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序章2

「え? 俺? 死んだ?」


「ええ、そうよ」


 女神風超絶美女はあっさりと肯定した。

 結構重要なことだと思うんだけど・・・


 俺は頭を振って、冷静になるよう気を落ち着けた。


「納得はできませんね」


「でしょうね。こちらにいらっしゃい」


 美女は応接セットのほうに俺を誘った。

 美女の後ろについていくが、イブニングドレスの背中の部分はパックリとお尻の上部ギリギリの部分まで開いており、そこから覗く大理石のように白い背中と腰に目を奪われてしまった。


 ソファーに座るよう勧められたので、俺は大人しく従う。彼女は俺と対面に座る。座る動作で、彼女の大きく実った胸がたゆんと揺れた。所作の一々が妖艶な色香を漂わせるので、目を奪われてしまう。

 女性接触率に安定の低さを誇る俺などは、もうずっとドキドキと落ち着かない気分にさせられてしまう。


 落ち着け、俺。


 ソファーに腰を落ち着け、ゆっくりと深呼吸する。


 その間に美女はどこからかお茶を取り出し、カップに注いで、俺と自分の前に置いた。

 美女が優しく俺に微笑みかける。


「まず自己紹介しましょうか。私はニルイヤーナ・ナスティアーナ・メンストライア」


 何て?


「すみません。もう一度、御願いします」


 俺はやっぱり間抜け面していたのだろう。

 クスクスと鈴を転がすように笑われた。それがまた美しく色っぽいので、ドキドキしてしてしまう。


「ニルイヤーナ・ナスティアーナ・メンストライアよ。長くて覚えられないなら、ニルとでも呼んで頂戴」


「ニルイヤーナ・ナスティアーナ・メン・・・・・・」


「メンストライア」


「ニルイヤーナ・ナスティアーナ・メンストライアね。覚えました」


 俺は何度か口の中でブツブツと復唱しながらニルの名前を覚えた。ピカソのフルネームほど長いって訳じゃない。このくらいなら覚えられる。人の名前を覚えることを放棄するってのは、なんとなく失礼な気がするんだよな。だから、覚えた上で、略させてもらう。


「それで、ニルさん? 俺が死んだって話は?」


「ニルと呼び捨てでいいのよ。私もアキと呼んでいいかしら? 発音が難しくて」


「もちろん。どうぞ」


「ありがとう。じゃあ、これを見てもらっていいかしら。あなたのお葬式よ」


 え? また聞き捨てならないことをさらっと言うなぁ。

 しかし、それ以上に、ニルが行った動作に目を奪われた。


 ニルは自分の巨乳を寄せて持ち上げるように、胸の下で腕を組んだ。ムニュっと音が聞こえてきそうな勢いで巨乳が押し上げられる。これだけで前かがみになってしまいそうだが、ニルは自分で作った、深い、それはとても深い胸の谷間に手を差し込み、そこから長方形のスマートフォンのようなものを取り出した。


 不二子ちゃん? え、なに? 不二子ちゃんなの?


「今の、おかしくない? なんで谷間から出てくるの?」


「女には秘密の隠し場所がたくさんあるのよ」


 ニルは色っぽく微笑みながら言うけど、そういう問題か?

 谷間を今作ったじゃない。隠す場所がそもそもなかったはずだ。


 その胸、調べていいですか?


 と、言いそうになったのを、凄まじい自制心で堪えた。

 もうよそう。一旦置いておこう。じゃないとおかしくなってしまいそうだ。胸を調べさせてくださいって、変態だよな。

 調べたい・・・




 ニルは胸の谷間から取り出したスマホを操作している。

 不意に俺の目の前の空間に画像が映し出された。ホログラムディスプレイ? 空中に画像が浮かんでいる。技術が現代よりも進んでいるのか?


 映し出された画像には、俺が映っていた。頭を打って、意識を失った直後のようだ。大量の血が頭部から流れ出し、ぐったりと横たわっている。セミロングの子(美人のほう)が俺に呼びかけているが、意識は戻らない。当然だよな。今、ここにいるんだから。


「意外とまともな死に様だ」


 もっと酷い有様だと思っていたが、俺の表情も様子も意外と綺麗で、すこしほっとした。タッチの有名な台詞が聞こえて来そうなぐらい綺麗なもんだ。


「なんか、俺らしくなくカッコイイんだけど」


「そうねぇ。外側はね。頭蓋骨の中はそこそこ損傷してるみたいだけど」


「脳挫傷か・・・後遺症は免れないか・・・」


「もう死んでるから、後遺症はないけどね」


「ですね・・・」


 ひでーことをさらっと言うな、この人。


 画像の場面が替わり、次に映し出されたのは、どこかのセレモニーホールで俺の葬式を行っている場面だった。


 しめやかに、俺の葬儀が執り行われている。

 母はずっと泣いていた。

 父と弟は、泣きはしていなかったが、悲痛な表情で空ろな目をしている。

 親戚のおじちゃんおばちゃん、小中高での学校の友達、大学での友達、一様に沈痛な面持ちでお焼香してくれている。

 あの三人の女の子も来ていた。


 ずっと泣いて、ずっと謝っていた。




「わかりました。もう良いです。死んだって、納得しました」


 俺は耐えられなくなって、ニルに言った。


「そう?」


 ニルはホロディスプレイを消した。


 生前葬ならともかく、ガチの自分の葬式なんて、見るもんじゃないな・・・

 若くして死ぬことの重みを、まざまざと見せ付けられたような気がした。

 泣きそうになった。


 落ち着くために、出されたお茶に手をつけるが、味はよくわからなかった。




 ◆◆◆◆◆




「つまり、ここはあの世ってことですか?」


 ここは、気分を換えるために、話題を換えよう。


「まあ、普通だと、そうなるんだけど・・・ね」


 ニルは困った顔で言いよどんだ。


「どういうこと? 普通だとって?」


「普通の生物であれば、その魂、生命エネルギー情報体が死後にどうなるか、管轄となる世界の法則によって決定されるわ。輪廻転生のために螺旋の流れに回帰するか、六道輪廻に従って流転するか、または天上界に召されるか、地獄に落ちるか。その世界の運行によって決まるわ。でも、私たちは違う」


「私たち?」


 引っかかる言い方だな・・・


「私やあなたのようなものよ」


「俺が普通じゃないと?」


「あなたは私たちと同じように、どの世界にも属さない邪神の化身なのよ」




 訳のわからない事態が降りかかってきたぞ・・・

 邪神の化身? 何を言っているんだ?

 俺はごく普通の大学生だ。そんなわけわからんものになった覚えはない。


「私が言う『神』というものを、神話のそれと同じものと考えてはダメよ。世界の管理や一部を司る神、いわゆる『世界に内包される神』ではないわ。もっと上位の、根源的な、世界を作り出した、創世神。『世界を内包する神』より権限を与えられただけの存在。使徒とでも言えばいいのかしら」


 キリスト教で言うところの神に相当するのか?

 神話に出てくる神は、天使に過ぎないと・・・


「私たちは、創世の神、根源たる存在より、その化身として作られたもの」


「そして、その神は、俺がいた世界の神とは違う。だから、邪神という訳か」


「察しが良くて、助かるわ」


 俺がかつて中二病を患ってなければ、こんなこと分からんぞ。

 世界が複数存在する。ということは創世神もまた複数存在しえる。世界では、創世神が唯一絶対なのは、その世界が創世神の中に存在するからだ。だからといって、創世神が唯一絶対とは限らない。


 創世神が、別の創世神が作り出した世界に干渉するために、俺を作り出したのか?


 だとしたら・・・


「一体何のために・・・」


 スケールがでかすぎて、理解の範疇を超える。創世神が一体、俺に何をやらせようというんだ。俺はホントに一介の凡人に過ぎないんだぞ。


「その認識が間違ってるわ」


 俺の心を読んでるのか?


「あなたが自分自身をどう認識していようが関係ない。創世神により、その目的のために作られている。あなたが自分を凡人だと思っているならば、そうなるように作られているだけなのよ」


「俺の自我、自意識は全否定。関係ないってか。俺が何者になろうとも、そうなるように仕組まれていた」


「そういうことね」


「つまり、凡人であるように作られた」


「そうよ」


「何の茶番だよ・・・」


 怒りよりも、虚脱感を感じる。俺は一体何のために作られて、何をさせられるために生かされてきたんだ。用無しになれば、この通りに廃棄処分か?

 ふざけんな。




「創世神クラスの神と言えども、その有り様は一通りではないわ」


 ニルはカップを手に取り、お茶で口を湿らせながら、話を続ける。

 俺としては、もう勘弁願いたい。事態を受け止める許容量を超えてるんだが・・・


「大半の創世神は普遍性を有している。あらゆる次元、時空に同時に存在している状態を保持しているのよ」


「不確定性原理みたいだな」


「同じことよ。その原理すら内包しているんだから。でも、そうじゃない、特異性を有する創世神もいる。ただ一個体だけのユニーク。特定の次元、時空にしか存在しない創世神。それが、我らが神の特性」


 我らが神ね・・・


「遥か昔、私たちの神は、数多の創世神と敵対関係にあった。創世神クラスの関係なんて、私たちには理解不能だけど。そう、戦っていたのよ。戦っても、こう着状態に陥るしかないのだけれども」


 そうだろうな。

 そもそも、どうやったら決着がついたことになるのかわからない。


「普遍性の神は、あらゆる次元に無限に同時に存在する。かたや、特異性の神は特定の次元にのみ存在する。特定の次元内では、その存在の濃さから特異性の神が圧倒的に強い。普遍性の神に勝ち目はないわ。しかし、普遍性の神は無限に存在する。1存在を倒しても限がない」


「どうしようもないな。思考実験の矛盾点を論ずるような。意味のない話になってきた」

「そうね。そこで普遍性の神は、次のような手を打ってきた。特異性の神をおびき寄せ、自らの存在をずらす事で、次元の狭間を作り出し、そこに特異性の神を封じ込めたの。あらゆる次元、時空、世界に連結する狭間では、逆説的に特異性の神は身動きが取れなくなってしまった。すべてとつながっている場所ゆえに、逆にどこにも行けない。そうして、神々と戦っていた、特異性の神は封印されたわ」


「乱暴な・・・。で、その狭間にとらわれた間抜けな神が、我らが神様ですか・・・」


「そういうこと」


「で、その狭間から抜け出すために、俺みたいな化身を作って、世界に干渉していると」

「・・・それがそうとも一概に言えないのよね・・・」


 ニルはまた困った顔をしてつぶやいた。




 ◆◆◆◆◆




「一説には、封印された際に、神は眠りについたと言われているわ」


「ああ」


「狭間は、特異性の神にとって、煌びやかな万華鏡のようなもの。あらゆる世界を見ることが出来るのだから。神は眠りの中、夢で世界をのぞき見てた。そして、思ったんでしょうね」


 ろくでもないことを思い付いたんだろうよ。


「自分も同じような体験がしてみたいって」


「ホントにろくでもないな・・・」


 まじで、何なんだよ、この神。

 頭おかしいんじゃねーのか?

 神の癖に、「同じような体験がしてみたい」って何だよ?


「あなただって、思ったことあるでしょ。『モニターの向こう側に行けたらなぁ』って。それと同じことを、実際にやってしまった感じ」


「そんなの、高校生のうちに卒業しとけよ。中二思考にもほどがある」


「そして、作り出されたのが、私たち。神が追体験したいことを実際に体験するための神の端末。物語の主人公であり、神の化身であり、神自身でもある」


「神自身?」


「だって、自分で体験しなくちゃ意味ないでしょう? だから、私たちは、ディスプレイ兼キャラクター兼プレイヤーなの」


「俺たちは、一体・・・」


 俺は頭を抱えた。


「ここはあの世と言えば、そうともいえるのかもね。役を演じ終えた私たちが、最後に回帰し、また神と同一となる世界。また、ここも神の夢の中。全てが神の夢。私たちの人生も、私たち自身も、今いるここも。全てがわれ等が神の望んだ夢の中。狭間で世界を夢見て眠る『エル・エティ・エノス』の望みのままに」


「エル・エティ・エノス・・・」


 それが神・・・


 全てはその掌の上の出来事に過ぎないのか・・・


説明会が終わらない・・・

後1回で終わるんだろうか?


はよ、本編に移りたい。

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