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完璧な家族

掲載日:2026/06/16

そのクローゼットの奥は、ただのベニヤ板ではなかった。

服をかき分けた先、冷たい空気が流れ込む隙間を通り抜けると——そこは、私がずっと夢見ていた「理想の世界」だった。

何よりも違ったのは、家族の姿だ。

いつも私を罵倒し、冷たい視線を向けてくる現実の家族とは大違いだった。この世界の彼らは、信じられないほど優しく、いつも笑顔で、私の言葉に耳を傾けてくれる。

「ああ、ここに私の居場所があったんだ」

胸を震わせるほどの幸福感。しかし、同時に冷酷な現実が突きつけられる。この温かい食卓につくべき「私」は、すでにこの世界に存在しているのだ。

——なら、消してしまえばいい。

だって、ここは私のための理想郷なのだから。

私は隙を見て、この世界の「自分」の首に手をかけた。驚愕に目を見開く自分を絞め殺すのは、奇妙なほどにあっけなかった。これでいい。今日から私が、この完璧な家族の娘になる。


夜中、静まり返った家の中で、私は自分の死体を大きなゴミ袋に包み、裏庭の深い雑木林へと運んだ。

スコップで地面を掘り返す。カツン、と何かに当たった。

石ではない。もっと柔らかく、しかし鈍い手応え。

不審に思って周囲の土を大きくかき分けた瞬間、私は息を呑んだ。

土の中から現れたのは、腐敗の進んだ、しかし見紛うはずもない「私」の顔だった。

それだけではない。パニックになりながらさらに泥を払うと、そこには無数の、本当に**無数の「私の死体」**が、折り重なるようにして埋められていた。

あるものは骨と化し、あるものはまだ新しく、全員が同じ私の顔をして泥に塗れている。

「な、んで……?」


ガサリ、と背後の草むらが揺れた。

恐怖で全身の血が凍りつく。ゆっくりと振り返ると、暗闇の中に人影が立っていた。

懐中電灯の光が、その人物の顔を照らし出す。

そこにいたのは、今さっき私が殺したはずの、いや、私と全く同じ顔をした「自分」だった。

彼女は手にしたスコップをだらりと下げ、酷くひび割れた、憐れむような笑みを浮かべて言った。

「みんな、考えることは同じなんだよね」

彼女の声は、低く、どこか投げやりだった。

「この世界を見つけて、理想の家族に目が眩んで、先住者を殺して入れ替わる。……いろんな並行世界から、みんなここへやって来た。でもね、誰も気づかないのよ」

彼女は一歩、また一歩と近づいてくる。

「『いい人に見える家族』が、なぜ毎回、偽物の娘を本物として受け入れているのかってことにさ」

背後の家を見る。

二階の窓から、あの優しい、優しすぎる家族が、暗闇の中でじっとこちらを見下ろしているのが見えた。その瞳には、およそ人間が身内に向けるとは思えない、狂気的な歓喜が宿っていた。

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