後は体力面と空間認識力が優れていれば問題ない。

最近は前回の戦争のせいで定数が揃ってないので、かなり適正試験のレベルを下げたらしい。

それは他の部隊に配属される訓練学校でも同じ状況だそうだ。

取り敢えず、朝永は1度火星に戻る事にした。

1つは自分の荷物を取りに戻るのと、次に今度新しく異動する部隊に配備するAA部隊の異動許可を彼の元上官になった基地司令に許可をもらう事である。

全員を連れて行けないなら、何人か連れて行きたい人物の選定と許可をもらうためだ。

新しく上官になる竹中はAA部隊に関しては朝永に一任すると告げた。

餅は餅屋に限るので、同業者の朝永に選定してもらうのがベストだと考えた。

帰還してすぐに基地司令と面談して5局から出された辞令と今いる部隊を新設される戦隊への異動を認めてもらおうと掛け合った。

相手の司令は60前の退役間近の大佐で朝永の良き理解者でもあった。

朝永の正体は知っており、当然、今名乗っている名前が本名でない事も知っているし、本名も知っている数少ない人間でもある。

2局にいる古い友人が彼に朝永の身柄を預けたいと申し出て来た時は朝永の正体を知って度肝を抜かれたが、彼と直接会って見て好印象を受けて今では良い友人の1人に見ていた。

朝永が今の部隊を連れて行きたいと言うなら、それは渡りに船だと思った。

彼の部下達はまだ十分最前線で戦えると自負しており、後方で後進の対戦相手だけの任務に嫌気が指していた。

例え後進が彼等より腕が悪かろうとも、最前線に向かうのは後進達である。

その気持ちを良く理解していたから、朝永は連れて行きたい思いになっていると見て、彼の上官も快く応じた。

基地司令の許可をもらい朝永は部隊兵士全員を第1ハンガ-に集合させると、異動命令を受けて部隊は移動すると伝えた。

艦隊勤務と聞いて彼の部下達は喜んでおり、彼の部隊の副長であるアラン・イエ-ガ-中尉がそばに来て、

「みんな、喜んでますよ」

そっと、朝永に告げた。

「では、次の戦闘に備えて政府は行動に出るのでしょうか?」

続けてイエ-ガ-が聞くが、

「さあ、俺には解らん。ただ、呼ばれたから行くだけだよ」

そう朝永は答える。

事実、その通りなのだ。

ただ、次の戦争を行うにしても、今設立された部隊は必要なのは確かである。

現在、ミケと戦争を続けているレイからはいろんな形で味方になって一緒に戦って欲しいと言われているらしい。

それが実現すれば、あの男も一緒になって戦うのだろう。

そう、今はペルセフォネ亡命政府の軍人であるあの男と一緒に戦うのかと朝永は思った。



 竹中がこの部隊を設立するのに鍵になる人物は2人いると見なしていた。

その1人は朝永であった。

そして、もう1人は今目の前にいる人物だった。

トム・ワトキンス大尉は竹中が艦隊勤務している時に駆逐艦で一緒だった男である。

歳は59歳でもうじき退役間近の老兵で、艦隊勤務一筋の叩上げの将校で誰よりも宇宙での戦闘を知り尽くした男だ。

ワトキンスを呼んだのは彼女の右腕になって欲しいのと、これから朝永のような百戦錬磨の将校と意見の相違がある時の相談役に呼んだのだ。

朝永の働きはTV中継を見て知ったのだが、見るからに特殊部隊のパイロットの風貌である彼と彼の部下達を操縦できるか不安を覚えた。

癖のある古参の乗組員を操縦するのに目の前にいるワトキンスの助言は大いに役立ったし、彼等ともどう向き合い付き合えば良いのか?

教えてもらって助かったのだ。

「老骨に鞭を打って働けと言うのですか?」

そう言われて、竹中は苦笑いをする。

「大尉には本当に助けられました。最後の花道を飾ってみませんか?」

竹中の作ろうとする部隊はワトキンスも賛成だし、自身も何度か遭難して助かった事もあるから大いに乗り気であったのは事実だ。

ただ、自身の体が宇宙での艦隊勤務のような生活に耐えられる体ではない事も気づいていた。

「それで、私は何をすれば良いのですか?」

「今度、旗艦として巡洋艦トネを選定しました。退役艦に指定されてましたが、新型のチャ-リ-級巡洋艦は回してもらえそうにありませんので、エンジンを総取り換えしますが、癖のあるふねですのでベテラン乗組員を配属する予定です。大尉にはトネの副長と戦隊司令部の参謀長に就任して頂きたいと思います」

「他に護衛する駆逐艦は決まりましたか?」

「それをこれから決めようと思います。それで既にAA部隊の指揮官と部隊は決まりましたので、彼等と相談して決めたいと思いますが、よろしいですか?」

「指揮官は司令です。司令が決めた事に口を挿むつもりはありません」

「結構です。では、これからドッグに向かいます。改修がどこまで進んでいるか確認もしないといけませんし、色々と事務的な仕事が待ってますからね」

「では、またお世話になります」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

そう言って、2人は握手した。



 第53特殊機動中隊、朝永が指揮している部隊の正式名称だ。

AA部隊の特殊部隊は統合軍で幾つか存在している。

1つは朝永が所属しているアザラシ部隊で敵地後方での破壊活動等によりゲリラ戦がメインの部隊と、コンバットレスキュ-を主にしたデルタ部隊に敵部隊に成り済まして敵を混乱させるアグレッサ-の3つである。

アザラシ部隊は地球統合軍では正当な特殊部隊であり、配属される事が大変名誉で実力の持ち主であると認められてた。

だが、デルタやアグレッサ-に配属されるにはアザラシに配属された事ないとなれない決まりがある。

そういう意味ではアザラシは1つ格が落ちると見られていたが、デルタはともかくアグレッサ-とアザラシの違いは語学力が要求されるかされない違いだけである。

朝永の部下の中にはデルタやアグレッサ-で活躍してもおかしくない人材が揃っており、何処に出しても恥ずかしくない実力の持ち主だと自負している。

ただ、喧嘩早い性格の人物が多いのは悩みの種でもある。

朝永は手配していた輸送艦に愛機を収容するためコクピットの中にいた。

機体はゼピュロス製のAAで地球統合軍名称はFAS-21Aと呼ばれている。

このゼピュロス星系のミラ-ジュ社製造のAAには統合軍配備のAAにはない特徴があった。

AAのメイン機関は背中に搭載されているエンジンが主体であるが、人間の脛に当たる部分が補助機関として使われている。

この補助機関がミラ-ジュ社独自の構造になっていて、排気口は人間の足で言う所の足の裏に普通は装備されているが、膝の所にも排気口がついていて機動性が格段に向上している点だ。

元々は飛行形態になる時に逆噴射するための部品が機体上の構造から搭載できなかった苦肉の策で作られたが、これが結果として格闘戦や白兵戦においての運動能力向上に繋がり搭乗者からの好評を受けていた。

それを見て統合軍では次期アザラシの主力AAでの評価試験でパイロット達の意見ではFAS-16/-18よりも良いと言われて採用となった。

FAS-16は高価になったFDS-15を支援するつもりで生産され、生産性の向上を優先されて今時には珍しく変形できない機体であった。

その分、シンプルになってはいたが運動性能に特化されており操縦しやすいとパイロット達からは好評だった。

実際、使い勝手の良さでは乗り手がどんなに下手糞でも自由に動かせた。

つまり、パイロット養成学校から卒業したての人でも簡単に動かせるから、前線に大量のAAを投入する事が可能になったのである。

FDS-14は艦隊配属用主力AAとして開発されたが、戦争が激化していく中生産が追い付かない事態に陥りそれに代わる代用品としてFAS-18を開発し配備した。

これも基本はFAS-16と同様に生産性向上を上げるために生産したが変形機能は艦隊護衛という任務もあるので残していた。

統合軍が使うAAとの競合でパイロット達はゼピュロス製AAに魅了され強く推したのである。

5局は何とかメ-カ-からの圧力を受けて地球製AAを配備しようとしたが、現場パイロット達の意見が優先されて配備されたのであった。

コクピット内部はそのまま使われているが、表記は全て英語に書き換えられている。

シ-トも地球製ではなくゼピュロス製であるので、違和感を覚えるがすぐに慣れた。

内部の各ゲ-ジの表示の仕方も独特の仕方であるが、慣れたら問題にはならなかった。

ただ、この機体はFAS-16と違って乗り手を選ぶじゃじゃ馬だったが、腕に覚えのあるアザラシのパイロット達は簡単に乗りこなして見せる。

ゼピュロス軍での正式名称はダガ-Cと呼ばれており朝永達もダガ-と呼んでいるこの機体の癖は、着地もしくは着艦する時の微妙なコントロールが難しいのだ。

自動で着陸する時でも微妙に大味な舵加減で動かす癖があり、その点が唯一の欠点だなとみんな思っていた。



メルボルン基地のそばにある宇宙船用ドッグに軽巡洋艦トネは停泊していた。

そのブリッジに竹中とワトキンスの2人だけがいて、目の前に広がるドッグの壁を見つめていた。

「最初は軽巡洋艦だと聞いていましたが、…」

「ええ、私もそのつもりでしたが、…」

名称はそのままだったが艦体の構造そのものが別の物その物になっていて、2人は驚きを隠せそうにはなかった。

艦体その物は基本的に変わっていなかったが、追加で左右舷側に別の駆逐艦を1隻ずつ取り付けられた形になっており、3本の支柱兼通路で繋がっていた。

元駆逐艦だった甲板の上にはブリッジやアンテナや砲台等は何もなくなっていて、代わりにフライトデッキになって平らになっていた。

最新鋭のデルタ級駆逐艦の実戦配備に伴い旧型になるアポロ級駆逐艦の艦体を取り付けているのに2人は絶句する。

「旧型とはいえ、まだ第1戦で配備されている艦を使いますかね?」

ワトキンスは呆れて言うと、竹中は頷くしかなかった。

他に言葉が浮かばなかったからだ。

その背後からエレベーターに乗って中高年の車椅子に乗った男性が現れる。

相手が声を掛けて来たので2人はとっさに敬礼した。

「どうかね。新しく生まれ変わったトネは?」

「議員のご配慮には深い感謝の言葉しか思い浮かびません」

「結構」

ワトキンスはなるべく腹の内を顔に出さないよう注意しながら竹中とこの軍OB上がりの議員先生の方を見ないようにしていた。

「5局の造船技術者には知り合いが沢山いてね。それでトネの改良を円滑にかつ迅速に頼むと伝えたら、この有様だ」

初めは確かにエンジンの換装に伴う改良と新しく作るフライトデッキとハンガーデッキの増設だけで

あった。

ところが外観その物までも変わってしまい新造艦と見間違ってしまう程の改装を行っているのだ。

「全く、権力を持つ者の言う事には敏感な連中だな。そう思わないか?大尉」

ワトキンスは沈黙で答えるしかなかった。

「君のような軍歴の長い人間には慣れっこかもしれんが、私は未だに慣れんよ」

そう吐き捨てるように言うと、竹中の方を見た。

「少佐、君の考えに全て納得してる訳ではない。しかし、宇宙の広い海で何時なくなる酸素ゲ-ジを眺めながら漂流するのは尋常な事ではない」

そう言って彼はブリッジ内を見渡し、

「もし、私で良ければ今後も頼りにしてくれたまえ。幸運を祈るよ」

言いたい事を言い切ったらしく、議員先生はブリッジから立ち去った。

「気難しい人だと噂では聞いていましたが、その通りですな」

ワトキンスがそう言うと、竹中は頷く。

「では、今集まっているクル-に会いに行きましょう。新しく生まれ変わった軽空母利根の乗組員の所に行きましょう」

そう言って竹中達は左フライトデッキに下りて行った。



 ミケ星系は地球から遥か彼方に離れた星系でありワープを何度か繰返して到達する程離れていた。

アンナ・ロストフはミケ星系本星の首都に住んでいて、政権ではナンバー3である外務大臣兼商務大臣を兼任するニコライ・ロストフの後妻である。

主人であるニコライはナイスガイと世間から賞される程の人格者でもあり、長年連れ添った先妻を失って5年後に娘の家庭教師として自宅に通っていたアンナと再婚した。

彼女は元々外交官である父親の仕事の都合で外宇宙での生活が長く偏見のない真っ直ぐな性格でロストフ一家の子供達に気に入られた。

父親が政敵に謂れのない罪に問われ一族全員殺されそうになった時、ロストフと彼の子供達がアンナを救うべくニコライと再婚したのである。

ミケでも名門のロストフ家に嫁いだ事もあって彼女の命は救われたが、ただ彼女の家族及び親類一同は国家反逆罪の名目で処刑された。

そのため、彼女は王室とそれを利用して我が物顔をする連中を憎んだ。

現在、ミケは王政を敷いており国王による独裁政治を行っていて、国王はまだ十歳という事もあってそばにいる執政官が星系を実質支配している。

王族は幼い国王しか残っておらず、執政官一族が支配している。

一部では執政官一族が病死や事故に見せかけて殺したとも言われているが、確証はなかった。

アンナは結婚すると、夫の支援するため外交官の妻としてパーティーに出たりして協力したりした。

彼女は一族を殺された恨みを忘れようとした。

嫁いだ先の家族は親切で優しく暖かい家であったからだ。

彼女が恨みを晴らそうとして行動に出れば国王を裏で操る執政官一族がここぞとばかりにお家を潰しに出て来るのが見えていたからだ。

だが、時代は彼女を復讐の鬼へと変えた。

執政官一族が、国王の権力を利用して民への暴虐無尽の行為に怒りが爆発してしまったのだ。

そんな時、偶然にも彼女は在レイ地球大使館の駐在武官に接触する。

彼女は初めはレイに情報提供をすべくレイ星人に接触したかったが、生憎レイとは戦争状態のため接触する機会がなかった。

そこでレイとは親密な関係である地球と接触した。

地球とは友好的とはいかないが、少なくとも戦争状態ではなかったので近付いた。

最初に何でもない情報提供をして相手の信頼を得ようとアンナは外交の秘密文書を提供し、それを得た統合軍2局は裏取りをして事実であると突き止め正式に彼女をモグラとして採用した。

地球連邦統合軍の立場的には仮想敵星でもないミケにスパイを作るのはどうかという意見もあったが、親密な友好関係を結ぶレイ政府からの参戦要請もあり将来的になりうる可能性も考慮して彼女を採用した。

彼女は唯一外宇宙星系が鎖国に近い外交政策をとるミケに作ったスパイとなった。









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