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ターマハラ ― 人間性への回帰 ―  作者: クリコミ
第一章 ターマハラの神憶
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第三十八段 母と娘の距離

祝宴会の翌日。


ナミカとアヤネは車でどこかに向かっていた。


「ナミカ……この前の祝宴会、どうだったの?」


「えっ」


「ナギトを護衛としてつけたでしょう?」


「特に何も……ありません….」


「そうなの?

あれほど私の前で『ナギトが欲しい』と喚いていたじゃない?」


「ナギトがせっかく女王直属親衛隊に所属したのに、

あなたは無視して、遠くから見つめているだけ……」


「だから、二人の時間を作ってあげたのよ?」


「お母さん……私は……

女王の内定を手に入れるまで、油断はできないの……」


「内定資格を得るには……

世界予測器と生体鎧艦の習得が必須でしょう?」


「私はそれに集中したいの……

ナギトのことはそれからよ」


「……いい心がけね」


アヤネは話題を切り替えた。


「ナミカ。

これから生体鎧の訓練を私と行います」


「いつもの生体鎧訓練と違う点は、

以前伝えた通り遠隔操作訓練になること」


「視神経を生体鎧と直接接続しない。

遠隔視認で生体鎧を操作する感覚を習得してもらいます」


「この感覚は、世界予測器と生体鎧艦の操作で極めて重要だからね」


「はい。わかりました」


二人は生体鎧の訓練所に到着した。


二人は接続用の特殊な椅子に並んで腰掛け、

訓練所中央に設置された二体の生体鎧へと接続する。


一体はアメノトコタチ。

アヤネの接続機である。


もう一体は、

以前ナギトとの訓練で使用していた純白の生体鎧。


二体を並べると、

ナミカの生体鎧はどこかアメノトコタチと似通っていた。


「ナミカ、何をしているの?……かかっていらっしゃいな」


「はい」


そう言うと、ナミカはアメノトコタチへ攻撃を仕掛けた。

そこから、とてつもなく速い攻防が繰り広げられる。


「初めてにしては、まぁまぁね」


「でも……」


アメノトコタチが突然、ナミカの前方へ移動した。

その結果、アメノトコタチの後ろ姿が壁となり、ナミカの生体鎧は視界から完全に消えた。


次の瞬間、アメノトコタチの攻撃が放たれる。


「……くっ」


ナミカは苦戦し、ついには生体鎧が地に倒れ伏した。


「どうしたの?」


「こういう戦闘になることは、当然想定していましたよね?

この程度では、女王の内定は得られませんよ?」


「わかっています!もう一度お願いします!」


何度繰り返しても結果は同じだった。

アヤネは立体構造を巧みに利用し、視覚の死角から攻撃を仕掛けてくる。

まったく歯が立たない。


今度はナミカが、先ほどのアメノトコタチと同じ戦法を取り、うまく回り込むことに成功した。

しかし、それでも攻撃は届かない。

見えていないはずなのに、すべて見透かされているかのようだった。


ナミカはふと、アヤネの顔を盗み見る。


アヤネは目を閉じていた。


「……えっ」


「どうしたの、ナミカ?」


「なんで……目を閉じているの?お母さん……」


「……」


アヤネはゆっくりと目を開けた。


「当然のことでしょう?この戦いにおいては。」


「そして、あなたはまた私に問いを投げた……」


「ナギトの時もそう……少し甘く育てすぎたのかしら?」


「それでは女王の内定は与えられないわよ」


「答えを簡単に求めようとするする癖。やめなさい。

ほとんどの事象には明確な答えなど存在しないのだから。」


「それは良いとして――

あなたは、この戦いの本質を理解していない。」


「見えないものを“見えるようになる”こと。

それがこの訓練の趣旨よ。」


「あなたは目を閉じる必要はない。

まず、頭の中で見えない部分を補い、想像力の精度を高めなさい。」


「そして状況を一つに絞れない場合は、

必ず複数のパターンを想定すること。」


「パターン生成が困難だと感じたら、

攻めるのではなく、距離を取ることに集中しなさい。」


「それでは、もう一度」


訓練はしばらく続いた。

遠くからカガセオが、その様子を静かに見守っていた。


何度挑んでもアヤネには届かない。

それどころか、底知れぬ実力を見せつけられ、ナミカは意気消沈していく。


「……こんなはずじゃ……」


通常の生体鎧戦とは、まるで別物だった。

ナミカは動揺していた。


その心には、幼い頃の記憶が蘇る。

優しかった母。

一緒に散歩した日々。

海へ出かけた思い出。


あまりにも今のアヤネは違っていた。

まるで、母が遠くへ行ってしまったようだった。

そして今、隣にいるのは――ヤマト国の女王だった。


訓練が終了する。


ナミカはすっかり自信を失っていた。


「……私は、必要なの?」


その問いに、ついにアヤネの堪忍袋が切れた。


パァンと、ナミカの頬が強く打たれる。


「そんな意味のない質問に、答える気はありません!」


「それより――

ナギトが欲しいのでしょう?

だったら、私から奪ってみせなさい」


「じゃあ……なんで私を産んだの?」


「あなたは!私とオモダルの子です!」


「だから産んだ!」


「愛する者と子をなすのは、古代では当たり前のことだった!

ただ、その小さな幸せくらい、私にもあってよかったはずでしょう?」


「こんな私でも、幸せになる権利はあると思った……」


「私は……

古代の人々が当たり前に享受していた“普通の幸せ”が欲しいだけ。」


ナミカの方を優しく見つめる。


「昔はもっと厳しかった。

先人たちは容赦などしなかった」


「戦争を繰り返し、地上都市は壊滅し、

兵器は殺傷能力を高めるために無慈悲に改良され続けた。」


「それが、私が歩いてきた道。

過去を選ぶことは決してできない」


「この程度で根を上げるの?

あなたの置かれている状況は、過去の私よりずっと恵まれているわ」


「私から一本だけ取れればいい。

それ以上は望まない」


「それが内定の条件よ」


「……!?」


「世界予測器と生体鎧艦の習得は、

これができれば難しくない。」


「明日から、この訓練を続けるわよ」


「今日は休みなさい。

御所へ戻るわよ。」


――その瞬間。


ナミカの前に、巨大な壁が現れた。

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