さぁ人形劇のはじまりだ!-その2
「・・・え?」
必死にしがみ付く真弓が上目遣いに俺を見る。
何か言っているような気がする。案の定上手く聞き取れない。
「ぁ・・・ご、ごめんなさいっ!」
そういうと慌てて手を離す。真弓の顔が仄かに染まっている。
「ぁ〜・・・んと、俺こっちの道行くけど・・・?」
何か照れくさい。多分俺顔真っ赤だな。
住人は足掻きようの無い気持ちのせいか頬を掻く。
「あの、住人さん」
「はい、なんでしょう」
なんで敬語なんだよ。しかも声上ずった。
「住人さんの・・・その・・・」
モジモジしている真弓が妙に可愛いく見えるのは・・・
――恋と言うものなのだろうか!
苦節16年と10ヶ月16時間。
今見える夕日が綺麗なのは、俺の心が充実しているせいなのだろう!
ふふっ・・・青春万歳。
そう、俺はここで言うんだ。そう、爽やかに「また明日」って。
そうしたら、きっと明日からも楽しい日が続くんだ。
これからの人生はバラ色だぁっ♪
・・・
「また明日!」
駆け出す俺。それを見送る真弓が一言、
――また明日も会えますよね
精一杯声を出す姿が可愛い。
「うん、明日も一緒に」
「ぁっ!・・・待ってください」
そういうと真弓が俺の後を追ってきた。それを見た俺は近寄らずにはいられなかった。
「どうしっ・・・」
俺が言い終わる前に真弓の唇が俺の頬を撫でた。
「わっ、忘れ物です・・・!」
そういうとペコリとお辞儀をして逃げるように行ってしまった。
・・・
なーんてなるんだよきっと!おいおい今日の俺サイコーだぜ!
さぁ言うんだ俺。
「んじゃ、まっ・・・」
「・・・住人さんのお部屋に行っても良いですか!」
「・・・(た明日)」
キメ台詞がふいになった。
ま、まぁ予想外も予想外だし、想定外も良い所だよ。
「・・・え? は、はぁ・・・」
なんとも間抜けな声だ。
自分で言うのもなんだけど、もっと気の利いた応え方があるだろ。
「え〜と・・・俺は別に構わないけど、真弓ちゃんはだいじょ・・・」
俺の腕にしがみ付くようにしていた真弓が、今は抱くような形になった。
当然そんな状態なんで胸が当りますよね〜あはは、真弓ちゃんって案外グラマーなのね。
「じゃぁちょっと歩くけど俺の部屋に行く?」
コクっと頷く真弓の瞳は、夕焼けに照らされて綺麗に輝いていた。
「そ、そんなに力を入れなくたって俺はどこにも行かないよ」
少しだけ歩いたんだけど・・・これって恥ずかしい。
流石にこのまま歩くのも恥ずかしいので、実に残念だが、実に口惜しいが、残りの道はせめて手を握るくらいで歩こうと思ったんだけど…。
「・・・私がこうしていたいんです」
そういうと顔を伏せた。伏せる瞬間、また顔が真っ赤になったのが少しだけ見えた。
ギュッっと抱きつく真弓。
チクショー可愛いぜ真弓ちゃん!もうこの服は洗わねぇ!
腕を組み雑談をしながら歩く夕焼け空の下。
この時間がもっと続けば良いのに。そう思ってたところなんだがどうやらお終いの様だ。
このままずっと歩こうかな。
「・・・着きましたよ。住人さん家」
「へぇーここが俺の家かー、ってなんで知ってるの?!」
ナイスノリツッコミ。
「ぁ・・・。だってここに【国崎】って表札たってますから」
指を差す先には、これまさに、と言わんばかりに表札が立っていた。
とうとうこの日が来たか。
男友達すら引き入れた事の無い領域―俺の部屋―。
その歴史に新しくページを入れるときが・・・そう、今日だ!
・・・と、ちょっと待てよ?
俺の部屋が見たい。イコール・・・どういう事だ?
おいおい。まさかだろ?この子に限ってそれはないだろ。
付け上がるんじゃねぇぞ俺。煩悩爆発じゃねぇか。
ふと視線を下げると真弓と目が合った。
その瞬間、真弓の顔がささやかだけど微笑んだように見えた。
・・・まさかだろ真弓ちゃん!
続く!