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レッドラスト〜屈強な女軍人ばかりの流刑惑星に放り込まれたが無事に生き残れるだろうか〜  作者: ベニサンゴ


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第25話「鉄虫の言葉」

 かつてこの惑星レッドラストへと降り立った最初の人類。彼らが乗る船について、現存する記録は非常に少ない。千年という長い時間が情報を蚕食し、辛うじて残っていた歴史的遺物はスラッグによって食い尽くされたからである。


「標準通信プロトコルって、どういうこと?」


 グリーンホロウが受信した謎のシグナルを看破したハルに、アメリは掴みかからんばかりに迫る。


『移民船団がお互いの通信のために使用していたものです。移民船団がそれぞれの宇宙域へと分散し、それが現代の星間国家群の種となったのは周知のことかと思いますが、他船団の情報傍受を防ぐために様々な暗号通信が使われていたのです』

「確かに聞いたことはあるけど……。千年前の暗号通信を解読できるの?」

『弊機には移民船団に関するデータがインストールされています』


 おまかせを、ランプを明滅させるハル。いまだ周囲の面々は半信半疑だったが、他に頼ることもできない。


「カイ君、あなたのお姉さんっていったいどういう人物なの」


 ハルによる解読作業が進むなか、アメリは従前からの疑問をカイに囁く。

 二千年もの長きに亘って冷凍睡眠状態にあった彼を安全に解凍するのは至難の業だ。それを"お姉さん"はやってのけた。高い技術力を持つか、もしくは途方もない財力か、その両方か。とにかく常ならぬ力を持っていなければ説明がつかない。

 そもそもカイの素性を秘匿しながらレッドラストへ送りんできたということは、軍の上層部にも強い影響力を持っていることの証左だ。


「いや、俺の姉ではないんだけどな。詳しいことは教えてもらえなかったし、そもそも理解できなかったと思う」


 自らを姉と称するあたり多少の異常性が見られるが、今は些事である。

 カイもその正体について話せることは何もなかった。解凍直後の右も左も分からない状態でハルを与えられ、その後はあまり顔を合わせることもなかった。おそらくかなり多忙の身であることは確実だろう、といった程度である。


「なんだか猛烈に嫌な予感がするのよね……」


 結局、"お姉さん"がなぜカイを解凍しレッドラストへ導いたのか、それさえ分からない。真意も正体も不明の強権者とは、想像するだけで胸がざわつく。


『解読が完了しました』

「早いわね」


 アメリが不穏な気配に憂いていたところに、ハルの声。予想よりもはるかに早く、ずいぶんと呆気ない復号作業であった。


『当時としては最高峰かつ最高機密の暗号とはいえ、現代最新鋭の汎用支援AIである弊機にかかれば些細な問題に過ぎません。それよりも内容ですが』


 単刀直入に結論が述べられる。


『"領空侵犯の敵機に告ぐ。速やかな退却なければ、当方より実力行使による排除を行う"――とのことです』

「なっ!?」


 アメリたちは一斉に目を見開き立ち上がる。


「どういうことだ。スラッグ共が喋ってるってことか?」

「そんな報告は受けたことがないわ」

「記録上も心当たりはありません!」


 スラッグに言語は存在しない。それを扱うだけの能力もない。

 〈鉄喰らう狼〉で長く共有されてきた前提が、突然に崩壊した。

 バリは慌てて過去の記録を遡り、アメリも指揮官のみに引き継がれる極秘資料の内容を思い出す。だかどこにもそのような情報はなかった。


「そもそもスラッグがそんなシグナルを発することすらなかったでしょ。何か異常が起き始めてるって考える方がいいんじゃない?」

「今この瞬間に、スラッグが会話に目覚めたってことか?」

「ありえないとは言い切れないでしょ」


 ユーリの意見にディーロは胡乱な目を返す。長く実戦に身を置いてきた彼女だからこそ、その可能性を捨てきれない。スラッグは常に進化を求めている。環境を作り変えながら自身も改造していく。その果てに知性を獲得してもおかしくはない。

 事実、スラッグは時代を経るごとに老獪になっていた。


「しかし、なぜ移民船団の通信プロトコルを使うんでしょう」

「……それで学んだのかもしれません。自身のネットワークでそのまま流用できるコミュニケーションツールとして」

「つまり、移民船団の遺跡がどこかに残ってるってことか」


 カイの言葉に力が篭る。

 彼が探し求めるのは移民船に残る過去の人類の遺伝子データだ。しかし、地表にあるものはことごとくスラッグに蹂躙され失われている。そんな状況で唐突に光明が差し込んだ。


「このシグナルを発信する存在が、第13地区ネストのどこかにいるのは確定したわね。その直後、スラッグたちが凶暴性を増してグリーンホロウを撃墜し、襲撃した。その時も、後から駆けつけたランナーにはほとんど反応しなかった……」


 顎に指を添えて考え込むアメリ。長い銀髪の下に伏せられた睫毛が思慮深さを物語る。


「――バリ、シグナルの発信源は特定できるかしら」

「ブラックボックスの解析が進めば、ある程度割り出すことは可能かと」


 指揮官は決める。


「スラッグに関する情報収集および脅威撃破を目標とした特別作戦を実施するわ。確実に第13地区ネストの中心部まで突っ込むことになる。――各自、そのつもりで準備を始めなさい」

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