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ターマハラ ― 人間性への回帰 ―  作者: クリコミ
第一章 ターマハラの神憶
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第四十二段 摂政の演説

女王の間。


女王と重臣たちが見守る中、

摂政ナミカは女王の前に立ち、演説文と返答文の作成を進めていた。


巨大なスクリーン。

ナミカが空中で指を動かすたび、文字が高速で並んでいく。

身振りがそのまま入力となり、文書は次々と形を成していった。


時折、女王の声が入る。


「その一文はこう修正なさい」


「はい……」


静寂の中、ただ文字が生まれる音だけが響いていた。


その時。


親衛隊が駆け込む。


「続報です。

第三世界外衛星タカギに対し、ヨモツクニ同盟が核ミサイル攻撃を実施しました!」


一瞬、空気が凍る。


女王はゆっくりと目を細めた。


「……核か」


「……着弾数は?」


「迎撃は成功多数。

しかし――八発が都市部に着弾」


女王は、表情ひとつ変えなかった。


「……意外に少ないな」


「核を温存しているか……」


その声は、静かだったが鋭かった。


ナミカは手を止めず、文書を完成させる。


「女王様。回答文が完成しました。ご確認を」


女王は一読し、頷く。


「これでよい」


電子署名が走る。


「首相。直ちに全世界へ発表を」


「承知いたしました」


首相が文書を受け取り、女王の間を退出する。


ナミカは続けて演説文の作成に入った。


その最中、再び報告が入る。


「カムツキ先遣艦隊、交戦準備完了」


女王は即座に命じる。


「カムツキは先遣隊を投入。

タカギを失うな。時間を稼げ」


「タカギ守備艦隊は防衛に徹せよ。

決して前へ出るな」


「ターマハラ本隊は――」


女王は玉座から立ち上がる。


「カガセオ大将軍が直率する。

全艦、出立準備」


「合流次第、決戦に入る」


重臣たちは一斉に頭を下げる。


「はっ!」


ナミカは最後の一文を打ち終えた。


「女王様。演説文、完成しました」


「よろしい。摂政は直ちに演説準備へ」


「はい。承知しました」


女王の間を出る直前、

ナミカは小さく胸の奥で呟いた。


(ナギト……早く会いたい)


だがその瞳は、もう揺れていなかった。


摂政ナミカは、戦時の王都へ歩き出す。


演説会場へ向かうため、

ナミカは女王の間を出た。


宮中の長い回廊を早足で進んでいたその時――

曲がり角の先に、軍服姿のナギトが現れた。


「……ナギト少尉!」


思わず、声が大きくなる。


「摂政様!」


二人は立ち止まった。


「大変なことになりました……

私たち、これからだというのに……」


「はい……」


「女王親衛隊は全員宇宙へ上があります」


「えっ……」


ナミカの胸が締めつけられる。


「ナギト……あなたも、戦争へ行くの?」


「はい」


静かな、揺るがぬ返答。


「そんな……」


声が震えた。


「ナギト……もう親衛隊などにいなくていい!

ずっと私の近くにいて……もう離れないで……」


その瞬間――


「ナミカ!」


鋭い声が回廊に響く。


振り向くと、女王アヤネが立っていた。


「演説会場へ急ぎなさい」


「女王陛下……!」


ナミカは必死に訴える。


「ナギトの任を解いてください!

もう親衛隊に所属する必要はないでしょう!」


アヤネはため息をつく。


「何を言っているの……」


そして静かに告げた。


「私も宇宙へ行くのよ。

だから女王親衛隊も宇宙へ上がる。わかっているわね?」


「あなたも当然行くのよ。

むしろ、宇宙へ上がるのが遅いくらい」


ナミカは言葉を失った。


アヤネは視線をナギトへ移す。


「親衛隊は女王艦に配属される。

心配せずとも、少尉にはすぐ会える」


「ナギト少尉。すまなかったな。急ぎ準備を」


「はっ……女王陛下! 摂政様! 後ほど!」


ナギトは名残惜しそうに一礼し、走り去っていった。



残された二人。


ナミカの瞳が揺れる。


「ナミカ……

王太子を死なせはしないわ」


アヤネの声は優しかった。


「だが、経験を積むことも必要なこと。

あなたは私から学ばなければならない」


「……戦争ですよ……

死んだら終わりです……」


「怖いのはわかるわ」


アヤネはそっとナミカの肩に手を置いた。


「でも、一族筆頭として出ないわけにはいかないでしょう?」


「さあ。行きなさい」


「国民が――あなたを待っている」


ナミカは深く息を吸った。


「……はい」


そして背筋を伸ばし、

演説会場へと歩き出した。



そしてヤマト国内では、

摂政による臨時の国民演説の準備が進められていた。


ほどなくして、全国民の電脳メガネに、

政府から一通のメッセージが届く。


──これより、ヤマト国摂政による国民向け演説を行う。

指定された演説会場へ、直ちにログインせよ。


その通知が広がると同時に、

ヤマト国全土は、異様な静けさに包まれていった。


演説会場となる仮想空間には、無数のアバターが集っていた。

老若男女、装着者を投影したアバターたちが、

同じ空間に立ち尽くしている。


その仮想空間の中心には、高台が設けられていた。

高台の上には椅子が置かれ、

そこに摂政ナミカが腰掛けていた。


すでに周囲は、大勢のアバターで埋め尽くされ、

かすかなざわめきが広がっていた。


高台の椅子に座っていたナミカは、ゆっくりと立ち上がり、

演説台の前へと歩み出る。


「皆様、ご静粛に。

おおよそお揃いのようですので、始めさせていただきます」


仮想空間が、静まり返った。


「ヤマト国摂政の、ナミカでございます」


「女王陛下に代わり、摂政として、

皆様方へご報告すべきことがございます」


「何卒、最後までお聞きください」


ナミカは静かに一礼し、正面を向いて演説を始めた。


「すでにご承知の方も多いかと思いますが、

ヨモツクニ同盟はターマハラ連合に対して宣戦布告を行い、

同時に、タカギへの核攻撃を実施しました」


「まず初めに、この攻撃によって失われた多くの命に対し、

深い哀悼の意を表します」


深く一礼し、ナミカは続ける。


「このような暴挙が、

決して許されるべきものでないことは、言うまでもありません……」


「人類は、このターマハラから興りました。

ヨモツクニ同盟諸国にとっても、母なる大地です」


「人類はこれまで、数多くの戦争を経験し、

多くの反省を積み重ねて、今の世界を築いてきました」


「しかし、このような事態に至ってしまった背景には、

かつてターマハラが“人類効率化”と称し、

様々な改革を推し進めてきたことが、

遠因となっているのも事実です」


「ですが、突如戦争を仕掛け、

武力によってねじ伏せ、

核攻撃を行うような行為は、

もはや国家のすることではありません」


「ましてや、人間のすることではありません!」


「ターマハラ連合は、

かつて世界大戦を経て独立を勝ち取ったにもかかわらず、

今度は我々が掲げる

『人間性への回帰』という政策を脅威とみなし、

それを力で封じ込めようとしています」


「彼らは、戦争模擬実験によって勝算が見えれば、

いつでも戦争を選択する。

それこそが、“人類効率化”の成れの果てではないでしょうか」


「ターマハラは、そのような存在になってはなりません」


「そのためにも、まずこの戦争に勝たねばならないのです。

これは、人類存続を懸けた戦いです!」


「我々は、ターマハラ連合の国民を、

そしてヨモツクニ同盟の国民をも救うために、

戦わなければなりません!」


「人間には、他者を慈しむ心があります。

かつては、もっと確かに存在していました」


「この戦争に勝利し、

もう一度、人類にとっての『幸せ』とは何かを、

共に考え直そうではありませんか」


「そのような話し合える社会を、

我々は築くべきだと、私は信じています……」


「以上で、話を終えます」


ナミカは深く一礼し、高台を降りた。


ヤマト国摂政ナミカの演説の後、

ターマハラ連合からヨモツクニ同盟に向けて、

正式な返答文が送付された。


以下全文。


——————

ヨモツクニ同盟に告ぐ。


ターマハラ連合は、

ヨモツクニ同盟による一方的な宣戦布告、

ならびに第三世界外衛星タカギへの核攻撃を受け、

これを断じて容認しない。


よって本日、

ターマハラ連合はヨモツクニ同盟に対し、

正式に宣戦を布告する。


我々はまず、

この攻撃によって失われた、

あまりにも多くの尊い命に対し、

深い哀悼の意を表する。


ヨモツクニ同盟は、

感情を「欠陥」と呼び、

人間性を「排除すべきもの」と定義した。


しかし我々は、

感情こそが人類をここまで導いてきた良心であると考える。


怒りがあったから、暴力を悔いた。

悲しみがあったから、争いを止めようとした。

恐れがあったから、未来を慎重に選ぼうとした。


感情は、

人類が犯してきた過ちを忘れないための、

唯一の仕組みである。


ヨモツクニ同盟が掲げる

「効率」と「最適化」は、

確かに社会を安定させるだろう。


だがそれは、

命を数値に変換し、

意思を演算に置き換え、

選択する権利を奪う安定にすぎない。


それは平和ではない。

停滞であり、沈黙であり、思考の死である。


ターマハラ連合は、

かつて誤った道を歩んだ。


人類効率化の名のもと、

感情を抑え、

個を削り、

合理性のみを追い求めた。


その結果が、

今この戦争の遠因となっていることを、

我々は否定しない。


だからこそ、我々は選び直す。


恐れながらも考え、

迷いながらも選択し、

衝突しながらも対話を続ける道を。


人間であることを、

放棄しない道を。


この戦争は、

復讐のためではない。

支配のためでもない。


人類が再び

「考え、感じ、選ぶ存在」であるための戦いである。


ターマハラ連合は、

自らの過去の過ちを引き受け、

それでもなお未来を諦めない者として、

この戦争に臨む。


我々は戦う。

だが、滅ぼすためではない。


感情を失った世界に、

再び言葉と対話が届くその日まで。


——————


ついに――

ターマハラ連合とヨモツクニ同盟の戦争が勃発した。


後に歴史家が

「第二次世界戦争」

と呼ぶことになる大戦である。


火蓋を切ったのは、ヨモツクニ同盟。

静寂の宇宙に、核の閃光が咲いた。


王都ヘイアン。

演説台に立つナミカ。

宇宙へ上がるナギト。

影で策を巡らすアヤネとカガセオ。


それぞれの想いが、異なる軌道を描きながら――

同じ運命へと収束していく。


ナミカとナギトの未来は、守られるのか。

アヤネと第六世代が果たすべき「役目」とは何か。

アシハラ移住計画は、希望なのだろうか。

そして――

ヨモツカミが真に狙うものとは。


数多の思惑が交錯する中、

戦火はさらに激しさを増していく。


――神話は、ここから再び動き出す。


第一章 完

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。


本エピソードをもって、プロローグで描いたナミカの演説へと物語が接続されます。

ちょうど一か月の連載を経て、第一章を書き終えることができました。

執筆している側としては、正直とても長く感じた章でもあります。


内容はいかがでしたでしょうか。


小説を書くこと自体が今回初めてであり、至らない点や力不足を感じる部分も多々あったと思います。

物語は、書き手が面白いと思っていても、その評価を決めるのは読者の皆さまです。

ですので、もし本作が皆さまの時間の中で、ほんの少しでも暇つぶしや息抜きになっていれば、これ以上嬉しいことはありません。


これにて、第一章は無事完結となります。

このあとエピローグも用意しておりますので、もしご興味を持っていただけましたら、ぜひ覗いてみてください。


引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

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