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「ただの酔っ払いの戯言ならいいんですけどね。毎回違う名前や職業を騙るくせに、
その演技が妙に堂に入っているというか……変に辻褄が合ってて、時々本気で別の人間と入れ替わったんじゃないかってくらい、正直、怖いんですよ」
そこで警官は手元のバインダーを軽く叩き、京太郎に向き直った。
「ただ、指紋や身体的特徴は過去の調書と完全に一致してます。間違いなく、彼が轟伊住馬本人です」
警官の言葉には、これ以上この奇妙な男と関わりたくないという本音が、ありありと滲み出ていた。
さらなる面倒事を抱え込むよりは、目の前にいる「公認退魔師」という確かな肩書きを持つ人間に、
この、訳の分からない男を丸投げしてしまいたいという腹の底が透けて見えた。
「ですから、細かい事情はともかくですね……身元引受人の方が来られたんですから、どうかこのまま引き取って帰ってください」
警官はそそくさと目を逸らし、無理やりにでもその場を収めようとした。
「少し、ここで話させてもらっても?」
警官の口にした『堂に入った演技』という表現に、京太郎の思考の中でひとつの仮説が組み上がった。
彼は警官の許可を待つこともなく、弾かれたように保護室の鉄格子へと歩み寄り、冷たい鉄の丸棒に手をかける。
その不意の金属音に、格子越しにうずくまっていた「太田」を名乗る青年の肩が、大きく跳ねた。
入室――。
「――太田さん」
京太郎は、保護室の冷たい床にどっかりとあぐらをかいて座り込み、視線の高さを合わせて伊住馬と正対した。その外見に、妖異の類を思わせる異様な気配はない。贅肉のない痩せぎすの筋肉質で、
そこに乗る快活な若者の顔が、隙のない全体像を、さらに引きしめる見事な点睛になっている。
が、京太郎の目といえば、その表面に張り付いた決定的な違和感を捉えていた。
引き締まった顔立ちの奥から、人生に疲弊した中年男に特有のどんよりとした重圧が、決して隠しきれない異物としてひっそりと滲み出している。
「……なんだよ。あんた、誰だ?」
伊住馬の口から出たのは、自身の骨格にそぐわない、無理に低く押し殺したような声色だった。
大人の男の凄みを模倣しようとしているが、その響きの底には、状況を把握しきれていない者の明確な怯えが透けている。
「小宮京太郎という者だ」
京太郎は、相手の瞳の奥を真っ直ぐに射抜いたまま、静かに、しかし有無を言わせぬ調子で告げた。
「これからいくつか質問をする。正直に答えてくれたら、あんたの願いを叶えてここから出してやる」
「あん?」
男は、首をひねって警戒心を露わにしながらも、次の言葉を待った。




