第二段② 幸せな時 流れて
神社へ向かう道中、二人は手をつないで歩いていた。
「疲れたら、いつでも言ってね。
ママがおんぶしてあげるから」
「うん!」
ナギトは張り切った様子で答える。
しばらく歩いたところで、アヤネはふと思い立ったように、
「ねぇねぇ、ナギちゃん。
ナギちゃんは、お姉ちゃんのこと、大好きかな?」
と尋ねた。
「うん! だいしゅき!」
ナギトは迷いなく、元気よく答える。
アヤネは、その返事に微笑んだ。
「それじゃあ……ママのことは好きかな〜?」
「うん! だいしゅき!」
「う〜ん。じゃあ、カガセオさんのことはどうかな?」
「うん! だいしゅき!」
「ふふ。みんな、好きなんだね〜」
そう言うと、ナギトは少し誇らしげに、
「うん! みんなだいしゅきだよ」
と、また元気よく答えた。
道中、数人のアヤネの知り合いに声をかけられた。
「奥様、おはようございます。お出かけですか?」
と、大人の女性が話しかけてきた。
「おはようございます。近くの神社まで、息子と行こうと思っております」
「今日は天気がよろしいですからね。お気をつけくださいませ」
「ありがとうございます」
アヤネは、このようなやり取りをとても微笑ましいものだと感じていた。
ナギトが健康で、明るく、感情豊かに育っていることを、改めて実感する。
人間は、人間によって育てられるべき――それがアヤネの考えだった。
一部を除き、人間が人間を育てなくなってから、すでに千年以上が経っている。
現代において、人が人として子どもを育てることは、極めて稀なことだった。
アヤネはナギトの将来について、ふと考え事をしていたが、
その間もナギトは、しっかりとアヤネの手を握って歩いていた。
やがて、神社の参道の入口に着いた。
参道の両脇には、木々が生い茂っている。
風が吹き、木々のざわめきが耳に届く。
実に平和なひとときだった。
少し進むと、五十段ほどの石段が現れた。
「階段は危ないからね。ママと手をつないで、ゆっくり登ろうか」
二人は慎重に階段を登り切り、
古びた大きな鳥居をくぐって、本殿の前にたどり着いた。
本殿の近くに一本の大きな木が堂々と立っていた。
「この大きな木はね。ママが小さい頃に植えたものなんだよ」
「こうして見ると、ずいぶん大きく育ったわねぇ〜」
「ママが小さいとき?」
「そうよ。ママにも、ナギちゃんみたいに小さい頃があったのよ」
「ママが……小さいとき?」
ナギトは、まだよく分かっていない様子だった。
「こっちに行こうか、ナギちゃん」
「大きい建物だね〜?」
「ナギちゃんが、まだもっと小さい頃にも来たことがあるんだよ。覚えてないでしょ」
「うん!」
「神社にはね、神様が祀られているんだよ」
「カミちゃま?」
「そう。神様はね、ナギちゃんのことを見守ってくれているんだよ」
「??」
「ごめんね。まだよく分からないよね」
少し間を置いて、アヤネは静かに続けた。
「でもね、ナギちゃん。
ママも、ナギちゃんのことをずっと見守っているからね」
「ナギちゃんがママのことを忘れても、
ママはナギちゃんのことを忘れないから」
帰り道、ナギトはアヤネに抱かれたまま、すっかり眠っていた。
その穏やかな寝顔を見つめながら、アヤネは静かに歩き続けた。
だが、この日の記憶は、ナギトの中には残らなかった……。
――そして……
さらに二年の歳月が流れていった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、アヤネとナギトのエピソードを書いてみました。
次回は、さらに物語が二年後へと進み、
タイトルは「静かな日々 迫る別れ」です。
引き続き、お付き合いいただけましたら幸いです。




