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序章3

 俺は頭を抱えてうなだれていた。


 しかし、よく考えてみると・・・


 というか、世界自体を内包してしまうような創世神クラスに操られていたからと言っても、スケールがでかすぎて、理解の範疇を超えてしまう。

 そもそも、世界の意思以上の存在のものに運命を弄ばれたとして、今この世に生きているうちの人間の何人が、そうじゃないと否定できるんだ? 考えれば考えるほど、その実証及び反証に意味がなくなる。


「俺は、今、自分自身を、自分の意思そのものを、完全否定されたはずだ・・・。なのに、なぜかな? 俺が俺である事を、やめられない」


 思考停止に陥ってしまったのだろうか?

 俺は自嘲的に唇を歪めた。


「『我思うゆえ我在り』――全てが否定された跡に残された最後の一滴。それを手放す必要なんて、ないのよ」


 ニルは慈愛に満ちた微笑を浮かべた。

 それはとても美しく。

 女神のようだった。


「私もそうだから。自分であることを、やめられなかったから・・・」


 ニルはソファーから腰を上げた。きっと、俺を抱きしめて、慰めようとしてくたのだろうが、俺は手を上げて、ニルを止めた。


「大丈夫。俺は大丈夫だ」


 俺の様子を見たニルは、ソファーに座りなおした。

 どうせ、俺の考えていることなんか、お見通しなのだろう。


 ニルは微笑んでいた。




 ◆◆◆◆◆




「ここが、俺にとってのあの世かぁ」


 周りを見回したが、どこかのビルの受付ロビーにしか見えない。

 ここが、天国の門となるか、地獄の1丁目となるか。俺にはわからないが、不思議と不安にはならない。近未来的な見た目なので、俺ごのみだからと言えば、そうなのかもしれない。


「そういえば、俺はどんな物語の主人公だったんだ?」


 いっそ、開き直って、聞いてみた。


「普通の人生過ぎて、邪神が体験したいようなことを体験した覚えがないんだけど」


「ああ、それなんだけど・・・」


 ニルは顔を伏せて、表情を曇らせた。

 また、複雑な話があるのか・・・?


「実は、アキは自分の役割を演じてないないのよ。とても残念なことに・・・」


 ニルは、はあと深い息をついて、残念そうな顔をする。


「演じる前に、死んでしまったの。でも、安心して。私もそうだから。エノス神が課した運命を何かの拍子に逸脱してしまった存在。それが、私たちだから」


 表情を切り替えて、安心させるように微笑みかけてきた。

 マジ、女神だな、この人。

 でも、なんで残念なんだ・・・?


 俺の疑問をよそに、ニルの話は続く。


「私たちは、神の化身、神自身として、物語の主役として作られたものなのだけれど、かなり低い確率で、役割を演ずることなく、死んでしまい、運命から逸脱してしまう者が出てくるのよ。いわば、バグのような存在」


「運命から逸脱?」


「神に課せられた運命。自らの役を演じることから外れてしまった。演ずべき役から逸脱してしまった私たちは、純粋に神の化身としての存在になってしまうのよ」


「キャラクターとしての役目が外れてしまって、ディスプレイ兼プレイヤーになってしまった、ってこと?」


「そうよ。『伊達明路の役を演ずるために』『神の化身として、神の一部から作られた存在』だったものが、『伊達明路の役を演ずるために』の部分がなくなって、『神の化身として、神の一部から作られた存在』だけになってしまったのよ」


「今も、伊達明路のつもりなんだけどな、俺は」


「役がなくなっても、役者は残る。役と役者の人格が一致していただけ」


「う~ん。全く実感がない」


「本人に自覚はないし。言葉にすると、大したことがないように思えるけれど。存在自体が変化してしまったような、凄く劇的な変化なのよ、これって。もっと純粋にエノス神と繋がる者になったの」


「あぁ~、・・・よくわからん」


「じゃあ、実感の一つの例として。アキは私と話していて、口調がどんどん馴れ馴れしくなっているの。自覚しているでしょう」


「ああ、それは、まあ」


 改めて、指摘されてしまうと、失礼なことをしてしまったなと思うが。なかなか口調が戻せない。何度か改めようと敬語に戻しても、すぐに戻ってしまう。


 ニルに対する親近感が話すごとに増していくのがわかる。

 もやし屋の跡継ぎ並にシャイボーイな俺が、超絶美形のおなごと、しかも、年上の! 御姉様と! お話しいるのに、こんなぞんざいな口調になるなんて。


「エノス神と繋がる者としての存在が、剥き出しになっているせいよ。私たちは全く同じ目的のために、全く同じものを元に作られている。エノス神を通じて、私たちはより強固な結びつきがあるの。クローンや双子も強い絆。魂の姉弟なの」


「なるほど・・・魂の姉弟」


 ずっと感じている親近感は、そのせいか。

 まじめな・・・自分の魂に起因するような話をしているのに・・・


『魂の姉』というフレーズに心揺さぶられている。

 そういう場合じゃないだろ、俺! でも、姉だ。どんなに望んでも、弟か妹しか持てない俺としては、魅惑のフレーズだ・・・。かなり、マズイな・・・。


 ニルにニンヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。


 非常にマズイ。この女、気づいてやがる。俺の弱点に、気づいてやがる。


「『おねえちゃん』って呼んでいいのよ?」


「な、な何言ってんのか、わわかんねーし! そんなん呼ばねーし!」


「じゃあ、『先輩』は、どう?」


「・・・・・・」


 マズイです。長谷川遥先輩、マズイです。先輩の座が奪われようとしています。


「じょーだん。じょーだんよ。真剣に検討しないの」


 もうしょうがない子ね、と笑われた。


 悪くない。非常に悪くない・・・。




「ところで、俺たちみたいなヤツって、結構いるの?」


 誤魔化す為に、適当なことを聞いた。


「そうね。大体、1100人程度かしら」


「結構いるな」


「あのね。そもそも母数が違うのよ。エノス神がいつからこんなことやっているのかはわかっていないけど、観測されている累計は約10兆強。その中から1100人よ。確立としては、約10億分の1。多いと思う?」


「天文学的になってきた」


「もともと天文学よりスケール大きい話だからね」


「だとすると、結構多いんじゃない? そもそもエノス神て、創世神クラスだろ? 全知全能の神が約10億分の1の確立でバグを出すなんて」


「自分に内包する世界に関しては全知全能だけど。私たちは別の創世神世界に送られているから。いろんな干渉もあるでしょうし、許容誤差の冗長性がないと計画ものがたり事態が破綻してしまうわ」


「なるほどな。ある程度、精度が制限されるのか」


 約10億分の1の確立か。それと、エノス神の化身が約10兆。全世界の人口なんてわからんが、かなりの数だろう。無限分の10兆(そんな数存在しないが、0に限りなく近いと言う意味で)。そこから、さらに約10億分の1。となると、俺はかなり凄い存在のような気がしてくる。


「役を演じきった約10兆強も、俺たちと同じになるのか?」


「いえ、役を演じきるということは、ちゃんとエノス神自体に回帰して、その人生を奉げ切ったということ。彼らは残っていないわ。回帰した後、どうなるのか、わからない。また役を与えられて、どこかの世界で暮らしているのかもしれないわね」


「そうか・・・。でも、俺たちはなぜ回帰しないんだ? 死んだら、エノス神に戻るんだろ?」


「私たちは想定外の存在なのよ。つまりは・・・」


「エノス神に面白がられている」


「そういうこと」


「どっちにしろ。エノス神からは逃れられないってことか」


「エノス神にいい印象がないみたいね」


 そりゃ、まあねぇ。


「私たちは、より深くエノス神と繋がっている存在。ならば、いずれわかるわ。私たちは面白がられているとともに、愛されている。エノスの子らとして、愛されているって。それがある程度感じられるから、今だって、あなたはエノス神を憎めない。」


「・・・まあ、ね」


 今も、そこまで、悪い気分じゃないってことは、わかっている。

 繋がっているが、エノスの心が理解できないからといって、自分が世界から拒絶されているって感じがしない。

 今いるこの場所だって、居心地は悪くない。




 ◆◆◆◆◆




「でも、さっきも聞いたけど。俺の役って何だったの? それってわからないもんなの?」


「実はわかるわ。私たちには閲覧することも可能なの。私好みのお話みたいだったから、ここに来たんだけど。役を逸脱して、エノスの子になる瞬間が見れるなんて、こんなことってあるのね。私がここにいたのは、ホントに偶然だったのよ」


「え、そうなの。俺がその『エノスの子』になったから、いたんじゃないの?」


「いいえ。久しぶりにエノス劇場を見ようと思って、好みのカテゴリーを検索して、ちょうどいいのがあったから、その子のロビーセクターまで行って、直接見てたの。そうしたら、びっくり」


 色々、わからない単語が出てきたな。エノス劇場? ロビーセクター?

 まあ、いい。それはおいおい聞くとして。

 俺はどのカテゴリーに居たんだ?

 ひょっとして、実は凄いアドベンチャーをする予定だったのか。俺の心の師である、あの赤毛の冒険家みたいに。

 もしくは、ミステリーかも。教授だって探偵する世の中だ。大学生探偵なんて居てもいいはずだ。


「で、その、好みのカテゴリーって?」


「BL」


 は?


「は?」


 理解できなくて、心と口で、2回言っちゃった。


「だから、BL。ボーイズラブ」


「えっ・・・、ちょっと待って。ちょっと待って。え・・・なに・・・BL? ボーイズラブ? ホモ?」


「そう。BL。アキの総受」


 ここに来てからの会話の中で、最も理解できない。したくない!!


「腐女子?」


 震える指で指差すと、いやんと乙女の顔で恥らった。


「え、どういうこと? おかしい。 俺ノンケだし。ホモじゃないし。女の人が好きだし。男見てもなんとも思わないし・・・」


「ばかね! そこがいいんじゃない!」


 とてもいい笑顔でニルは言った。


「ノンケの子が、無理矢理やられちゃって、心も体も拒否してるのに、なのにだんだん感じるようになってしまうの! 調教されて、体は快感を覚えてしまって、拒否できなくなって。そして、調教が進むうちに、心さえも受け入れ始めるのよ! セックスを・・・男を・・・ヤオイ穴の快楽を!」


 おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい・・・


 俺は耳を塞ぎ、すべてを拒絶する。

 ダメだ、この女の言うことを聞いては。この女は悪魔だ。


「でも、まさかアキBL編に突入するためのきっかけになるはずの女の子を庇うなんてねぇ。本来ならあの子の方が死ぬはずだったのに・・・」


「え・・・?」


 また、不穏当なことを言い始めたぞ、この女・・・


「あの階段の事故。実はアキは桐原蒔絵、あの階段を落ちてきた女の子だけど、を助けられなかった。目の前で転がり落ちるのを呆然と見ていることしか出来なかった。桐原蒔絵はその事故で死亡してしまうの。見ていることしか出来なかった自分に自己嫌悪を感じて、お酒を飲むようになるわ。そして、二週間めのある夜、あるバーで飲んでいたとき、超美形に声をかけられるのね。そして、酔ってたアキはホイホイ付いていってしまうわ。まあ、男に声を掛けられて、マンションに連れて行かれたからって、何が起こるとも思わなかったのね、アキは。ノンケだから。でも、その男、実は鬼畜系貴公子だったの。マンションに入るなり、アキはやられちゃって、一晩中、鬼畜貴公子の鬼畜攻めを受けることになるの。そして、その全てを動画に取られて、脅されるのよ! その脅しに屈したアキは、毎晩のように行われる鬼畜貴公子の鬼畜調教を受けまくるようになるの!」


「違う・・・ありえない・・・。そうだ。俺はごく普通だ・・・。ありえないんだ、超美形なんかに興味もたれるはずなんかない。そう、そうだよ。俺みたいな凡人が歯牙に掛けられるはずないんだ・・・」


「わかってないわね! それが良いんじゃない!」


 悪魔は俺を絶望に叩き落した。


「平凡な、十人並み程度の男の子が、次々と超美形の男たちにやられちゃうのが! しかも、超美形の男たちも夢中になっちゃうのよ! だからこそ、アキを逃がさないよう、より素敵な鬼畜調教をしちゃうのよ! 調教を強いられてるのよ、アキに!!」


「ふざけんなぁっ!! 次々ってなんだぁ!! 一人だけじゃねーのかよっ!!!」


 俺の怒声は、もうほとんど悲鳴だった。


「当たり前でしょう?」


 どうしてだ・・・、なぜそんなこともわかんないの? って顔で俺を見る?


「最初の美形Aに鬼畜調教を受け、快感に目覚めたアキ。でも、心は拒絶している。そのとき美形Aの婚約者で年上美女Aに助けられて、男の下から脱出するわ。美形Aの知り合いの美形Bのもとに身を寄せるの。美形Bは美形Aとは仲が悪いからね。でも、一見、知的で優しげなメガネ美形のBも実は鬼畜メガネだったのよ! 美形Aへのあてつけにアキは美形Bにやられちゃうの。その一部始終を動画に取られて、美形Aに見られちゃうの。無理矢理なのに段々感じるようになって、最後にはいきまくちゃう様を。一部始終! 美形Bも最初は美形Aへのあてつけだけのつもりだったのに、だんだんアキに夢中になって。『あいつのことは忘れて、俺を愛せ!』って、鬼畜メガネによる鬼畜攻めの鬼畜調教が始まるの。そのうち、アキの心のほうも快楽を受け入れてくるようになるの。でも、そのとき、美形Bの妹で年上美女Bに助けられる。美形Bの元を逃れるんだけど、そのとき美形AとBの共通の敵である美形Cに攫われて、ワイルド美形Cにやられちゃうのよ! で、また動画に取られて、美形AとBに見られちゃうの」


 何の話・・・してたんだっけ?

 こんな、俺の知らない世界の、小説の、あらすじみたいな、話は、してない、ハズ。


「美形Cから鬼畜調教を受けているうちに、アキは男とのHなしでは生きていけない体に調教されきってしまうの。美形Cは夢中になって、アキを鬼畜調教するわ。でも、その隙に美形AとBが共闘するのよ。萌える展開だわ。二人は美形Cの部下で年上美女Cの助けも借りて、アキを助け出すの。AとBにはアキを通して友情が芽生えるの。愛といっても良いわ。そして、二人で一緒にアキを鬼畜攻めするのよ。3Pで散々いかされたアキは、とうとう言われるがままにアへ顔ダブルピースするぐらい堕ちてしまう。でも、そこに美形Cの上司で、ナイスミドルの美形Dが・・・・・・」



 うそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだ・・・。

 俺じゃない俺じゃない俺じゃない俺じゃない俺じゃない俺じゃない俺じゃない・・・。

 逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい・・・。




「嗚呼、エノスよ! 流石は、我が神よ! わかってる! わかっていらっしゃる! 私はあなたの子として、永遠の忠誠を奉げます!!」


 俺は嫌だ俺は嫌だ俺は嫌だ俺は嫌だ俺は嫌だ俺は嫌だ俺は嫌だ俺は嫌だ俺は嫌だ。




 ◆◆◆◆◆




「チガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ・・・」


 俺はいつの間にかソファーの上で膝を抱え、耳を塞いで俯きながら、ブツブツと呟いていた。


「だけど! とても、とーてもっ、残念なことにっ!! アキはその役を演じることなく、死んでしまったのよ!! あの、年上美女αこと、桐原蒔絵のせいでっ!!」


 どんっと興奮のあまり机を叩いたのだろう。

 俺は、その音で、顔を上げた。


「ああ、ごめんね、アキ。あなたが『エノスの子』になったことは、とても嬉しいのよ。同じ絆を持つ仲間、真なる兄弟、そんなに簡単に得られるものじゃないから」


 違う。そこじゃない。

 俺が絶望していたのは、そこじゃない。


 でも、良く考えてみれば・・・


「死ぬはずだった女の子、桐原蒔絵だっけ、は助けられたし。俺はおぞましい運命から逃れられた。そう考えると、これで良かったんだ・・・」


 冷静に考えてみて、色々ヒドイ未来を回避できたんだ。

 俺はほっと息を付いた。


「桐原蒔絵が助かった? まあ、生きてはいるから、助かったかといえば、助かったと言えるのか」


 また、この女・・・!


「今度は、なんだよ?」


「桐原蒔絵でしょう? アキのおかげで、生きてるわよ。助かった」


「でも、なにか、あるんだろう? 助かったのは、命だけなんだろう?」


「まあ、そうねぇ」


 ニルは特に興味なさげに気のない返事をした。

 桐原蒔絵自体はどうでも良いらしい。


「アキの死に責任を感じたのね。罪悪感を感じるようになってしまったの」


 あれ? このパターンは・・・


「それから逃れるため、お酒を飲むようになるわ。そして、二週間めのある夜、あるバーで飲んでいたとき、超美形に声をかけられるのね」


「ちょっと待て!! 美形Aかっ!!」


「バカね! 美形Aは、ああ見えてアキ一筋なのよ!!」


「とりあえずコロセ!! 美形A氏ね!!」


「ひどい子ね。裕福な家庭、美しい婚約者にやりがいのある仕事、順風満帆だった美形Aの人生を狂わせたのに・・・」


「俺のせいじゃねーし!! 美形Aなんてどおーでもいいわ!!」


「まあ、アキが劇を降りたから、美形A~Gはちゃんと、エノスの意思が介在しない自分の人生を送ってるわ。彼らは関係ない」


 Gまでいるのかよ・・・

 改めて、自分の業の深い運命に絶望した。


「彼女は堕ちたわ。最初のきっかけは、陵辱だったかもしれない。その後は、ほら、アキの世界にある陵辱もののエロゲやエロマンガ、そのものよ。調教、乱交、強制売春、果ては公衆トイレね」


「マジ・・・かよ・・・」


 ニルは平坦な口調で言う。

 しかし、エロゲやエロマンガも妄想だ。

 現実にはありえない。あってはいけない。


「これを見てみる?」


 ニルがスマホを操作し、俺の目の前に桐原蒔絵の姿を映した。




「これは、ヒドイ」


 そう呟いてしまうほど、見事なアへ顔ダブルピースを晒していた。


 エロ画像を通り越して、グロ画像だ。

 あまりに酷くて、逆に現実感が無くなってしまった。


 ドン引きってヤツだ。


 しかし、あれだな、エロゲやエロマンガだから、アへ顔ってエロいんであって。現実では、髪を振り乱して白目剥いたアへ顔って、もはやホラーだよな。市川昆版の八つ墓村を思い出した。


 喘ぎ声も、ここまで来ると動物の鳴き声と変わらない。


 人間も、理性がなければ、獣と一緒か。


 桐原蒔絵は、複数の男に弄ばれ、陵辱されていたが、その暴力的な快楽を甘受し、溺れていた。また、その快楽を得るために、自分から男たちに飛び掛っていた。


 そこに居るのは、一匹の淫獣だった。




「まさにメスブタね」


 ニルがどうでも良さげな冷たい声で言った。


「アキが劇を降りた時点でエノスの意思はない。美形Aは美女Aと幸せな家庭を築いてる。それぞれが自分の意思で自分の人生を生きている。それは彼女も同じこと。これは彼女の選択」




 ◆◆◆◆◆




「で、あるんだろう?」


「何がかしら?」


「助ける方法だよ」


 ニルはホロディスプレイを消して、スマホを胸の谷間に仕舞った。


「やめておきなさい。あなたのせいじゃないって言ったでしょう」


「確かに、そこまで責任は感じてない。でも、あるんだろう?」


 ニルは呆れたかのように、はあと息を付いた。


「労力に見合わないわ。全世界から見れば、メスブタ一匹、珍しくもない。もっと過酷な末路を迎えるものもいる。アキだって、幸せなほうではないでしょう?」


「まあ、そうなんだけどね。あと、俺は普通だ」


「だったら、良いじゃない。忘れなさい。ここでの暮らしだって、楽ではないのよ?」


「けどね、なんていうかね」


 ニルがすねた顔をする。

 そういう表情をすると大人の中に少女じみた感じがあってカワイイ。


「なによ。特に好きだったとか、好みって訳でもないんでしょう? 私よりは好みだったかしら?」


「まさか。ニルとは比べられないな」


「じゃあ、なぜ?」


「なんか、納得いかないんだよね。折角、俺が死んだってのに助かってないって、どういうことだ、このクソ女。そりゃ、死んだ俺が間抜けだったよ。罪悪感を沸かせちゃったかもしれない。だが、なんだこれは! もっと気持ちよく俺を死なせろよ、後腐れなくさ!」


「呆れるわ。それだけなの?」


「スッキリするためだよ。十分だろ」


 俺はニコっと笑ってやった。

 そんな俺に、ニルはしょうがない子ねと苦笑した。


「ホントに労力に見合わないわよ。アキは今現在、アキ自身が居た世界との因果が途切れている状態よ。何しろ、あなたはエノス神の意思によって生まれてきたのだから。その運命から逃れてしまったことで、あの世界にいる意味も原因も無くなってしまった。だから、今、このエノスの世界にいる。それはわかるわね?」


「ん、まあ、なんとなく」


「このエノスの世界とあの地球世界を繋ぐものがない。あなたを送るための道筋がないの。だから、端的に言うと、帰れない」


「なんとなく、そんな気がしていた」


「だから、あなたはあの世界と自分とを繋ぎなおし、帰る為の道筋を作らないといけない」


「なるほどね」


「そして、エノスの意思が無くなった今、このエノスの世界では、その道筋を作ることは出来ない」


「あ~、なんとなくわかってきた。こりゃ大変だ・・・」


「外の無限ともいえる異世界の中から、自分とあの世界を繋ぐものを見つけて、その繋がりを辿りながら、あの世界に返らなければならない。例えて言えば、砂漠の中から、金の砂粒を探して、それを辿りながら、どこにあるかわからない自分の故郷に帰らなければならないということよ」


「これは、ホントに労力に見合わないな」


「でも、決めたんでしょう?」


「まあね。わがままで悪いな」


「もう、ホントよ」


 ニルは優しげに微笑んだ。




 ◆◆◆◆◆




「こっちにいらっしゃい」


 ニルはソファーから立ち上がった。

 カウンターがある壁とは、反対の方向へ歩いていく。

 俺も立ち上がって、ニルに続いた。


「ここよ」


 壁にある扉を示した。

 扉というより、ハッチ?、よくある宇宙船のハッチのような形をしている。

 ハッチの隣に、その操作を行うためのコンソールが付いていた。


「外部接続ハッチよ。ここから送ってあげる」


「ああ」


 やっぱりハッチなんだ。このロビーも宇宙船っぽいし。

 エノス神って宇宙船?


「しょうがないから、私も手助けしてあげるわ」


「ありがとう、ニル。恩に着るよ」


「一つ助言よ。因果律って知ってるわよね?」


「これでも、理系だぞ。原因があって結果がある、原因から結果を導き出す法則、またその逆も然り。当たり前の話だ」


「じゃあ、その原因に『望んだから』というのもある、わかるわね?」


「俺は理系だぞ。哲学は・・・ちょっと・・・」


「『望んだ』から『望んだ結果』が生まれる。その可能性は否定できない。オーナインほどはないかもしれないけど、十分でしょ? でも、それは人であった場合の話。私たちは違う。」


「エノスの子だからか」


「私たちが望んだ場合、エノス神によって、恣意的に操作された結果を観測することが可能になる。つまり、望みなさい。常に求めなさい。エノスの加護が、観測結果が、あなたを導いてくれる」


 ニルがコンソールを操作すると、外部接続ハッチがプシュと気密がもれるような音がして、滑らかに開いた。

 その外には広がるのは。




 一面の漆黒。




「これは・・・宇宙?」


 そう思ったが、違った。

 無数の星が瞬く宇宙のように見えたが、その中には大小さまざまな扉が浮かんでいた。

 扉だけじゃない。窓やブラックホールみたいな穴、大きな箱、さまざまなものが浮かんでは、流れていく。


「これが、狭間・・・」


「そうよ」


 ニルが俺の胸倉を掴んで持ち上げた。どんだけ腕力があるんだ。軽々と俺を持ち上げている。

 この美女は俺よりも背が高いので、足が浮いている。


 そのまま、俺を寄せると、軽く俺にキスした。


「いってらっしゃい、アキ。あなたが目的を達成できることを、私も望んであげるわ」




 そして、ポイッと、ハッチの外に放り投げられた。




「うわああああああああああああ」


 狭間に放り出された俺は悲鳴を上げながら、漆黒の空間の中を流されていった。

 自分がどうなっているのかわからない。

 多分、ぐるんぐるん体が回転してる。


 俺のすぐそばを、扉や箱、窓や時計が通り過ぎていく。追い抜いていく。


「うわぎゃあああああああああああああああ・・・」


 俺はそのまま、流れに流されて、漆黒の中に飲み込まれていった。


やっと序章終わり。

詰め込みすぎた。

やっと本編か。

説明は書いてて疲れる。

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