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ターマハラ ― 人間性への回帰 ―  作者: クリコミ
第一章 ターマハラの神憶
43/46

第四十一段 女王の嘲笑

ヤマト暦2053年。


ついに――

運命の日が訪れた。


ヨモツクニ同盟による宣戦布告文が、

宇宙中継網を通じて、ターマハラ同盟全域に向けて放送されていた。


空間上の巨大スクリーン。

そこに映し出されるのは、ヨミ国の男性の首相テミラであった。


首相は以下全文を読み上げていた。

——————


ターマハラ連合に告ぐ。


我々ヨモツクニ同盟は、

本日をもって、ターマハラ連合に対し、

正式に宣戦を布告する。


この決断は、感情によるものではない。

恐怖によるものでも、憎悪によるものでもない。

すべては、合理的判断の結果である。


ターマハラ連合は、かつて我々と同じ道を歩もうとしていた。

人口統制、感情抑制、人工知能による意思決定。

それらは、人類が数千年にわたる戦争と破壊の歴史から導き出した、

最も成功率の高い生存戦略であった。


しかし、ターマハラはその道を自ら放棄した。


感情を「尊重すべきもの」と称し、

非合理な選択を肯定し、

再び人類を不確実性と混沌へと引き戻そうとしている。


我々は断言する。


感情は、価値ではない。

人間性は、進化の目的ではない。


それらは、

争いを生み、差別を生み、戦争を生み続けてきた

欠陥である。


ヨモツクニ同盟は、

人類が「人間」であることよりも、

存続することを選ぶ。


我々は、感情を制御し、

人口を管理し、

人工知能によって最適な未来を算出する。


そこに自由意志は不要であり、

個人的幸福も必要ない。


必要なのは、

社会全体としての最適解のみである。


ターマハラ連合が掲げる

「人間性への回帰」という思想は、

過去の悲劇を再演する、危険な幻想にすぎない。


それは希望ではない。

退行であり、脅威である。


よって我々は、

ターマハラ連合を

人類存続に対する重大なリスクと認定し、

これを排除する。


この戦争は、侵略ではない。

矯正である。


この戦争は、破壊ではない。

最適化である。


感情にすがる時代は終わった。

人類は、ついに「人間」であることを超える。


——————


読み上げが終わると、

女王アヤネは――微笑んでいた。


そして次の瞬間。


「うふふふっ……あははははっ!」


高く澄んだ笑い声が、女王の間に響いた。


「ヨモツカミに操られている愚かなテミラ…..」


その笑みは、

慈愛でも、喜びでもない。


獲物を追い詰めた捕食者の笑みだった。


ナミカは背筋に、冷たいものが走るのを感じた。


「……女王様……?」


自分の声が震えているのが分かる。


普段の優しい母。

温かく微笑む母。


――その姿は、どこにもなかった。


「カガセオ!」


アヤネは振り返り、楽しげに声を上げる。


「私はやったわ!」


カガセオの方を見て、

まるで長年の願いが叶ったかのように微笑んだ。


「これで……

やっとヨモツクニ同盟を滅ぼせるわね……」


ナミカの息が止まる。


(……えっ?)


戦争が始まる。

それは恐怖のはず。


だが――

母は、歓喜している。


「女王様。おめでとうございます」


無表情のカガセオが一歩前に出て、静かに頭を下げる。


(……おめでとう?)


(戦争が始まるのに……?)


(それに……)


ナミカは違和感に気づく。


(普段、カガセオさんを呼び捨てにすることなんて……ない)


(二人の関係が……いつもと違う)


(まるで……

ずっと前から共にこの瞬間を待っていたような……)


「ヨモツカミ……」


アヤネは巨大モニターを見上げ、低く囁いた。


「今度こそ……貴方を壊してあげる」


「人間を“脅威”と認定した瞬間、

あなたたちは必ずこの行動に出ると分かっていたわ」


「独立を許したのは、慈悲ではない。

時が熟すのを待っていただけ」


「相手が始めた戦争ですもの……

正面から受けて立ちましょう」


「第六世代が犯した最後の罪……

ここで清算するわ」


「はい、女王陛下」


カガセオが淡々と答える。


まるで――

古い契約が、今ようやく発動したかのように。


「カガセオ。

貴方をターマハラ全軍の大将軍に任じます!」


「ヨモツクニ同盟を….討ちなさい!」


「御意」


その瞬間。


(大将軍!そんな….!)


ナミカが前へ踏み出した。


「女王陛下、お待ちください!」


「大将軍の任は令外官りょうげのかん

安易に与えてよい官職ではありません!」


アヤネはゆっくりとナミカを見下ろす。


「……分かっております。それがどうかしましたか? 摂政」


冷たい声。


王と家臣。

母と娘ではない。


「カガセオは先の大戦でも大将軍を務めています。

経験もあり、これ以上の適任はおりません」


(過去の記憶にそんなものはない…..)


「……そんな……

そのような記録は存在しません!」


ナミカの頭に雷が落ちる。


(先の大戦……?)


(記録にない……?)


(……まさか)


(カガセオという名は、偽名……?)


「どうしました? 摂政」


「……いえ。何でもございません」


アヤネは興味を失ったように手を振る。


「カガセオ、行きなさい」


「はっ」


カガセオは何事もなかったかのように退室する。


「摂政。

あなたは宣戦布告への回答文を作りなさい」


「国民向けに演説を行い、士気を高めるのです」


「……承知いたしました……」


ナミカは機械のように答える。


だが心の中は、嵐だった。


(お母さん……)


(あなたは……何をしてきたの?)


(ターマハラとは……何なの?)


(重臣たちは……なぜ誰も驚かない?)


(私の知っているお母さんは……どこにいるの?)


(……ナギト……会いたい)


その時。


宮殿の外へ向かうカガセオの前に、

一人の青年が立っていた。


「ナギト君」


「カガセオさん……!

今、大変なことに……!」


「ああ。

女王親衛隊は全員、宇宙へ上がる」


「準備をしたまえ」


「……は、はい!」


ナギトが敬礼する。


カガセオは、ほんのわずかに微笑んだ。


そして世界は、

本当の戦争へと踏み出した。


ナミカとナギト。

二人の運命もまた、

この戦火の中へ投げ込まれていく。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


本エピソードは、プロローグに描かれた宣戦布告文へと接続する回となります。


ここでは、アヤネの別人格がはっきりと表れましたね。

戦争の只中にあったアヤネは、おそらくこのような在り方だったのでしょう。

非常に冷酷で、感情を切り離した存在として描かれています。


また、この戦争そのものも、ある意味では想定の範囲内だったのかもしれません。

いずれ避けられない戦いであるならば――

「今、この時しかない」と判断した結果だったのでしょう。


その真意や背景についても、

今後あらためて物語の中で語っていければと思います。


引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

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