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第1話

 気が付くと、俺は森の中にいた。

 鬱蒼と茂る深い森の中は日の光も届かず薄暗い。


 さて、ここはどこだ?


 俺は森の植生を見てみる。

 葉の大きさを見れば、ある程度の緯度は見当が付くはずだ。

 温度と葉の大きさから、寒冷地でないことは確かだ。それと、亜熱帯と言えるほどの暑さもない。

 温暖湿潤。地球で言えば、日本と同じぐらいの気候地域に思える。日本の気候に慣れた俺が、違和感を感じない程度には、似通った気候といえるだろう。


 なんにしろ、ありがたいことだ。


 格好つけて異世界に来てはみたものの、どうやって元の世界との繋がりを見つけようか?

 とりあえず、森を出ないことにはどうしようもないな。

 人が居れば、何か情報収集できるかもしれないし。


 言葉は・・・そのとき考えるか・・・。いざとなれば、ボディランゲージとノリで何とかするしかないだろう。


 俺は適当に歩き出した。




 ◆◆◆◆◆




 2時間ほど歩いただろうか。


 草を掻き分け、木の枝を避けながら、森の中の道なき道を行く。


 日本が春のときでよかった。

 俺の服装は、ジーパンに、襟の大きい開襟シャツとジャケットを着ている。これが夏でTシャツとハーフパンツにサンダルなんて格好をしていたら、こんな深い森、歩けやしない。贅沢を言えば、革ジャンを着ていたかった。春物の薄手のジャケットは森の中で活動するには心もとない。


 しかし、大丈夫なんだろうか?


 歩けども歩けども、代わり映えのしない森の中。


 方角ももわからず、どちらへ行けばいいのか見当すら全く付かない状態で、適当に歩いてるのって、いわゆる遭難ってヤツじゃないのか。


 ていうか、遭難してる。確実に。


 急に不安になってきた。


 まずは持ってる道具を確認しよう。


 背負っていたデイバッグを開いてみる。中には教科書一式とノート、あとは筆箱の中に筆記用具一式。スマホ用の充電器とバッテリー。あと百円ライター。ポケットの中にはキーホルダー代わりにしていた十得ナイフ。


 百円ライターと十得ナイフは役に立ちそうだ。

 筆記用具もいずれ役に立つかもしれない。

 他は、役に立たなさそうだな。


 百円ライターと十得ナイフなんて、何で持ってるのかだって?


 おいおい、災害大国日本に住んでるんだぜ? これぐらいのものは日常的に持っておくべきだろう。

 もし地震が起こったり、富士山が噴火してドラゴンヘッドになったり、バイオ兵器が漏洩して街中ゾンビだらけになったらどうするんだ?


 煙草を吸わないのでジッポじゃなくて百円ライターだったり、銃刀法のせいで十得ナイフがビクトリノックスのミニシリーズだったりするが、ないよりマシだ。


 ホント、持ってて良かった。人間いつ異世界に飛ばされるか、わかったもんじゃないからなぁ。


 財布の中身も見てみる。カード類は役に立たないとして、お金のほうは6737円ほど入っている。とはいえ、紙幣なんてジンバブエドル並に役に立つのか疑問だ。多分、硬貨のほうが役に立つだろう。何かの道具として。


 スマホをデイバッグの中に入れ、十得ナイフとライターをズボンのポケットに、ハンカチとティッシュをジャケットのポケットに入れて、歩き出した。


 あとは、食料も大事だよな。

 何とかして確保しなければならない。


 今まで適当に歩いていたけど、ちゃんと注意深く歩かないとな。


 特に食べられそうな木の実や木の葉が見ておかないといけない。木の実を確保しながら歩かないと、栄養失調で餓死なんて勘弁願いたいからな。


 さっきよりも進む速度は遅くなったが、漫然と歩くよりはいいだろう。


 早速、木の実を見つけた。

 やや背の低い木にいくつか生っている。



 枇杷のような果物だ。


 これで食べられれば、かなりツイてるぞ。


 色は黄色だが一寸だけ赤みがかっている。今までの常識で考えると熟れ頃に見える。だけど、異世界だからなぁ。

 匂いを嗅いでみるが、それほど強い匂いはしない。やや甘めの匂いだ。だが、慎重になるべきだ。皮を剥いで果肉を出した途端ドリアン臭がしたら、リバースする自信がある。


 ポケットから、ビアトリノックスを取り出し、ブレードを出した。

 キーホルダーになるような十得ナイフのブレードだ。正直ちゃちい。

 ブレードを使って、ある程度皮を剥いで見る。


 大丈夫だ。変な匂いはしない。


 さらにブレードで小さく果肉を切り取る。イキナリ齧り付いたとして、もしケムンパスみたいなのを歯でプチュっとしてその内容物が口の中に広がりでもしたら、リバースしながらローリング悶絶して、スプリンクラーみたいになる自信がある。


 切り取った果肉をブレードに刺し、目の前に持ってきて、慎重に観察する。


 よし。ケムンパスはいない。


 思い切って、口の中に入れてみた。


 うまい!


 直感や噛んだ感じは桃に近いか、味としてはオレンジの果汁に桃を漬け込んで、味を調えたような、柑橘系の酸味と桃の甘みが程よく混じっているような。

 かなり美味い。


 正直、地球での完熟マンゴーに匹敵する美味さだ。


 異世界、侮れんな。


 ブレードで切り取りながら、慎重に食べ進む。

 あっという間に、芯を残して、全部食べつくした。


 結局ケムンパスは居なかった。

 野生の果実だからかな? 虫に強いのかも。


 こいつは、見た目と味から、ビワレンジと名づけよう。


 俺は木に生っているビワレンジの中から、よく熟してそうで、虫も病気もなさそうなのを選んで、数個もぎ取った。嬉々としてデイバッグに仕舞い込む。


 いや~。いいもんを見つけた。これは幸先がいい。異世界と言っても大したことないな。まあ、チュートリアルみたいなもんだろ。


 あとは、水さえ確保できればなんとかなるかな。


 チュートリアルの森だし、すぐ見つかるだろ。


 俺は意気揚々と歩き出した。




 ◆◆◆◆◆




 さらに1時間ほど歩いた。


 草を掻き分けつつ進むが、これといって特に変わった発見はない。慣れない森歩きに疲労が溜まってくる。

 そろそろ異世界トリップ特有のイベントとか起こってもいいんじゃないか? 森に居るんだから、エルフとか出てきてもいいんじゃないか?


 だが、何も起こりそうにない。


 俺のイベントエンカウント率の低さが発揮されているのか?


 そのとき、


「きゃああああ!」


 前方から悲鳴が聞こえてきた。


 きたか! イベント!


 俺は悲鳴の聞こえてきたほうに向かって駆け出す。

 草や枝がジャマだが、必死で掻き分けて走った。


「はあ・・・はあ・・・」


 当たり前だが、普通に走るよりも疲れる。


「きゃああああ!」


 また悲鳴が聞こえる。


 急いで声の方向を確かめつつ、走る。

 ガサッと草をどけてると、少し開けた場所に出た。


 俺はその場面に出くわした。


 蹲る少女に、熊が這い寄る場面に・・・




 くま?


 かなりデカイ熊だ。


 熊はノッソリノッソリと少女のほうに這って行く。


 少女は蹲ったまま動けない。


 このままでは、少女は無残なことになるだろう。




 だが、熊だぞ!

 どうにかなる相手じゃない!


 しかし・・・ええいっ!




 俺は熊に向かって駆け出した


「逃げろ! 早く逃げろ!!」


 俺は少女に向かって叫んだ。


 熊を俺にひきつけて、その隙に少女を逃がす。少女が逃げたあと、こっちも何とかやって熊を撒くしかない。


 それに俺は『エル・エティ・エノス』の化身であり、さらに異世界転移者だ。何らかのチート能力に目覚めているに違いない。いや、目覚めているべきだ!


 俺は一縷の望みを掛けつつ、ライダーキックよろしく、飛び蹴りをかました。




 吹っ飛べ! クマ野郎!!




 ポフっと優しく熊の毛皮に受け止められた。俺の渾身の蹴りが・・・


 熊がのっそりとこちらを向く。

 邪魔をされた怒りと殺意がその凶悪な相貌に浮かんでいる。

 俺はその視線に射すくめられ、後ずさった。


 体が震える


 怖い・・・


 この熊は本当に俺を殺す気だ。


 ヒグマなんか目じゃない。野生の獣、いやモンスター。魔物だ。熊の皮を被った魔物だ。体から漏れ出す圧倒的な暴力の衝動。


「グルルルッ」


 熊のうなり声に、俺の体がビクッと震える。


 心臓がバクバクとかつて無い程激しい鼓動をたてる。気分が悪くなり、吐き気がこみ上げてきた。




 逃げろ。


 熊の気はもう十分に引き付けた。


 走り出せ!




 しかし、体は動かなかった。


 ガクガクと震える足は一歩も動かない。


 熊の放つ凶暴な威圧感と殺意が、俺の体を恐怖で縛っている。




 熊が体をこちらに向けて走り出した次の瞬間。


 俺の目の前にとてつもなくでかい壁があった。


 すぐ目の前に熊が仁王立ちしているのだ。


 速い・・・速過ぎる。


 地球の熊と比較にならない俊敏さ。


 俺は恐怖と絶望で動けなかった。




 甘かった。


 異世界なら、こんなモンスターと出くわすことになるかもしれない。


 そう考えるべきだった。軽く考えすぎてた。


 終わる。こんなすぐに終わってしまうなんて。




「ガアアアアッ!!」


 熊が咆哮を上げる。


 恐怖のあまり気が遠くなってきた。何も考えられない。


 熊が手を振り上げる。


 俺は呆然とそれを見ていた。


 熊の相貌が嗜虐の愉悦に歪む。




 熊の振り上げていた手が霞んで見えた。あまりにも高速で振り下ろされたためだ。


 俺は何の反応も出来なかった。


 熊に力一杯頭を払われた。


 自分の頭が砕ける音を聞いて、俺は死んだ。




 グシャッと




 ◆◆◆◆◆




 次の瞬間、エレベーターがポーン柔らかな電子音を立てて止まった。


 エレベーターの扉が開く。


 俺はよろよろと半ば心神喪失した状態でエレベーターを出る。




 そこに広がるのは、前と同じエノスの中の受付ロビーのような広間。

 ニルはソファーに寝転がりながら、女神に匹敵するその美貌をこちらに向ける。


 帰宅を迎える姉のような気安さで言った。




「おかえりなさい。意外と早かったわね」



推敲する時間が無い・・・

話を早く進めたいし・・・


時間がほしい。

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