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ターマハラ ― 人間性への回帰 ―  作者: クリコミ
第二章 ターマハラ戦記
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プロローグ

優しい女性の声で「ターマハラの唄」の歌が流れている。


その女性の歌声を聴くととても安心した。


しかし、その歌は突然止んだ。


歌声の主が温かい声で語りかけてくる。


「ナギちゃん……ナギちゃん……起きて……」


「うぅ……まだ眠たい……」


安心しきった、甘えるような声でナギトは応えた。


「起きてちょうだい……私の可愛い坊や……」


その声は、どこまでも温かかった。


――夢だった。


「……やっと起きましたか、ナギト」


目を開けると、そこにはアヤネがいた。

穏やかな微笑みを浮かべている。


「女王陛下……」


ナギトは驚き、身を起こそうとして――


「……っ」


頭に鋭い痛みが走った。


「そのまま安静にしていて」


アヤネは静かに言った。


「生体鎧での戦闘中に負傷したの。

運ばれてきた時には、意識がなかったわ……」


「そうだったんですか……

……あまり覚えていません……」


「いいのよ。無理に思い出さなくて」


「安静にしていれば……いずれ、少しずつ戻るかもしれないわ」


少し間を置いて、アヤネは柔らかく微笑んだ。


「それはそうと……今は二人きりよ」


「“女王”ではなく……“お母さん”と呼んでくれてもいいかしら?」


「……お母さん……」


「ふふ……ありがとう」


アヤネは、どこか懐かしそうに目を細めた。


「ナギちゃん……こうして、あなたとゆっくり話す時間は、これまでほとんどなかったわね」


「本当は……家族の時間を、もっと大切にするべきだった」


「だから今、話しておきたいことがたくさんあるの」


少し表情を引き締め、アヤネは続けた。


「まず……あなたの“血筋”について」


「あなたは――ブ国の王太子なの」


ナギトは言葉を失ったが、何も言わず、ただ耳を傾けていた。


「あなたのお父上とお母上は、ブ国出身の王族同士」


「お父上の名はトノジ」

「お母上の名はトノベ」


「二人とも……私の、遠い知己だったの」


「彼らはヨミ国の統治に関わっていたけれど……反乱が起きた」


「トノベだけが脱出し、赤子のあなたを連れてターマハラまで逃げてきたの」


「そしてトノベは私の屋敷の前にあなたを置いて去っていった….そして….」


アヤネは一瞬、言葉を選ぶように視線を落とした。


「トノベは、その後不法侵入として政府に拘束された」


「けれど、すでに衰弱しきっていて……助けることはできなかった」


「そのまま……静かに息を引き取ったわ」


ナギトの胸が締めつけられた。


「それでね……」


アヤネは続けた。


「トノベの“記憶”を、私に移植したの」


「それは、彼女自身の希望だった」


「誤解しないでちょうだい。

記憶の移植は、人格を引き継ぐものではないわ」


「でも……記憶というのは不思議なもので」


「彼女の想いに近い感情が、私の中で芽生えているのも……事実」


「だから私は知っているの」


「あなたが、どれほど深く愛されて生まれてきたかを」


アヤネは、まっすぐにナギトを見つめた。


「ナギちゃん……あなたは、間違いなく“愛されて”生まれた子よ」


「そして私は……本当の我が子のように、あなたを愛している」


その言葉に、ナギトの目から涙が溢れた。


「……それでね」


アヤネは優しく言った。


「あなたの“六歳までの記憶”を、返すわ」


「次に目覚めた時には……すべて、思い出しているはずよ」


「また……お話ししましょう」


次第に、ナギトの意識は遠のいていった。


「ナミカを……よろしくね……」


その声を最後に、ナギトは深い眠りへと落ちていった。

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