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ターマハラ ― 人間性への回帰 ―  作者: クリコミ
第一章 ターマハラの神憶
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第三十六段 王都ヘイアン

ヤマト暦2050年――


ナギトは大学を卒業した。

二十歳になっていた。


荷物は少なかった。

それでも、四年間暮らした寮の部屋を見渡すと、胸の奥がわずかに締めつけられる。


(大学四年間……色々あったな……)

(この部屋を出ていくのか……)


名残惜しさを押し込み、

ナギトは扉を静かに閉めた。


そして寮を後にする。



アスカ空港から、

首都ヘイアンへの直行便が出ていた。


事前に予約していた便に乗り込み、

ナギトは窓際の席に腰を下ろす。


機体が浮上し、

地上都市アスカが遠ざかっていく。


(……本当に、新しい人生が始まるんだ)



ヘイアン地上空港に到着すると、

ナギトは地下へと続く巨大エレベーターへ乗り込んだ。


静かに下降していく箱の中で、

耳がわずかに詰まる感覚がする。


やがて――


目の前に、

巨大な空間が開けた。


王都ヘイアン。


地下に広がるとは思えぬほどの壮大な都市。

人工の太陽光が空を照らし、

白い建造物が整然と並び、

澄んだ風が吹き抜けていた。


(これが……王都……)

(この空間を造るのに、どれほどの年月と労力が費やされたのだろう)


しばし、言葉を失う。



エレベーターを降りると、

無数の人々が行き交っていた。


電脳メガネに表示されたナビに従い、

ナギトは軍事大学へと向かう。


(……ここか)


受付で手続きを済ませ、

施設の奥へ進む。


宿舎の部屋へ案内され、

扉を開ける。


簡素だが整った室内。

必要最低限の家具。


(ここで、三ヶ月間寝泊まりするのか……)


研修は半年間。


最初の三ヶ月は、

王都ヘイアンで軍の基礎知識を叩き込まれる。


そして残りの三ヶ月は、

宇宙へ上がり、生体鎧の実地訓練。


本当の戦士になるための道。


ナギトは支給された軍服に袖を通す。


鏡に映る自分は、

もう学生ではなかった。


研修期間中は、

外出時も含め常に軍服着用が義務付けられている。


規則正しい生活。

厳格な訓練。

自由はほとんどない。


だが――


(ここまで来たんだ)


(必ず強くなる)


(そして……またナミカさんに会う)


ナギトの胸に、

静かに新たな決意が灯った。



王都での研修期間中、ある休日。


ナギトはいつも通り目を覚ました。

だが、その朝は違っていた。


(……何かに呼ばれている?)

(以前にもあった……あの感覚……)


導かれるように、ナギトは王都の街へ出た。


階段を登る。

路地裏を抜ける。

人通りのない道を進み、さらに階段を登る。


その途中――

頭の奥に、女性の声が響いた。


『喫茶店を横切って、また階段を登りなさい。

まっすぐ進んで、そこを右。

突き当たりを左へ……』


ナギトは無意識に足を運ばせる。


やがて――

視界が開けた。


高台の広場。

王都を一望できる場所。

そして、その景色を望むカフェのテラス席。


そこに、一人の女性が座っていた。


長い黒髪。

静かな微笑。

そして――ナミカに酷似した横顔。


「ここからの景色は、いつ見ても綺麗ね……」


女性が言った。


「どうしたの?

こちらへいらっしゃい」


ナギトはゆっくりと近づく。


「あら、軍服が似合ってらっしゃる」

ナギトはそう言われると少し恥ずかしかった。


女性は楽しげに微笑む。


「……私のこと、もう分かっているのでしょう?」


ナギトは息を呑む。


「ナミカさんの……お母様……?」


「そう。アヤネよ」


その声は、柔らかく、しかし揺るぎなかった。


「これで三度目ね。

アスカで一度。

フクトで二度。

そして――三度目は、王都ヘイアン」


「ようこそ、王都へ」


女性は静かに立ち上がり、優雅に一礼する。


「改めまして――

本当の名はアヤカシコネ。

ヤマト国の女王を務めております」


「ナギトさん。

あなたを待っていました。ずっと……」


「……女王、陛下……」


ナギトは言葉を失った。


女王は穏やかに笑う。


「“アヤネ”とお呼びなさい。

そして本当の名は、決して他言してはいけませんよ?」


「驚いたでしょう?

でも普通にしていてください。

周囲に怪しまれてしまいますから」


そう言って、女王は景色へ視線を戻す。


「それで……どうかしら。王都は?」


ナギトも街を見渡す。


「……はい。

ずっとアスカで育ちましたから、とても新鮮です。

地下とは思えないほど、美しい街ですね」


「ええ。

この地下世界は、かつて五王国が争い、地上が住めなくなった末に、祖先たちが切り拓いた場所なの」


「せっかくです。

存分に堪能していきなさい」


「……はい」


ナギトの胸に、複雑な感情が渦巻く。


(この方が……自分を育ててくれた人……)


女王はふと、こちらを見た。


「私を警戒しているかしら?」


「いえ……そういうわけでは……」


「そう。なら良いわ」


そして、静かに問いかける。


「……まだ、ナミカのことを想っているの?」


ナギトは迷いなく答えた。


「はい。

そのために、ここまで来ました」


女王は満足げに微笑む。


「そうね。

あなたは言葉だけでなく、行動で示してきた」


「世界大会――見事だったわ。

私の願いを叶えてくれて、本当にありがとう」


女王は、深く一礼した。


「正直に言えば……

あの願いは、達成できないと思っていたの。

運が良くても、届かない場所だと」


「でも、あなたはやり遂げた。

私の想像を超えたわ」


「……ありがとうございます」


「カガセオさんから聞きました」


「王直属親衛隊への入隊希望――

本来なら、厳重な身辺調査が必要です」


「でも――

あなたは例外よ。

私が許可を出しておきました」


ナギトは目を見開いた。


「話は以上です」


女王は立ち上がった。


「それじゃあ……頑張りなさい。ナギト」


その背中が去ろうとした瞬間――


ナギトが声を上げた。


「……待ってください!」


「お母さん!」


女王の足が止まる。


「本当は……四回目ですよね?」


「アスカ第一学校の卒業式の日。

桜の木の下で……遠くから見ていたのは、お母さんだったでしょう?」


女王は振り返ららず進んで行った。


その姿をナギトは見つめていた。


そして、振り返り静かに言った。


「……まだ“お母さん”と呼んでくれるのね。ナギちゃん」


その声は、女王ではなく――

確かに、母の声だった。


「ありがとう」


「また……お会いしましょう」


そしてアヤネは、柔らかな微笑みを残し、王都の光の中へと去っていった。

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