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レッドラスト〜屈強な女軍人ばかりの流刑惑星に放り込まれたが無事に生き残れるだろうか〜  作者: ベニサンゴ


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第30話「地上降下は爆炎と共に」

 赤い空を引き裂く四つの影。ブルーブラストの青い光を後方に放ちながら脇目もふらず空を駆けるランナーたち。精密に計算された軌道をなぞり、眼下に広がる荒野の一点を目指す。


「うおおおおおおおおっ!?」

『マスター、落ち着いてください。プラン通りに進んでおります』

「進んでるって言ってもなぁ。これって要は勢いよく落ちてるだけだろ!」


 ランナーに飛行能力は備わっていない。軽量かつ汎用性の高さが売りではあるが、あくまで陸上兵器である。大型カタパルトの電磁誘導射出によって大空へと飛び出したシルバーフェザーは、遠大な弧を描きながら今まさに頂点に達し、徐々に高度を下げ始めていた。


「ユーリはよくこんなエントリーを採用してるな」

「これが手っ取り早いんだよ。慣れれば楽しいでしょ?」


 第一機甲部隊の先遣隊は短距離通信で接続されている。カイの呆れ半分のぼやきにも、先頭を行くコバルトレインから応答があった。

 ぶっつけ本番のカイとは異なり、ユーリは幾度となくカタパルトで飛ばされてきた経験がある。今回も真っ先に射出され、慣れた様子で大空を楽しんでいた。


「カイ君は慣れなくてもいいのよぉ。この子、頭のネジが二、三十本吹き飛んでるだけだもの」

「ちょっとトリス!」


 大規模作戦が始まったとは思えないほど和やかな声が通信に加わる。その口調とは裏腹に容赦なく隊長をこき下ろすのは、真紅のランナー"レッドギャロップ"に乗る副隊長トリスだ。

 自由奔放で単独行動も多いユーリに代わって第一機甲部隊を取り纏めることも多い、包容力と母性に溢れた女性である。


「新人でソレダケ落ち着いてタラ上出来ネ。慣れない奴、不用意に脚動かして墜落スルコト多いからネ」


 遠国の方言か、聞き慣れないイントネーションを使う三番機"イエロークラウド"のイェン。彼女はカイを守るように、その隣にぴったりと着いてきてくれる。第一部隊の三番機ということで、日頃から年の近い姉のように何かにつけて気に掛けてくれる少女である。

 イェンの言葉に、カイはそっと操縦桿から手を離す。万が一動かしてしまってもハルが制動してくれるだろうが、ここはもう気持ちの問題であった。


「ほら、早速見えてきたよ!」


 カタパルトによる機体投射は危険性を抜きにすれば非常に効果的だ。あっという間に陸路ならば数時間の距離を超えて、前方に第13地区ネストの外縁部が見えてくる。ユーリが明るい声を上げて指し示した先に、蟻塚のような塔が点々と並ぶのが見えた。

 広大な版図を誇る第13地区ネストは、常に他ネストのスラッグからも侵攻を受けている。それらに備えるために絶えず目を光らせる門番たちの物見櫓である。


「今回ばっかりは無視してくれないでしょうねえ」

「そのために私タチがいる。さっさとぶち開けて仲間を通すヨ」


 ローバー数台程度の規模であれば、彼らは脅威と見做さない。しかし深層を目指すため数百人レベルを動員するとなれば話は別だ。本隊が到達するまでに、彼女たちが通れるだけの穴を開けることこそが、たった四機のランナー部隊に課せられた任務である。


「さあ、お仕事だよ!」


 数の差は圧倒的だ。あの監視塔の内部にはおびただしい数のスラッグが常に蠢いている。しかしユーリの声にはなんの気負いもない。彼女は空中を落ちながら、滑らかな機体操作で主砲を向ける。レッドギャロップのトリス、イエロークラウドのイェンも同様だ。


「カイ、いける?」

「もちろん」


 カイもそれに続く。体格や身体能力では女に勝らぬ身体だが、ランナーの操縦技術に関しては光るものがある。第一機甲部隊に通常三機のみのところ、特例で四機目としての加入を認められたのは依怙贔屓ではない。


「撃てッ!」


 隊長の一声で四つの引き金が同時に引かれる。鮮やかなエネルギーの爆発と、高密度エネルギー凝集弾の炸裂。大気を切り裂きプラズマの尾を引きながら突き進む巨大な砲弾が、一瞬にして鉄塔の腹に食い込む。

 次の瞬間、暴力が炸裂した。


「初段命中。誤差修正。降りる前にもう一発行くよ!」

「はいはーい」

「おまかせアレ!」


 反動は空中落下中のランナーに強く降りかかる。グルンと一回転しながら、八本脚を広げて機体の体勢を安定させる。カイは他の三機に遅れないよう必死に操縦桿を握りしめていた。

 射撃直後に砲身の冷却は始まりエネルギーの再装填が進められる。バリ率いる整備士たちの腕は確かなもので四機は軽快そのものだ。


「スラッグたちもこっちに気付いたネ」

「地上に降りたら休む暇はないわよぉ」


 崩れる塔の下から黒いシミが広がる。それが全て怒り心頭のスラッグの大群でありことは、ぐんぐんと距離が縮まることで鮮明に見えた。


「二射目、いっけええっ!」


 ドガンッ!


 寸分の狂いもなく、四機のランナーの主砲発射が揃う。

 撃ち出された砲弾が、監視塔を完膚なきまでに破壊する。しかし歓声が上がることはない。ここから先が本当の戦いなのだ。


「パラシュート展開!」

『イエッサー』


 カイの声でハルが動く。機体尾部に増設された推進用スラスターが燃料を枯渇させていた。慣性だけでぴったり予定地点まで辿り着き、巨大で重たい追加パーツはパージされる。それと同時に格納されていたパラシュートが展開され、レッドラストの熱大気を掴んで急減速をかける。

 ガクンと揺れる機内で、カイは操縦桿を握ったまま緊張を保つ。

 汗が手のひらに滲む。


「グレネード投下!」

『イエッサー』


 機体底部のハッチが開き、サッカーボールほどの金属球が落とされる。直下には獲物を待ち構える鉄虫たちが、顎を打ち鳴らして待ち構えていた。それを、


「ぐおおおっ!」


 紅蓮の爆炎が吹き飛ばす。

 焦土と化した荒野にシルバーフェザーが降り立った。周囲に散開する僚機たちの機関砲が群がるスラッグを蹴散らしていく。


「こっからは分かってるね?」

「高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応!」

「正解! じゃ、突っ込めぇえええっ!」


 つまり、アドリブである。

 絶叫と共に飛びかかってくるテレアントを脚先のナイフで切り裂きながら、カイは崩れた鉄塔に向かって走り出した。

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