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第3話

 m9(^Д^)プギャー


 エレベーターから降りた俺を迎えたのは、まさしくAA通りに指差して爆笑するニルの笑い声だった。憮然としてその笑い声を受ける以外にない。


 どうせ間抜けでしたよ!


 だが、そこに居たのは、ニルだけでなく、知らない女性がもう一人居た。その人も失礼なことに俺を指差して笑っている。見事なダブルプギャーだった。


 皆で笑うがいいさ・・・。


 二人はひとしきり笑うと、ソファーを立って、こっちに来た。


 この人も超絶美人だ。ニルとはタイプが違う。こちらは見た感じ女戦士だ。ボリュームの多い髪を背中まで伸ばし、肌はやや日に焼けている。堀の深い美貌は凛々しさと清廉さを併せ持っていた。

 背が高く、これまたグラマラスな肉体を誇っている。女性らしいふくよかさを持ちつつ、その中身はしなやかで発達した筋肉が透けて見えるようだった。筋肉に支えられた大きく突き出した胸に、武芸で鍛えられた太ももとお尻の張り、くびれた腰つき。

 まさに凶器だ。男を魅了してやまない凶器と言うのもあるが、純粋な意味でも凶器として鍛え込まれていそう。この体に思いっきり抱きしめられたら、文字通りいろんな意味で昇天できるだろう。

 男の理想の死に様のひとつだな。


 しかも、この女戦士、この凶悪なボディにビキニアーマーを着ているのだ。水密桃のような豊満なバストを皮に銀で補強したようなトップが、張り付いているだけと評してもいい形できている。申し訳程度に肩当が付いていた。

 腰にはパレオみたいな綺麗な模様の腰巻が巻かれているが、それも後ろと左側の太ももをかすかに隠しているだけで、ローライズなパンツが見えていた。薄っすらと6つに割れた腹部も丸出し。足甲も脛までしかないので、ムキとした太ももが惜しげもなく晒されている。

 あまりの露出度の高さに、目のやり場に困る。ビキニアーマーの女戦士は始めてみたが、あんなのに防御力とかあるわけがないよな。

 腰に佩いたブロードソードとグレートソードの中間のような大剣がなければ、ビーチでコスプレしてるネーチャンにしか見えない。


「あら。私を放って、他の女に見惚れるなんて、妬けるわね」


 ニルが茶化すように言う。


「いや、別に、見惚れてなんて・・・」


 アタフタと言い訳する。

 低女性接触率の俺には上手く話を切り返すことなんて出来ない。

 超絶美人に挟まれて、右往左往するのが関の山だ。


「あまり苛めるな。私に見惚れるのもしょうがないからな」


「まあ。筋肉ガチムチがよく言うわ」


「戦士として鍛え上げられた肉体に、尊敬の念を抱くのも無理からぬ話だ」


 女戦士は自慢げに胸を張って答える。ニルに勝るとも劣らない巨乳がプルと震えて、俺の視線を捉えて話さない。


「あなた、日本人を舐めてるわ」


 ニルがそう言う。良く我が国の文化に精通しておられる。

 そう、戦士として鍛え上げられた肉体に純粋に欲情を抱いてしまうところ、俺も日本人だなぁ~と我ながら感心してしまう。


「自己紹介がまだだったな」


 女戦士が涼しげな瞳に親しみを込めて微笑みかけてきた。

 惚けて見とれてしまう。武の女神と芸の女神が降り立った場面に、俺のような一般人が紛れ込んでしまえば、当然の反応だろう。


「私の名はリィールリー・ルーイー。察しの通り『エノスの子』の一人だ」


「リィールリー・ルーイーさんですね」


 俺は何度も口の中で呟いて覚えた。変わった名前の人が多いな。


「俺は伊達明路。よろしく」


「私のことはリールと呼んでくれ」




 3人でソファーに座り、ニルが入れたお茶に口を付ける。


 それにしても、壮観だ。

 ニルとリールが向かいのソファーに腰を掛けているが、絶世の美女を二人も視界に入れて眺めることが出来るなんて。今までの俺の人生では考えられない。ここはまさに天国だな。エノス様様だ。


「で、リールは何しに来たの?」


 と、早速砕けた調子になってしまった。

 エノスの子同士は緊張感が無くなってしまうから、どうしても口調が軽くなってしまう。

「ああ、久しぶりに新人が来たということでな。スカウトに来た」


「スカウト?」


「私の所属する組織、GSOに勧誘しようと思ってね」


 GSO? なんじゃそりゃ?


「『エノスの子』といっても1100人ほどいれば派閥も出来るわ。大小様々な組織があるけど、大きなのが3つ。そのうちの一つがGSOよ」


 ニルが説明を引き継いだ。


「3つの組織にほとんどの『エノスの子』が組織に所属しているわ。その3つ以外は、ほとんどが3~5人程度の小さな組織がだけど。アキもどこかの組織に所属することになると思うわ。目的があるならなおのことね」


「3つもあるのか」


 三国志みたいにややこしいことになってなきゃいいけど。


「一つ目が、私が所属しているGSOだ。正式名称は安眠機構グッドスリープオーガニゼーション。略してGSO」


「安眠機構?」


 これまた変わった名前だなあ。センスを疑う。


「エノス神が封印されて眠りについている話は聞いたか?」


「まあ、大雑把に」


「それで構わない。今居るこの世界も、私たち自身も、寝ているエノス神の夢に過ぎないことはわかっているな。エノス神が目覚めた場合、この世界がどうなるか見当も付かない。ここだけじゃない。他の世界にも確実に影響は出るだろう。我々は、世界と我々の継続的な存在維持のために、エノス神には寝ていてもらいたい。そのために、エノス神によい夢を見れるようサポートしたり、眠りを妨げるような刺激を排除したり、というような活動をしている」


「なるほどね。保守派って感じ?」


「まあ、そんな感じだ。そして、2つ目がオハ同。正式にはおはよう同盟だ」


 おはよう同盟。略して、オハ同。致命的なセンスの欠如を感じ取れるな。グッドモーニングアライアンスでGMAでいいじゃないか。なぜオハ同?


「こちらはGSOと反対の立場で、エノス神を起こそうとしている」


「起きたら、元も子もないんじゃない?」


「そうだな。だが、彼らは今の現状を歪なものとして捉えている。この狭間に創世神が封じ込められている状態が長い間続き、限界を超えたとき、全世界に破滅的は結末を与えるのではないかと主張している。被害が少ないうちに目覚めさせた方が良い。今のところ他の創世神と対立しているようなところがないし、目覚めたからといって、我々が消えるとは決まっていない。逆に目覚めて消えたとしても、それはエノス神に回帰するだけのことで、むしろそれを望むものもいる。長い間、動きのない現状を打破したいと考えるものたちもいるのだ」


「こっちは革新派か」


「まあな」


「この2つの組織は対立してるわ。GSOもオハ同も主張が推測によるものだから、どちらが正しいともいえない。だけど、こうした水掛け論をずっと続けているのよ」


「敵対的とまでは行かないけどな。オハ同のやつらにあったら、イヤミを言うぐらいはするが。よくも悪くも我々は『エノスの子』だ。本気で憎み合えるわけじゃない」


「最後の一つが、私が所属している異世界探査評議会よ。略して、評議会とか議会とか言われているわ。性質は先の2つとは全く異なる。エノス神を眠らせよう、起こそう、そういった主張ではないわ」


「評議会ね。どちらでもない? どっちよりとかもないの?」


「ないわね。そもそも成立ちが異なるもの。議会の設立は、現存する組織のうちで最も古いの。初期の『エノスの子』らによって立ち上げられたこの組織の目的は、異世界の探査。ここで言う異世界とは、すなわちこの場所。このエノス世界こそが異世界だと思われていたのよ」


「ああ、なるほどな」


 確かに、今の俺にもここは異世界だ。

 何の説明もなければ、ここを調査しようとするだろう。


「探査が進み、色々な事がわかって、そこからGSOやオハ同といった組織に分かれたの。今ある組織のほとんどが評議会を母体としたものよ。今の活動は、探査をエノス世界のから他の異世界に移して、他の異世界の探査及び結果の審議を行っているわ」


「はあ。なんかデカそうな組織だな」


「組織の規模で言えば、うちのGSOが一番だ」


「あら? そんなんだ」


「意外とみんな保守的なのよ。今の現状をそれなりに愉しんでるしね。あと、うちは初心者勧誘をしていないから、規模が一番小さいの」


「まあ、勧誘されてないしね。そんな組織があるなんて、今知ったぐらいだし」


「ここで暮らすうちに手取り足取り教えるつもりだったわよ?」


「そこで、私が来たわけだ。GSOは新人大歓迎だし、サポートも充実しているぞ」


「部活の勧誘みたいだな」


「似たようなものね」


「そうだな。正直なところ、みな暇なんだ」


「俺の目的から考えると、評議会が一番合致してるんだけど」


「ごめんねぇ~。まだアキにはうちに入る資格がないのよね」


 う~ん、残念だ。議会にいければ少しはヒントがもらえるかもと思ったのに。


「あ、でも安心して。約束どおり、手助けはしてあげるわよ」


「であれば、十分かな」


「なんだ? やけに肩入れしているな」


 リールがニルに胡乱げな眼差しを向ける。その視線を受けてもニルはニンマリと笑うだけで答えない。

 その笑みをみて、俺のほうが不安になってくる。


「この女はやめておけ。GSOにくれば、私が面倒見るぞ」


 思わず、はいと言いそうになる。


「だめよ。アキはもう私に夢中なんだから。それに議会に関係なく、私が面倒見てあげる約束しちゃったし。ポッと出の筋肉女は引っ込んでなさい。アキも筋張った固い筋肉女はいやよね~」


 こっちに振るなよ。

 リールがじと~っとこっちを見ている。いや、何もないから。リールが疑念の抱くようなことは何もないから。


「ほお~。アキミチは二の腕がプルンプルンの女が趣味だったんだな。それは気付かなかった。確かに、私は二の腕プルンプルンじゃないからな」


「誰の二の腕がプルンプルンなのかしら? キンニクさん?」


「訊かなければわからないかな? プルンプルン?」


 竜虎合間見えるという感じで、二人が睨み合っている。表情は両者とも微笑んでるのに、目だけが笑っていないのが、余計に怖い。

 何で、こんな修羅場みたいになってんだ。女の子と付き合ったことすらない俺にはこんな空気耐えられないんですけど。


「いや、よく鍛えられた最良の筋肉って、実は力を抜くと凄くやわらかいって聞くし、リールの筋肉も柔らかそうで、好きだよ! あと、ニルの二の腕全然プルンプルンなんてしてない。ほっそりしてるよ。黄金率だよ! 俺は好きだよ、ほっそりした二の腕!」


 必死だ。俺、必死すぎる。二人の放つプレッシャーに負けてしまった。

 ソファーから立ち上がって必死でフォローしてる俺に、二人はしょうがない子ねと微笑んだ。


 姉を二人持つって、実はかなりジゴクなんじゃないか・・・?




 ◆◆◆◆◆




「・・・なるほどな。そう言うことなら、わからないでもない」


 リールに今までの自分の状況と目的を話した。


「ああ。だから、この件が片付くまで、組織については保留にしておきたいんだ」


「自分の死のせいで悲惨な末路を辿る少女を救う、か。なかなか見所があるな。いいだろう。私もGSOとは関係ないところで、出来る限り力になってやろう」


「それは助かる」


 ありがたいことだ。協力者が増えるのは、正直心強い。

 ニルのほうを向くと、拗ねている、ということはなく、なぜか苦笑していた。


「ニル、リール、よろしく御願いします」


 俺は二人に頭を下げた。




 異世界に行くため、外部接続ハッチの前に立つ。


 ニルがハッチを空けた。


「ここから、さっきアキミチが死んだ場面に放り込めばいいんだな」


 リールが聞いてきた。今度はリールが俺を放り出すのか? リールはニルよりも背が高いので、俺を持ち上げるなど造作もないだろうが。ゴミでもポイ捨てする感じで放られると切ない気持ちになるんだよな。


「ああ、頼む」


 俺はリールに向き直った。


「わかった」


 リールは気軽にそう言うと、俺の額を鷲掴みした。


「え?」


 ミシミシっと頭を締め付けるような圧力が掛かり、そのまま上へ持ち上げられた。ベアークローで俺を掴み上げているのだ。足が床から離れ、プランプランしている。


「い、痛い。リールさん、痛い。こめかみに指が食い込んでる」


「ここに指を引っ掛けると持ちやすいんだ。我慢しろ」


「違うから! 人間そうやって持ち上げるもんじゃないから! こめかみは人間持ち上げるためのとってじゃないから!」


「すぐ終わるから、黙ってろ」


 リールは俺を持ち上げたまま、ハッチから身を乗り出し、そのまま俺を狭間に放り投げる。グキっと言う音が首から聞こえた。


「グギャアアアアア!」




 気が付くと、真っ暗闇の中だった。


 生暖かい膜の中に全身すっぽりと覆われており、その中で粘ついた粘液の中に浸されている。物凄く息苦しい。窒息しそうだ。


 クソ・・・。リールめ。

 首が痛いじゃ・・・。


 そこで、俺は唐突に思い出した。


 うわあああああああああ! 俺食われてるんだったぁぁ!


 窮屈な中、拳を握り、左腕で粘膜を押し広げて出来た隙間を利用して、ひたすら突きまくった。

 早く出なければ、ここはアンコウモンスターの胃の中。おいしく消化されてしまう。


 パンチで腹をぶち破るイメージを頭で固める。

 拳を握り、力を込めて。

 打つ。

 打つ。

 打つ。


 アンコウの体と体の上に被さっている土砂ごと吹き飛んだ。


 新鮮な空気が入ってきて、息苦しさから開放された。俺はアンコウの体から這い出て、地べたに座り込む。


 あせった。いきなり危機的状況だった。

 必殺パンチが発動したから何とか助かったけど。ホントに危なかった。


 俺は深呼吸して立ち上がった。

 アンコウのいろんな体液でベットリを全身が濡れている。近くの木の葉を使い、出来るだけ粘液を拭う。気持ち悪いから、風呂に入って、服を洗いたい。


 ふと顔を上げると空が赤くなっていた。


 夕暮れだ。


 森の中だと、余計に暗さが増してくる。




 この世界に来て、初めての夜を迎える。




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