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ターマハラ ― 人間性への回帰 ―  作者: クリコミ
第一章 ターマハラの神憶
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第三十三段 摂政就任

ナミカは政府専用機でナニワを離れる際、

専用機の窓から、浜辺に立ち尽くすナギトの姿をかすかに視認できた。


(ナギトさん……ごめんね……)


「ナミカ様、明日のスケジュールなのですが……」

政府の役人が話しかけてくる。


「すみません。少しの間、一人にしていただけませんか?」


「資料なら、後で目を通しておきますので……」


「かしこまりました。失礼いたします」


そう言うと、政府の役人は静かにその場を離れた。


ナミカは、

自分がナギトにキスしてしまったことが、まだ理解できなかった。


だが、後悔はしていなかった。


自分に真っ直ぐ想いをぶつけてくるナギトが、

どうしようもなく愛おしく思えてしまったからだ。


(本当は決別するために、覚悟して会ったはずなのに……

どうして、あんな展開になってしまうの?)


(意味がわからない……)


(ナギトさんのことになると、

自分が自分ではなくなってしまう……)


(本当に……なんとかしないと……)


ナミカの心臓は、

ドクン、ドクンと高鳴り続けていた。


(でも、取り残されたナギトさんは……どうなるの?)


(ナギトさん……ナギトさん……

心配で、胸が壊れそう……会いたい…..)


(どうしよう……本当にどうしよう……

ナギトさんに何かあったら……)


(でも、明日の就任式に集中しないと……)


(でもどうしたらいいの?

誰か助けて……)


(……とりあえず、明日お母さんに相談しよう……)



その日の夜。

ナミカの摂政就任は、電脳ニュース上で大きく報じられていた。


ナギトは帰宅しており、

そのニュースを無表情のまま眺めていた。


だが、その心は空っぽだった。


ただ――

あのキスの感触だけが、何度も思い出されていた。



翌日、早朝――


ナミカは首都の施設内、

静寂に包まれた一室へと案内されていた。


部屋の中では、

伝統的な儀礼衣装を纏うための支度が、滞りなく進められていた。


十二単。

ターマハラ王家にのみ許される、古式ゆかしい正装である。


数人の侍女が、黙々とナミカの身支度を整えていた。


鏡に映る自分の姿。

赤を基調とした重ね衣の上に、

伝説の鳥『鳳凰』が金糸で繊細に刺繍されている。


伝統衣装を纏った自分。

そこに映っているのは――

もう自由を持たない未来の自分だった。


「とても美しゅうございます。ナミカ様」


侍女の声は優しい。

だが、その言葉はナミカの心に届かなかった。


「ありがとうございます……」


それは、ただの反射的な返答だった。


支度が終わり、しばらくして。


「ナミカ様。お時間でございます。」


「わかりました。すぐに向かいます。」


ナミカが建物の外へ出ると、

まっすぐに伸びる大路が一本、御所へと続いていた。


その先には、

白く長い石段――王宮へ至る“天階”がそびえている。


ナミカは一人、静かにその階段へ向かって歩き出した。


その姿は、

ターマハラ全土、そして同盟諸国へ向けて全国中継されていた。


沿道には人々が溢れ、

縁側や屋根の上まで埋め尽くしている。


様々な声が湧き上がる。


「なんて美しい……」

「あれがナミカ様……」

「新たなる摂政様だ……」


長い階段を一段、また一段と登る。


やがてナミカは御所の敷地へ入った。


広大な庭園。

その縁側には、黒衣を纏った貴族たちが一列に並んでいた。


皆、頭を垂れ、沈黙のまま新たな時代を迎えようとしている。


御所の奥。

高御座には女王が鎮座している。


だが、その御姿は薄い御簾の向こうに隠され、直接見ることは許されない。


高御座の傍らに立つ、

最高位の大臣が、厳かに宣言を読み上げた。


「――ここに宣言する。」


「ナミカを、女王陛下の摂政に任ずる。」


そしてその返答として、

ナミカは大きく息を吸い、澄んだ声で宣言した。


「摂政ナミカ!ターマハラのために、この身を捧げて励みます!」


その声が御所に響いた瞬間、

新たな時代の幕が、静かに、しかし確かに上がった。



摂政とは、本来、

国王あるいは女王が幼少、または政務不能の際に、その代役として政を執る者である。


だが今回は、

女王の体調悪化により、臨時に設けられた特例の職であった。


そして――

摂政の言葉は、すなわち女王の言葉と同義である。



就任式後。

国中は、摂政の最初の演説を待ち望んでいた。


広場には人が溢れ、

電脳空間にも無数の視聴者が集まっていた。


ターマハラ全土が、彼女の声を待っていた。


ナミカは、演説台の前に立つ。

電脳空間でもナミカの姿が映し出せれていた。


十二単が風に揺れる。


そして――


「ターマハラ、そしてヤマトの国民の皆様。

摂政ナミカでございます。」


「この度、女王陛下の御命により、摂政の職を拝命いたしました。」


「私は、女王陛下がこれまで進めてこられた政策――

『人間性への回帰』を、さらに推し進めてまいります。」


「なぜ、我々は生まれてきたのでしょうか。」


「なぜ、人は人を愛さなくなってしまったのでしょうか。」


「合理性を追い求めるあまり、

人間が人間として失ってきたものは、あまりにも多い。」


「自由。情緒。愛。」


「私は、それらが本来どれほど尊いものかを知っています。」


「私は天然遺伝子の者です。

そして、地上都市アスカで生まれ育ちました。」


「だからこそ、皆様にも感じていただきたいのです。」


「この演説を聞いている多くの方は、

まだこの問題に強い関心を持っていないかもしれません。」


「しかし、これだけは断言できます。」


「これらを失い続けた先に待つ未来は、

“機械が稼働するだけの世界”と変わらない。」


「私は、ターマハラをそのような国にはしたくありません。」


「ターマハラは、違う道を歩みます。

新しい人間の時代を切り拓きます。」


「私は、次世代のために、

この命を捧げる覚悟で摂政の職をお受けしました。」


「今を生きる国民の皆様と共に歩めば、

それは必ず成し遂げられると信じています。」


「どうか、皆様のお力をお貸しください。」


「未来のターマハラのために!」



演説が終わった瞬間――


国中に、大きな歓声と拍手が湧き上がった。


だがその裏で、

一人の女性が、自らの自由に別れを告げたことを、

知る者はまだ誰もいなかった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


このエピソードで、ついにプロローグの摂政ナミカの伏線が回収されました。

内心はナギトのことばかり気になっています。

それでも律儀に演説までこなすナミカ。

本当に健気ですね。


もしよろしければ、

評価やブックマークをしていただけると励みになります。


引き続きよろしくお願いいたします。

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